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第7章 研究室と亜人大陸

16 【ルソン、新当主となる】

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<<ルソンの兄ドイン視点>>
「ドイン様、敵襲です。すぐにお逃げ下さい!!」

執事のアルーが叫ぶ声で目覚めた俺は、屋敷中に響き渡る悲鳴や怒号で、我に返った。

チッ、リュウの奴か。

しばらく、均衡状態が続いておったから油断しておったわ。

しかし何故今なのか?

ヤコール家とヤシール家が直接衝突している今、俺とリュウに残っている戦力など、たかが知れている。

そんなもので俺を殺せるとでも思ったか?

俺は装備を着けて部屋の外に出た。

廊下には屋敷の使用人達が倒れている。

俺は怒号の少ない裏口に向かって歩き出した。

裏口では、アルーが血塗れになって剣を振るっていた。

「アルー、加勢するぞ。」

「ドイン様、多勢に無勢です。
わたしがここを抑えている間にお逃げ下さい!!」

アルーの鬼気迫る声に、ただならぬものを感じ、わたしはアルーの脇を抜けて外に出た。

数人の敵兵を倒して庭に進むと、数百人は居ろう兵に囲まれていることに気付いた。

「馬鹿な。なぜこれほどの兵がいるのか?」

俺はその圧倒的な戦力差に、こぶしをキツく握りながらも、自らの敗北を悟った。

「わかった、リュウ。俺の負けだ。
すぐに戦闘を止めさせろ。」

俺は武器を遠くに投げ、その場に胡座をかいて座り込んだ。

兵の1人が縄を持って来て俺をキツく縛る。

戦闘の方も静かになり、アルーや参謀長等の主なった家臣が、縄で縛られた状態で、俺の隣に並ぶ。

「リュウどこだ、出て来い。
俺の負けだ。」

…………

リュウの奴、出て来ない気か?

あいつの性格なら、威張りくさった態度で大笑いしながら出て来そうなものだが?

「あ、兄貴!!」

声の方を見ると縄で縛られたリュウがそこにいた。

リュウじゃない?

一体誰が?

「兄上、リュウ、久しぶりだね。」

「「ルソン(兄さん)!!」」

「ルソン、こんなことをしてヤコール家とヤシール家が黙っていると思うのか!!」

「兄上、両家共既に抑えてある。
今ヤコブは、ロンドーやスパニに狙われている。
身内でいがみあっている場合じゃないんだよ。」


「そんなことは分かっている!

そのためにも、早く決着を着けようとしていたんだ。」

「そんなことを言っている間にヤライが攻められたらどうするんだ!!」


…………………


わたしの怒りのこもった言葉に、2人は黙ってしまった。

「わたしが、族長を継ぎます。
2人には、わたしのサポートをして欲しい。」

「…………わかった、ルソン。俺はお前を支えて行くことを誓おう。」

「兄さん、僕も誓うよ。

でも兄さん、ヤコール家とヤシール家が、大人しく兄さんに忠誠を誓うだろうか?」

「それについては、今頃ヒラが上手くやってくれているはずだ。

わたし達がしっかり纏まれば問題無いと思う。」

「分かった。新族長、よろしく頼む。」

「兄さん、しっかりサポートしますので、よろしくお願いします。」

こうして、わたしは父のあとを継いで族長となった。



<<ヤーマン家当主ヒラ視点>>
ルソン様が持って来られた魔道具は、素晴らしい成果を挙げ、ヤコール家とヤシール家の当主のみならず、大半の戦力を無力化することに成功した。

しかも、兵を全くと言ってほど失わずにだ。

わたしは、壁の上に上がり下を見下ろす。

「お前は、ヒラじゃないか!
これはお前の仕業か?
まさか、全てお前が仕組んでいたのか?」

「レオ、ビル、よく聞くんだ。
今ここにいるお前達だけでなく、お前達の屋敷も既に抑えた。
同時に、ルソン様がドイン様とリュウ様を抑えている。
お前達は完全に制圧されたのだ。

お前達は今ヤコブ族が、危機的状況にあることを分かっているのか。
ヤライに侵攻しようとしているスパニに対して、ヤライが派兵したら、その隙をついてロンドーがヤライに侵攻するだろう。

大国から2面侵攻を受けたヤライが、どうなるか。
ヤライの降伏後、その軍が次に狙うのはどこか、分かっているのか?」

レオもビルも、その場にいる兵達も皆下を向いている。

「今は、ヤライだけで無く、ヤコブにとっても存亡の危機だ。
今こそ我等がヤコブ家を支えて、この危機を乗り越える時ではないのか!

ルソン様は、この危機を聞き付け、ジャボ大陸から駆けつけて下さった。

さあ、この危機をルソン様を頂点として、ドイン様、リュウ様と我々が力を合わせて乗り切ろうではないか。

お前達のヤコブ家に対する忠誠はルソン様も認めて下さっている。

今後は、ヤコール家とヤシール家、そしてヤーマン家の3家が対等の立場で、ヤコブ家を支えて欲しいと、ルソン様は望んでおられるのだ。」

「………ビル、わたし達が間違っていたようだ。
ヒラの言う通り、俺はルソン様に忠誠を誓い、たとえどんな罰を受けようとも、ヤコブ族のためにこの命を捧げようと思う。」

「レオ、お前ばかりいいカッコするんじゃない。
俺も自らの間違いに気付かなかった馬鹿者だ。
もし許されることならば、俺も命をかけよう。」

「2人共よく分かってくれた。
よし、壁を取り除くから、双方の兵は撤収せよ。
レオとビルは、俺と一緒に城に行くぞ。」



こうして、ヤコブ家の跡目相続に関する争いは収束し、ルソン様を頂点とした新しい体制のもと、これまでよりも強固なヤコブ軍が誕生したのだった。






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