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第3章 国際連合は活躍する

35 【クーデター】

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<<マサル視点>>

開かれた謁見の間の扉から武装した10名程度の魔族が入ってきた。

「兄上、人間と和解などできるはずありません。

ええぃ、兄上を惑わす卑劣な人間め。」

「レイ、落ち着くのだ。
このままではこの国は滅びてしまうのは明白なのだ。

ここは、このマサル殿に任せたいと思う。」

「兄上の弱気な姿勢は魔族の中にも賛同しかねるとの声が上がっております。

兄上も長い間、長として頑張って来られました。

この辺りで、ごゆっくりされては如何でしょうか。」

含み笑いを浮かべながらレイと呼ばれる青年は、教皇の方に瞬間移動する。
そして教皇に短剣を突き立てた。

グサッと音がして、教皇が玉座から滑り落ちる。
カイヤは一歩も動けずに唖然としてその様子を見ていた。

我に返ったカイヤが玉座に向かおうとすると、レイの側近達がその前にはだかる。

「シン様ぁ!!」
カイヤの焦った声が部屋中に響くが、レイの側近達に遮られ身動きが取れないでいる。

「さて客人、お前は色々知り過ぎた。ここで死んで、我々の大陸制覇の手土産となるがよい。」

レイが俺にそう言うと、レイの手の者達が俺に襲い掛かってきた。

俺は、素早く空中に浮かぶと、その者達を全て覆うように強力な結界を張った。

中に居る者達は、これで出られない。

その光景を見ていたレイと側近達は一瞬唖然となった。

その一瞬をカイヤが見逃すはずもなく、側近達は次々と倒されていった。

残るはレイのみ。

「おのれ、こうなったらしようがない。この大神殿ごと、貴様らを道連れにしてやる。」

レイの左手では火の玉がだんだん大きくなっていく。

それが手を離れようとした瞬間、レイの心臓を剣が串刺しにした。

その剣は、シン教皇に握られていた。



<<シン教皇視点>>
マサル殿からの提案に賭けるしか今は手がない。

国際連合が受け入れてくれるのであれば、それで良し。
そうでなければ、魔族を率いて別の大陸でも目指そう。

我等の寿命は長いのだから。

ただ、我々も一枚岩ではない。
特に弟のレイは、良からぬことを仲間達と企んでいるようだ。

国際連合の決議が出るまでには、片付けておかなければなるまい。

バタン!
大きな音と共に扉が開く。

「兄上、人間と和解などできるはずありません。」

レイが謁見の間に仲間達を伴って入って来た。

人間が来ていることに気づいたのだろう。

興奮するレイに優しく言葉をかける。


「レイ、落ち着くのだ。
このままではこの国は滅びてしまうのは明白なのだ。

ここは、このマサル殿に任せたいと思う。」

レイが薄ら笑いを浮かべている。

いかん、マサル殿を殺して人間との全面対決に持ち込もうとしているに違いない。

マサル殿を守らねば。

そう思っていると、いつのまにか短剣を握ったレイが横にいた。

まさかこの兄を。
そう思った瞬間、腹に重い衝撃を受けて、意識を失ってしまった。



誰かが声を掛けてくる。
この声には聞き覚えがある。
先日夢に現れた魔王だ。
「シンよ。お前は今弟に刺されて、生死を彷徨っている。

お前の弟は、この大神殿を破壊し、この国を壊そうとしているのだ。
お前に剣を与える。弟を刺し、この国を守るのだ。」

ふと意識が戻る。お告げの通り右手には剣が握られている。

レイの左手には大きくなりつつある火の玉。

急いで、レイに剣を突き刺す。

歪むレイの顔、左手の火の玉が霧散していく。

わたしは、立ち上がって、辺りを見回す。

レイは、死んでいる。
その近くには、カイヤに殺されたであろうレイの側近達。

その他の者は、結界の中に閉じ込められており、その結界のすぐ横にはマサル殿がいる。

良かった。これで何の憂いもなく、マサル殿に委ねられる。

安心したわたしは、再び意識を失なった。



<<カイヤ視点>>
シン様が刺された。慌てて玉座に向かおうとすると、レイ様の側近達に阻まれた。

2人共剣の達人だ。いくら俺でも容易には動けない。

早く助けないとシン様が死んでしまう。

焦りが先行するがどうしようもない。

マサルを探す。

扉から入って来た10人程に囲まれているのが見えた。

不味い。四面楚歌の状況になっている。

マサルが口角を少し上げ、目配せしてきた。

その瞬間、マサルが宙に舞い、マサルを狙う刺客達が結界に閉じ込められた。

マサルの合図はこれだ。

俺は目の前で、呆気にとられている2人を切り上げた。

レイ様は、仲間達がやられたのを見て、ふっ と小さく笑い、左手を胸の高さに上げる。
その手には小さな種火があり、大きくなっていく。

不味い、この大神殿もろとも自爆する気だ。

止めなければ。

だめだ間に合わない。

その瞬間、レイ様の胸から刃が突き出た。

左手の火の玉は、霧散して消えた。

刃を見ると、シン様が握ったまま倒れている。

慌てて駆け寄り生死を確認する。

生きている。生きておられるのだ。

俺の歓喜の咆哮は、大神殿中に届いたに違いない。


しばらくしてシン様が、意識を取り戻された。

刺されたはずの傷も残っていない。

後でそのことをシン様に聞くと、魔王様に助けられたという。

俺は、魔王様の奇跡にまた涙が溢れてきた。


その後、今まで神を敵対視し、信仰心など持たなかった魔族に信仰心が生まれる。

神の名は魔王。
そう、全宇宙の魔族を束ねる全能の神である。



<<マリス視点>>

マサルさん、ごめんね。マオーさんが何をしてくれるか、何も説明してなかったわね。

忙しくって、忘れてたわ。

本当にごめんなさいね。

何かお詫びを考えておくから、それで許してね。

とにかく、上手くいったようでラッキーだったよね。

よかったぁ。



<<マオー視点>>

マリスのやつ、ちゃんと打ち合わせをしたのに、マサル君に説明を忘れてたって!!

上手くいくかヒヤヒヤものだったよ。
まぁ、心配でずっと見てたから、あんな予想外の展開にも上手く対応できたけどね。

こういうのを"塞翁が馬"って言うんだろうな。

また俺の信者が増えたな。

でも俺ってお客様相談室所属だから、信者が増えても成績に反映されないんだよね。

今度の人事考査の時にアピールしよっと。
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