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第3章 国際連合は活躍する

33 【魔族との交渉2】

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<<カイヤ視点>>

俺は、教会警備隊の隊長をしているカイヤと言う。

教会警備隊というのは、国内の全ての教会の警備を担当する組織で、実質は国防軍となる。

ちなみに、教会警備隊以外の軍組織として神殿警備隊がある。
神殿警備隊は、教皇であるシン様がおられる大神殿の警備が任務である。

この地に来て100年あまりになる。
長であるシン様が敗戦により混乱するナーカ教国の密かに侵攻して、上手く乗っ取りに成功した。

ソランに侵攻した時は、武力に頼ったばかりに国を亡ぼし、結果的に自分達の首を絞めることとなってしまった。

我々魔族は人間に比べると身体能力が高く、魔法も使えるため、どうしても武力に頼ってしまうきらいがある。

まぁ、人数も少なく人間と融和を図っても我々が淘汰されるしか無いというのもあり、武力に頼らざるを得ないというのが正直な話しだ。

祖先の時代って言ってもたかだかひいじいさんの時だが、人間にかなり迫害されていたらしい。

その恨みから親父達の世代は、今でも人間を嫌っている。

まぁ今ではその世代も残り少なく、俺達や子供の世代になっているが。

俺達魔族は寿命が長い。
ひいじいさん達の世代が魔族の始祖とされている。

ひいじいさん達から伝わっている話しでは、この世界を創造した神が人間や動物を作ったが、我々魔族は、この世界に自然発生し、神の加護が受けられなかったそうだ。

過酷な地で生まれ、その環境に適応するために高い身体能力と魔法を身につけたと言われている。

ただ元々の人口が少なく、生殖力も弱いため、今では300人ほどにまで減っている。

このままでは、後1000年もすれば、魔族は消えてしまうだろう。

話しを戻すが、ソランに居た頃に魔族の長となったシン様は、我々が人間を支配する国を作り、徐々に人間との交配を進め、魔族を存続させようとしている。

そのためには、人間を友好的取り込む必要がある。

ソランでの失敗もあるので、慎重にその機会を待った。

そしてついに100年前、ナーカ教国を武力では無く宗教を使って乗っ取ることに成功する。

既に一部を除いて、我々大多数の望みは、人間への復讐では無く、種の保存にシフトしている。

教皇であるシン様はこの考え方の旗振りであり、我々警備隊もその実現に向けて頑張っている。

しかし、最近のシン様は少し様子がおかしい。

ナーカ教国に住む人間を奴隷のように使ったり、ついこの間も助力を求めてきたハーン帝国の住人を全てナーカの国民として強制的に移住させたりと、国力を増強させようと考えているフシがある。

神殿警備隊に命じて、近隣小国にも勢力範囲を広げているようだ。

人間をこの世界から排除するなんて、危険な考えに向かっていなければ良いのだが。



<<マサル視点>>

カイヤの後について進んでいくと、教都の城壁が見えてきた。
カイヤが守兵に言葉を交わすと門が開けられ、中に入る。

「マサル、ここがナーカ教国の教都ナーカだ。
今からシン教皇に面会の許可を取るから、そこの詰所で待っていて欲しい。」

カイヤは詰所の職員に何かを話すと、そのまま飛び去って行った。
詰所内には数人の魔族と職員らしき人間がいる。

「マサル殿ですか。カイヤ様から丁重におもてなしするように言われております。
どうぞ、中の方でお待ち下さい。」

そのまま、詰所奥の応接室に案内される。
出て行った職員が、お茶を持って戻ってきた。
差し出されたお茶を飲みながら、現状を整理してみる。

まず結界に存在だが、これは魔族が300人程度しかいないことを考えると自衛のための手段として妥当な判断だろう。
結界があるなら、国境砦に人がいないのもうなずける。

次にカイヤの様子を伺う限り、大多数の魔族は人間に対して否定的な考え方を持っていないと考えても良いのではないかと思う。

カイヤは軍組織の頂点にいるため、魔族の中でも高位だと思えるし、一番好戦的な立場でありながら、俺に対する態度は友好的に思われたからだ。

では何のためにナーカ教国を乗っ取るようなことをしたのだろうか?

城門をくぐってから、ここに入るまでに少し街の中を見たが、人間の住人が普通の生活を送っている印象を受けた。今お茶を入れてくれてた職員にも状態異常はなさそうだ。

そうなると、魔族は国を乗っ取りながらも人間と共存していると言える。

俺は職員に聞いてみた。

「この国は100年前に宗教が変わったようだが、何かあったのですか?」

「私の祖父の話しですが、当時この国の教会は非常に腐敗が進み、民は塗炭の苦しみを受けていたそうです。
また戦争に負けた直後にも関わらず、権力闘争による暗殺や政権交代が頻繁に起こり、政治が不安定で国民生活は困窮していました。

そんな時に、新しい宗教が入ってきました。国民の大部分はそれに縋り付きました。

当然、教会や政治家がその宗教を潰しにかかりましたが、ことごとく神の怒りにふれ自滅していったと言います。

やがて、国民の大部分に支持された現ナーカ教は旧来の宗教を一掃し、シン教皇様を救世主として担ぎ上げたと聞きます。

シン教皇様は、神の加護により100年たった今でも若々しく生を保っておられ、その威光は近隣の小国にまで広がり、信者はどんどん増えております。

そうそう、最近はハーン帝国の方々がシン教皇様の施しで、続々とこの地に入ってこられてこられているようですね。

なんでも、他国の連合軍からひどい経済攻撃を受け、国として成り立たなくなってしまったので、皇帝自らシン教皇様に併合を懇願したとか。

シン教皇様の広い御心には全く頭が下がる思いでございます。」

どうやら国民は、現状のナーカ教国に幸福感を享受しているようで、とりあえずは安堵した。
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