上 下
154 / 382
第7章 研究室と亜人大陸

13 【ヤコブ族の諍い1】

しおりを挟む
<<ルソン視点>>
わたしは40年振りにヤコブに戻って来た。

ヤライの独立から10年の時を経て、大国ロンドーの脅威が去ったのは、ヤライだけではなかった。

我がヤコブもまた、ヤライに駐留するロンドーの脅威に晒されていたのだった。

ヤライの独立はヤコブにとって大きな脅威を除くこととなったが、それは親父の後継争いの始まりでもあった。

親父は強い者を好んだ。
そして3人の息子は、小さな頃から強くなることを望まれた。

我々3人 は、別々の乳母に育てられ、そして乳母の実家が各々の後ろ立てになる。そして最初的に次期族長に選ばれた者の後ろ立てが次の権力者となるのだ。

兄と弟の後ろ立てとなった家は、ヤコブ族内の権力を得ようと必死だった。
兄も弟も自己顕示欲が強かったので、対立は凄まじいものであった。

反面、わたしの後ろ立てであるヤーマン家は、腕力ではなく財力にこだわった。
当然わたしも、財力を得るために必要な知識を身に付けた。

50年前のヤライの独立戦争の時にわたしの戦闘指揮を見た親父は、俺に跡を継がせようと考えていたと後に聞いたが、その頃から、わたしはジャボ大陸で商人として一旗あげようと考えていた。

戦争が終わりヤライが独立して10年、ようやくロンドーの脅威も無くなり、兄と弟の本格的な諍いが始まり出した頃、わたしは20名のヤコブ族の民と共にジャボ大陸に渡った。

ジャボ大陸に渡ってからは、一緒に渡った仲間達と共にサイカーの街を拠点に、貿易商を始めた。
商売は順調に規模を広げて、我々はエゴシャウという自治組織を作り上げて、サイカーにおける確固たる地位を築くことが出来た。

サイカーに来てからも定期的にヤーマン家には便りを出している。

ヤーマン家は、亜人大陸では有数の財閥ではあるが、ジャボ大陸と亜人大陸では、文明や商規模が雲泥の差だ。

ヤーマン家を発展させることが、わたしの亜人大陸における地位を作ることとなるので、ジャボ大陸で得た情報は、ヤーマン家と父に送っていたのだ。

ヤーマン家はわたしから入手した情報を元に亜人大陸でも有数の商家にのし上がった。
その力は数国の軍隊を動かせるほど絶大になっている。

ただ、ヤーマンの現当主ヒラは慎重な男だ。
裏で手を回しているようなことは一切表に出さず、兄も弟も全く気付いていない。

そればかりか、わたしが後継者争いを脱落したと思っている兄や弟は、このヤーマンの潤沢な資金を何とか自分達に利用できないかと画策しており、彼らの手の内はヒラに筒抜けになっている状態だ。

もちろん、わたしはヤーマンに入ってくる情報はほぼ入手しており、兄や弟の状況も把握している。

わたしは積極的に後継者になる気はない。むしろ、ジャボ大陸でこのまま商いを続けたいのが本音だ。

だが族長の息子として、今の内乱状態を放置するわけにはいかない。
もし、このまま放置すれば今度はヤコブがロンドー等の大国に支配される番だろう。


わたしは、ヤコブのヒラを訪ねた。

「これはルソン様、ご無沙汰いたしております。
こちらにお越しになるのは存じておりましたが、思ったよりもお早いお付きで驚きました。」

「ヒラ殿、ご無沙汰です。実はカトウ公爵に魔道具で転送してもらったのですよ。
内密にお願いしますね。」

「そうでしたか。手紙にありました救国の英雄様ですね。
一度お会いしたいものです。」

「今ヤライにおられるので、落ち着きましたらご紹介しますよ。」

「楽しみにいたしております。

ところで、兄上様や弟君のところには顔を出されましたか?」

「いえ、出していません。こんなに早く着くとは思っていないでしょうし、現状把握をするのが先決だと思いましたからな。」

「それは僥倖です。お二方共、現在戦力を集めておられます。
わたしのところにも軍資金を無心に来られていますが、双方共にのらりくらりと躱しています。

わたしの私見では、衝突も近いのではないでしょうか。」

「困ったものだ。ところで、双方を抑えるとして兵力はどの程度準備できますか?」

「およそ6000は。

現在の戦力は兄上様が1800や弟君1500ですから、双方を同時に相手しても勝てるだけの戦力を用意しております。

ただ、ヤコブの平定が終わるまで、ヤライが持つかどうかが心配です。」

「ヤライについては、カトウ公爵がスパニ対策として防衛ラインを構築されました。
まず、スパニに落とすことは不可能でしょう。
スパニが失敗すれば、ロンドーは十中八九動かないでしょうし。」

「そうでしたか。それならそちらは気にせず、ヤコブ族内に集中できます。」

「ヒラ殿、わたしは6000の兵を動かさずに平定したいと考えています。
兵による蹂躙は、ヤコブの国力をつぶすだけで何の益もありません。

できれば兄や弟が招集している兵もなるべく温存しておきたいと思います。
何かアイデアをお持ちじゃないですかな?」

わたしの質問にヒラ殿は薄笑いを浮かべる。

「ルソン様、もう既にお考えがあるのでしょう。わたしもいくつか考えておりますので、擦り合わせをいたしましょうか。」


わたし達は、そのまま地下室へと降りて行った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

捨てられ従魔とゆる暮らし

KUZUME
ファンタジー
旧題:捨てられ従魔の保護施設! 冒険者として、運送業者として、日々の生活に職業として溶け込む従魔術師。 けれど、世間では様々な理由で飼育しきれなくなった従魔を身勝手に放置していく問題に悩まされていた。 そんな時、従魔術師達の間である噂が流れる。 クリノリン王国、南の田舎地方──の、ルルビ村の東の外れ。 一風変わった造りの家には、とある変わった従魔術師が酔狂にも捨てられた従魔を引き取って暮らしているという。 ─魔物を飼うなら最後まで責任持て! ─正しい知識と計画性! ─うちは、便利屋じゃなぁぁぁい! 今日もルルビ村の東の外れの家では、とある従魔術師の叫びと多種多様な魔物達の鳴き声がぎゃあぎゃあと元気良く響き渡る。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺若葉
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...