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第5章 新しい生活の始まり

5 【それぞれの想い2】

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<<カトウ運輸総務課マリヤ視点>>
総務課は昨日から大忙しです。
会頭の婚約祝いと公爵位叙爵のお祝い準備のためです。

会頭が誰かを知らず、ひと目見たい者や、婚約者があの聖女様だということで、本社及びナーラ物流センターのほとんどの従業員である3000人が参加を希望しています。

おそらく家族も入れると5000人くらいが参加すると思われます。

会頭からの依頼で、先日の隕石騒動の祝賀会を兼ねることになったので、体育館と運動場はお祭り会場の様相です。

大量の食事と酒は会社持ちで手配しました。と言っても物流センター内にある備蓄分を出しただけですが。

以前、タカツー領で飢饉があった時、大量の食糧が必要となったのを教訓として、絶えず中規模の領地を1ヶ月は賄える程度の備蓄を各センターは持っています。

今回は備蓄の入れ替え時期と重なったのもあり、大量放出となったわけです。

総務課は、会場設営の手配と指揮を中心に担当しました。

仲良し3人組の経理課のユリアや警備課のカレン達と協力してこの大イベントを成功させようと頑張っています。

やがて開催の刻限になり、会頭の挨拶が始まりました。

実は2人には黙っていますが、わたしは総務の仕事上、会頭のことを知っていました。

会頭は、政府関係の仕事をすることも多いため、あまり存在を公にされていません。

ですから、これまでは爵位も受けておられませんでしたし、カトウ運輸の会頭であることも必要以外には伏せておられました。

ですから、従業員でも知らない人の方が多いのです。

ですが、今回の隕石騒動での活動や公爵位の授爵、聖女と呼ばれるリザベート様との婚約等、色々な面で隠すことが難しくなったため、大々的なお披露目をすることになったそうです。

会頭=マサル様の素晴らしい活躍振りは、吟遊詩人が唄うマサル様の活躍譚で小さな子供でも知っていますが、会頭が孤児院を始めとする福祉事業に個人的に多額の寄付をしておられることを知る者はほとんどいないと思います。

わたし達仲良し3人組も孤児院の出身ですが、わたし達の今がこうしてあるのは、実は会頭のおかげなのです。

以前、会頭とお話しさせて頂く機会があったのですが、その時に孤児院での出来事をお話ししました。

すると、会頭は目を細めて満面の笑みでわたしを見ていらっしゃいました。
特に、あの時の石鹸をまだ大事にしていることを話すと大変驚いておられました。

後でヤング様が『その孤児院もマサル様の寄付で運営されていたんだよ。』と教えて下さいました。

そんな会頭のお祝いです。

張り切らないわけがないですよね。

もう公になったのだから、孤児院のことも、あの2人に話してあげようと思います。



<<警備課ジョン視点>>

わたしは、カトウ運輸でナーラ物流センターの警備を担当しているジョンであります。

本日はカトウ運輸創立以来の一大イベントであり、光栄にもその警備を申しつかっております。

会頭からは『辺り1キロメートル四方は結界が張ってあるから、警備は大丈夫だと思う。一緒に入ったら。』と仰って頂き、とってもありがたかったのですが、警備を誰よりも天職だと自認するわたしとしては、やはり万が一に備えたいと、警備することを志願致しました。

会場は大いに盛り上がっています。
美味しい食事と酒があり、その上
、会頭が英雄マサル様だと知り、婚約者が聖女リザベート様だと知って、2重の驚きと喜びで、皆のタガが外れてしまいそうです。

しっかりと警備しなければならないと目を光らせます。


実は、わたしはリザベート様に命を救って頂いたことがあります。

もう2年ほど前になるでしょうか、当時わたしは冒険者として商人達の護衛を生業としておりました。

あれはトカーイ帝国からハローマ王国に向かう途中でした。

我々が護衛していた商隊が大規模な襲撃に遭いました。

500人を超える盗賊団は、もはや軍隊と見間違うほど統率が取れており、20人程度の護衛では、死を覚悟するしかありませんでした。

あの鮮やかな統率、この辺りを縄張りとするのは、たぶん『殲滅ナイツ団』でしょう。

襲われると必ず皆殺しになるため、実態が明らかになっていない盗賊団です。

雨のように飛んでくる矢で、仲間達は1人また1人と、やられていきます。

もはやと諦めかけたその時、後ろから猛スピードで馬車が走ってきました。

盗賊達は、その馬車も獲物にしようと襲いかかります。

護衛のいないその馬車に盗賊が近づくと、その盗賊達は弾かれたように飛んでいきます。

やがて、馬車はわたし達の商隊と合流すると、一帯に結界を張りました。

味方は全て結界の中にいます。

馬車から降りて来たのは若い女性でした。

彼女は、わたしに味方が結界の外にいないことを確認すると、魔道具を取り出して魔力を込めます。

その瞬間、結界の外が真っ白になりました。

しばらくして目が慣れると、辺り一面に盗賊達の亡骸が散らばっていました。

彼女は外に生きている者がいないことを確認すると、結界を解放して、盗賊達の亡骸に近づいて行きます。

そして、ポーチを前にかざしました。

そうすると、盗賊達の亡骸が、そのポーチに吸い込まれていくではありませんか!

驚いていると、今度はわたし達の中にいる怪我人に次々と魔道具をかざし、治療していきました。

そのお姿は、まさしく戦乙女であり、聖女様でした。

彼女は、わたし達に名乗ることなく、その場を立ち去りましたが、商人の1人が彼女のことを知っていました。

キンコー王国ナーラ公爵令嬢リザベート様と。

それから、しばらくしてリザベート様の活躍が吟遊詩人により頻繁に唄われるようになりました。

その中で、彼女は聖女様と呼ばれていました。

確かにあの方は戦乙女であり聖女様でした。

その後、冒険者を引退したわたしは、カトウ運輸にお世話になりました。

そして本日、我が商会の会頭であるマサル様の婚約者として、あの戦乙女と再会することができました。

たとえ直接お話しすることが出来なくとも、今あの方をお守り出来ることがわたしにとって何よりの栄誉なのであります。

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