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第7章 研究室と亜人大陸
18 【スパニの攻撃】
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<<スパニ軍第3師団師団長ハリス視点>>
わしの名はハリス、栄光あるスパニ軍第3師団を預かる指揮官だ。
我が一族は代々、軍の要職を歴任しスパニでも有数の軍閥だ。
その中でもわたしは稀代の指揮官として将来を有望されている。
現在、我が第3師団は、エルフの国ヤライに侵攻中だ。
我が国とヤライの国境付近であたらしい鉱山が見つかったと聞く。
その鉱山の奪取が目的だ。
ヤライの地はロンドーも狙っている。
今回の侵攻は鉱山資源の獲得ももちろんだが、出来るだけ深く入り込みロンドーが介入する前にヤライの所有を主張するとともに、対ロンドーを見据えた陣地構築も戦略の中にある。
この戦が成功すればわたしの軍内での地位も確固たるものとなり、軍全体の掌握も難しくないだろう。
あり得ないことだとは思うが、万が一敗北するようなことがあれば、それは即わたしの失脚となる可能性もある。
なにせ、我が一族内でもわたしの地位を狙っている奴等が沢山いるのだ。
力こそ全ての獣人族のスパニでは当たり前のことであり、わたしもそうして地位を獲得してきたのだから。
先に放ってある斥候の報せでは、国境線に巨大な土壁が築かれているという。
ふっ、弱いくせに細やかな抵抗というものか。
面倒ではあるが、向こうの守兵は高々2000だ。
こちらの20000が力押しすれば、あっという間に終わるだろう。
「ハリス様、間もなく国境付近に到着します。」
副官が報告に来た。
わたしは馬車の窓から外を見ると、正面に頑丈そうな土壁がそそり立っている。
あの土壁はちょっと邪魔だな。
しかし象獣人に突撃を繰り返させれば、時間の問題だろう。
象獣人は象を操ることに長けている。
機動性には欠けるが、陣地の構築や、攻城戦には強力な力を発揮する。
「よし、象部隊を先行させ壁の正面を崩してやれ。」
「はっ。象部隊による攻撃を開始させます。」
1000頭近い象が壁に向かっていく。
少し時間は掛かるだろうが、大した問題では無い。
少しづつ削れていく壁を見て敵方の不安は拡がるだろう。
いつものように、命乞いに内通してくる者も出てくるかもしれない。
そうなったら早いのだが。
あまり期待せずに気長に待つとしようか。
この馬車は特別製で、ベッドやリビングも完備されている。
長期滞在でも何の心配もない。
心配するとしたら兵糧だが、ヤライの中心地まで攻める予定で兵站も整備してきた。
長期戦は何の問題もない。
象部隊の攻撃開始から5日経った。
馬車の窓から、壁を見る。
あまり変化が無いように見える。
「副官、象部隊の状況を報告せよ。」
「はっ、壁への攻撃に象部隊を1000投入しました。
しかし、壁の手前に堀が掘られておりまして、象が壁に近づけなかったため、現在堀の埋め立て作業をさせております。」
「堀の埋め立てはどの程度で終わるか?」
「順調に進めば後5日程度で壁への攻撃が始められるかと。」
「他の者達も動員し、3日で終わらせろ。」
「承知しました。」
更に5日経過した。
「副官、まだ壁に異常が見られぬが、どうなっている?
攻撃が始まっているのでは無いのか?」
「それが、堀の埋め立てに苦慮しております。
象に大木や大岩を運ばせ堀を埋めようとしているのですが、象が掘りに近づこうとすると、エルフの精霊魔法でしょうか、イナズマのようなものが象に襲いかかり、象が近づけない有り様です。
今は少し離れた場所まで象で木材や岩を運び、兵が少しづつうめたてている状況です。」
「精霊魔法か、エルフめ弱いくせに小癪な真似を。
そうだ、鳥人部隊に上から攻撃させろ。」
「はっ、承知しました。」
更に5日経過した。
「副官、戦況はどうか?」
「申し訳ありません。
硬直しております。」
「鳥人部隊を投入して壁の上や向こう側を攻撃させているのだろう?」
「攻撃に向かわせておりますが、戦果を挙げることなく撃退されております。
どうやら壁の上から、精霊魔法で火炎攻撃を受けている模様です。」
「エルフの精霊魔法などマヤカシに過ぎん。
少し距離を取れば届かぬだろう。」
「それが、50メートル以上の射程があり、鳥人の飛べる高さを上回っておりまして。」
「ええい、忌々しい。
そうだ、もぐら部隊を使え。
壁の下を掘って進むのだ。」
「はっ、承知しました。」
更に5日経過した。
「副官、戦況はどうか?」
「残念ながらもぐら部隊が壊滅しました。
堀の外側から掘らせたのですが、堀が思いの外に深く、掘らせた穴が掘に横穴を開ける形になりました。
もぐら部隊に水抜き用の水路を掘らせ、堀の水を抜かせましたが、横穴から大量のワニが出て参りまして、もぐら部隊に襲いかかりました。
水死した者、ワニに殺された者を合わせると、もぐら部隊の8割にのぼります。
現在では横穴も埋められて、水位も元通りに戻されております。」
「何をしておるのか。この地に来てから既に20日以上立っておるぞ。
これ以上の遅滞は、わしの戦歴に汚点を付けるものになってしまうでは無いか。
お前の首も無事では済むまい。
お前が先陣に立って、何が何でも戦果を挙げてくるのだ。
手ぶらで帰ってくることは許さん。」
「はっ、命に変えましても。」
10日後、伝令がわしの馬車にやってきた。
「ハリス師団長様、申し上げます。
アスマ将軍以下5000名余、敵との交戦により全滅。
アスマ将軍も討ち死にとのことです。」
「なに、5000だと!!」
5000の兵を失うなど、既に大敗ではないか。
まだ、壁は無傷であるのに。
これは一旦撤退し、戦力強化が必要であるな。
「よし、お前わしの副官になれ。
本日より将軍に任命する。
撤退を開始するぞ。」
「はっ、ありがたき幸せ。
承知しました。撤退開始します。」
本当に使えん奴ばかりだな。
ところでアスマ将軍って誰だったかな?
わしの名はハリス、栄光あるスパニ軍第3師団を預かる指揮官だ。
我が一族は代々、軍の要職を歴任しスパニでも有数の軍閥だ。
その中でもわたしは稀代の指揮官として将来を有望されている。
現在、我が第3師団は、エルフの国ヤライに侵攻中だ。
我が国とヤライの国境付近であたらしい鉱山が見つかったと聞く。
その鉱山の奪取が目的だ。
ヤライの地はロンドーも狙っている。
今回の侵攻は鉱山資源の獲得ももちろんだが、出来るだけ深く入り込みロンドーが介入する前にヤライの所有を主張するとともに、対ロンドーを見据えた陣地構築も戦略の中にある。
この戦が成功すればわたしの軍内での地位も確固たるものとなり、軍全体の掌握も難しくないだろう。
あり得ないことだとは思うが、万が一敗北するようなことがあれば、それは即わたしの失脚となる可能性もある。
なにせ、我が一族内でもわたしの地位を狙っている奴等が沢山いるのだ。
力こそ全ての獣人族のスパニでは当たり前のことであり、わたしもそうして地位を獲得してきたのだから。
先に放ってある斥候の報せでは、国境線に巨大な土壁が築かれているという。
ふっ、弱いくせに細やかな抵抗というものか。
面倒ではあるが、向こうの守兵は高々2000だ。
こちらの20000が力押しすれば、あっという間に終わるだろう。
「ハリス様、間もなく国境付近に到着します。」
副官が報告に来た。
わたしは馬車の窓から外を見ると、正面に頑丈そうな土壁がそそり立っている。
あの土壁はちょっと邪魔だな。
しかし象獣人に突撃を繰り返させれば、時間の問題だろう。
象獣人は象を操ることに長けている。
機動性には欠けるが、陣地の構築や、攻城戦には強力な力を発揮する。
「よし、象部隊を先行させ壁の正面を崩してやれ。」
「はっ。象部隊による攻撃を開始させます。」
1000頭近い象が壁に向かっていく。
少し時間は掛かるだろうが、大した問題では無い。
少しづつ削れていく壁を見て敵方の不安は拡がるだろう。
いつものように、命乞いに内通してくる者も出てくるかもしれない。
そうなったら早いのだが。
あまり期待せずに気長に待つとしようか。
この馬車は特別製で、ベッドやリビングも完備されている。
長期滞在でも何の心配もない。
心配するとしたら兵糧だが、ヤライの中心地まで攻める予定で兵站も整備してきた。
長期戦は何の問題もない。
象部隊の攻撃開始から5日経った。
馬車の窓から、壁を見る。
あまり変化が無いように見える。
「副官、象部隊の状況を報告せよ。」
「はっ、壁への攻撃に象部隊を1000投入しました。
しかし、壁の手前に堀が掘られておりまして、象が壁に近づけなかったため、現在堀の埋め立て作業をさせております。」
「堀の埋め立てはどの程度で終わるか?」
「順調に進めば後5日程度で壁への攻撃が始められるかと。」
「他の者達も動員し、3日で終わらせろ。」
「承知しました。」
更に5日経過した。
「副官、まだ壁に異常が見られぬが、どうなっている?
攻撃が始まっているのでは無いのか?」
「それが、堀の埋め立てに苦慮しております。
象に大木や大岩を運ばせ堀を埋めようとしているのですが、象が掘りに近づこうとすると、エルフの精霊魔法でしょうか、イナズマのようなものが象に襲いかかり、象が近づけない有り様です。
今は少し離れた場所まで象で木材や岩を運び、兵が少しづつうめたてている状況です。」
「精霊魔法か、エルフめ弱いくせに小癪な真似を。
そうだ、鳥人部隊に上から攻撃させろ。」
「はっ、承知しました。」
更に5日経過した。
「副官、戦況はどうか?」
「申し訳ありません。
硬直しております。」
「鳥人部隊を投入して壁の上や向こう側を攻撃させているのだろう?」
「攻撃に向かわせておりますが、戦果を挙げることなく撃退されております。
どうやら壁の上から、精霊魔法で火炎攻撃を受けている模様です。」
「エルフの精霊魔法などマヤカシに過ぎん。
少し距離を取れば届かぬだろう。」
「それが、50メートル以上の射程があり、鳥人の飛べる高さを上回っておりまして。」
「ええい、忌々しい。
そうだ、もぐら部隊を使え。
壁の下を掘って進むのだ。」
「はっ、承知しました。」
更に5日経過した。
「副官、戦況はどうか?」
「残念ながらもぐら部隊が壊滅しました。
堀の外側から掘らせたのですが、堀が思いの外に深く、掘らせた穴が掘に横穴を開ける形になりました。
もぐら部隊に水抜き用の水路を掘らせ、堀の水を抜かせましたが、横穴から大量のワニが出て参りまして、もぐら部隊に襲いかかりました。
水死した者、ワニに殺された者を合わせると、もぐら部隊の8割にのぼります。
現在では横穴も埋められて、水位も元通りに戻されております。」
「何をしておるのか。この地に来てから既に20日以上立っておるぞ。
これ以上の遅滞は、わしの戦歴に汚点を付けるものになってしまうでは無いか。
お前の首も無事では済むまい。
お前が先陣に立って、何が何でも戦果を挙げてくるのだ。
手ぶらで帰ってくることは許さん。」
「はっ、命に変えましても。」
10日後、伝令がわしの馬車にやってきた。
「ハリス師団長様、申し上げます。
アスマ将軍以下5000名余、敵との交戦により全滅。
アスマ将軍も討ち死にとのことです。」
「なに、5000だと!!」
5000の兵を失うなど、既に大敗ではないか。
まだ、壁は無傷であるのに。
これは一旦撤退し、戦力強化が必要であるな。
「よし、お前わしの副官になれ。
本日より将軍に任命する。
撤退を開始するぞ。」
「はっ、ありがたき幸せ。
承知しました。撤退開始します。」
本当に使えん奴ばかりだな。
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