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第3章 国際連合は活躍する
18【国際連合と国際裁判所】
しおりを挟む<<アーノルド・ワーカ視点>>
「アーノルド様のおっしゃる通り、過去にわたし達の世界でも世界を2分するような大きな大戦争が2度ほどありました。
その教訓を元に作りだされた制度が、国際連合と国際裁判所なのです。
現在はこの2つの機関が上手く作用し、大きな大戦になる前に紛争を解決しています。
まあ、ギリギリではありますが。」
マサル殿から出た2つのキーワード、「国際連合」と「国際裁判所」。
どうやらこれが、今回の趣旨だろう。
「もう少し細かく教えていただけないじゃろうか。」
「はい、国際連合とは、世界の国々が加盟する組織で、わたし達の世界では、経済最大国のアメリカにその本部があります。
ここでは、世界の情勢や細かな紛争、危険な国に対する制裁措置の決定など全世界的な協調を図るための議論や決定が各国の代表によってなされます。
国際裁判所 正式には国際司法裁判所といいますが、国際連合の1機関として、特に国家間でのトラブルに発展してしまった問題については、この国際司法裁判所の範疇でその判断が下されます。
当然国際連合の機関ですので、その決定は国といえどもないがしろにはできない程の権限を有します。
これ以外にも、貿易に関する問題、発展途上国の支援、国の経済破綻への金融協力等様々な問題を解決するための機関はありますが、わたしはこの世界では、国際ルールや商取引等これら全ての仲裁を司る機関として「国際裁判所」と考えています。
既に、大陸中に大きな影響力を持つキンコー王国、ハローマ王国、トカーイ帝国の3国には国際連合加入と国際裁判所設置の了承を頂いており、キンコー王国ナーラ領に本部を設置する方向で話しが進んでおります。」
淡々と話すこの青年は、これがどれほどのことなのか理解しているのだろうか?
キンコー王国で長年宰相をしてきた儂にとっては、夢物語のような難しいものだったのだが。
「どのようにしてそのようなことが実現できたのか?」
儂の問いに、マサル殿は答える。
「アーノルド様達にとっては非常に難しいことであったでしょうが、わたしにとってはそう難しいことではありませんでした。
なぜなら、わたしは別の世界でそれを実現しているのを知っているからです。
当然、なぜそれができたのか、結果どうなっているのか、懸念点は何か、わたしにはこれまでに学んだ知識とマリス様から頂いた力で全て理解しておりましたので、それを3首脳にお話しすればよかったのです。
元々3首脳とも、戦争を起こしたくもなければ、平和裏に紛争を解決する方法を模索しておられたと思います。
ただ、実際にそんな世界が作れるわけが無いと思い込んでおられる節がありましたので、その解決策を披露させて頂いたのです。」
なるほどマサル殿の言う通り我々は無知故、最初からあきらめていたのかも知れない。
ここまでお膳立てができていて、何を躊躇することがあるものか。
こうして6年に渡るわたしの第2の青春が始まったのだった。
<<ハローマ王国ガード王視点>>
ネクターから招待状が届いた。
トカーイ帝国のレイン皇帝も呼んで、会議をしたいとのことだ。
儂は、久しぶりに会う2人の顔を思い浮かべながら、キンコー王国に向かった。
わたしとネクター王は、キンコー王国の王立アカデミーの同級生で親友でもある。
わたしは、ハローマ王国の第2王子として生まれ、幼少期から大公爵として兄上を補佐することが決まっていた。
だから、補佐役として人脈を広げる為にキンコー王国の王立アカデミーに入学したのだった。
アカデミーでの生活は非常に楽しいものだった。
兄上を陥れてわたしを王に擁立したい佞臣の相手もしなくて良いし、わたしを暗殺しようとする兄上の佞臣に狙われることもない。
ただただ自由に少ない青春を謳歌することが出来た。
ネクターは、初めて会った時から気のいい奴だった。
彼は嫡子であり2歳下に従兄弟のクラークがいた。
ネクターに兄弟はいなかったので、彼にもしものことがあれば、クラークが王位継承者となる。
クラークはネクターを兄として慕い、いつも側にいたので彼等の佞臣が狙う隙は無かったと思う。
ネクターの即位後、2人のその時の行動はそれぞれの佞臣を寄せ付け無い為の企みだったことを聞いて、彼等の聡明さに舌を巻いたものだ。
わたし達はいつも3人でつるんでいた。
警護を巻いて街を散策したり、森に入って狩りや魔物退治なんかもした。
ネクターは、勇敢で常に先頭に立つ。
クラークは、思慮深くいつも何かを考えているが、いざという時の判断力には眼を見張るものがあった。
わたしは2人を見ながら、この2人が統治するキンコー王国は安泰だとあの頃からずっと思っている。
入学してから2年が経った頃、わたしは、兄上の急死の連絡を受けてハローマに戻ることになった。
戻ってからは前のように気軽には会えなくなってしまったが、即位して20年近く経った今も2人とは、親友として親交を結んでいる。
トカーイ帝国とは以前は険悪な状態であったが、穏健派のレインが皇帝になってからは、頻繁に交流を持つようになった。
レインはわたしやネクターよりも1歳下で、彼もまたアカデミーの生徒であった。
当時のトカーイ帝国は宰相のザイーンがライア教と結びついて、政治の実権を握っていた。
ザイーンは、国を乗っ取るためには第1皇子であるレインが邪魔であった。
レインの侍従長は、レインを暗殺から守るため、レインが物心ついた時から無能の振りをさせた。
レインは非常に聡明であり、このままだとザイーンが真っ先にレインの暗殺にかかるであろうと予想されたからである。
第2皇子は、病弱で気の弱い子供であったため、ザイーンは第2皇子に目を付け、第2皇子を傀儡皇帝の座につけるための画策を始めた。
第2皇子派は日増しに大きくなり、ザイーンにとってレインが邪魔に成り出した頃、レインはキンコー王国王立アカデミーに入学した。
表向きは知見を広げるためであるが、実際は暗殺を恐れての国外逃亡であった。
レインはアカデミーでも無能を装っていた。どこでザイーンの間者が見張っているかも知れないからだが、そのおかげで彼は目立つことなく本国ではいない者として処理されていたようである。
しかしレインは着実に自身の陣営を固めていた。
ザイーンの政敵である有力貴族の子弟がレイン同様にキンコー王国やその他の国々のアカデミーに入学し、レインが立ち上がるのを着実に力を溜めながら待っていた。
そしてわたしの帰国と同じ頃、その時はやって来た。
帝国でザイールがレインの弟を擁してクーデターを起こしたのだ。
その情報は事前にレイン達に流れていた為、ザイールが王城を鎮圧し気を抜いた瞬間をレイン達が急襲して、ザイールのクビを取ったのだった。
だが、対価も大きかった。
皇帝である父や弟、1番信頼していた侍従長の3人を失ったレインは、泣き崩れる間も無く残党の鎮圧に向かうのだった。
やがて、帝国内の体制が一新され、落ち着きを取り戻した頃、レインは亡き者達の喪を発すると共に皇帝に即位した。
レインは、キンコー王国、ハローマ王国に対して平和宣言を発布し、帝国からの不戦を打ち出した。
その潔さは両国に好意的に受け取られ、漸くレインの戦いは終わったのだった。
彼は、国内が落ち着きを取り戻した後、お忍びでネクターやわたしの所に遊びに来た。
わたし達は、旧友の苦悩に気付きながらも何も出来なかったことを詫びると共に、これからの世の中に思いを馳せたものだ。
やがて、わたしもネクターも王位に就き、お互いにお忍びでの行動は難しくなったが、何かあるとこうして公式に会うようにしている。
「レイン、ガード、久しぶりだな。元気そうでなによりだ。」
「ネクターさんもお元気そうでなによりです。」
「ネクター、ちょっと太ったんじゃないか。
聞いたが、農村の改革が上手くいって税収が上がっているそうじゃないか。
太ったのはそのせいか?」
「まあ、儂は太っとらんがな、今日の話しはそのことに関連しておる。
クラークとマサル殿、入ってくれるか。」
ネクターの呼びかけに、クラークと1人の青年が入って来た。
「ガード様、レイン様ご無沙汰しております。」
「クラーク久しぶりじゃ。相変わらず堅苦しい挨拶だな。」
「おふたり共、王と皇帝なのですから、世間体もありましょう。
ところで、こちらの青年をご紹介します。
彼は、異世界から来られたマサル殿です。
実は、ご存知のナーラ領の改革は、マサル殿のご尽力によるものなのです。」
異世界って言ったか?
儂の聞き間違いか。
「クラークさん、今異世界からと言われましたか。」
レインにも同じように聞こえたらしい。
「そうです。マサル殿は、マリス様の使徒として、異世界の進んだ文明を持つ国から召喚されたのだそうです。
詳しくはマサル殿から説明して頂きましょう。」
「マサルです。クラーク様の仰ったら通り、わたしは向こうの世界で死んだと同時にマリス様にこの世界に召喚されました。」
マサルと名乗る青年は、この世界に来てからの経緯やマリス様から依頼された内容などを理路整然と説明していく。
俄かには信じられない話しだが、時折入るクラークの話しを合わせて聞いていると妙に信憑性があった。
ちらっと横のレインの方を見ると、楽しそうに相槌を打ちながら聞いている。
ひと通り話しを聞き終えて、儂はレインに声をかけた。
「レイン、どうじゃった?信じられるか?」
「そうですね、わたしは嘘は無いと信じていますよ。
だって、クラークさんが嘘をついたことなんてないじゃないですか。
それに、本当だった方が楽しいですよ。」
まぁ、確かにその通りだが……
「ところでネクターさん、このマサル殿が絡むという、今日の要件に入りましょう。」
「そうだな、実はなこれもマサル殿の提案なんだが、我ら3名が発起人となり、国際連合なる組織を立ち上げたいと思っておる。
これはマサル殿の世界にあるものだそうだが、加盟各国間で発生した様々な問題を、この組織で仲裁や解決をして、紛争を未然に防ぐことを目的とする。
魔物が大発生した時や大規模な天災により、他国の協力必要な時にも、この組織を通して援助する。
大陸中の各国に加盟してもらい、大陸に恒久的な平和を齎したいと思っておる。」
「遠大な計画だが、争いは疲弊を生むばかりで、生産性が無いからのう。
のう、レイン。」
「ガードさん、親父の時代はもうしわけありませんでした。
わたしは、ネクターさんの提案、賛成です。
わたし達の時代は、こうして仲良くさせて頂いているので問題無いですけど、次やその次の世代になったら分からないですものね。
監視と抑止効果があるのであれば、大歓迎です。」
「確かにその通りだ。儂も賛成じゃ。
マサル殿、詳しい話しを聞かせてもらえんかな。」
「ありがとうございます。それでは、わたしのいた世界の国際連合の話しと、この世界で考える国際連合のアウトラインについて話させて頂きます。」
マサル殿は、元いた世界で何故国際連合が出来たのか、どのような運営体制なのか、どのような組織があり、どんな活動をしているのかを詳しく教えてくれた。
また、運営上の問題点を挙げて、その改善案やこの世界での改良点についても事細かに説明してくれた。
「ネクター、話しは良くわかった。
儂はまだ異世界というものがピンとこんが、そんなもん差し引いても、革新的で魅力的な素晴らしい提案だ。
マサル殿、儂の顧問としてハローマ王国にこんか?」
「こら、ガード。マサル殿はどこにもやらんぞ。」
「国際連合の初仕事は、マサル殿の取り合いの調停ですな。」
クラークの発言にその場は笑いに包まれた。
そしてこの日は、国際連合と国際裁判所、特許の話しまでまとまった、
今日という日は、有史に残る歴史的な日となるだろう。
「アーノルド様のおっしゃる通り、過去にわたし達の世界でも世界を2分するような大きな大戦争が2度ほどありました。
その教訓を元に作りだされた制度が、国際連合と国際裁判所なのです。
現在はこの2つの機関が上手く作用し、大きな大戦になる前に紛争を解決しています。
まあ、ギリギリではありますが。」
マサル殿から出た2つのキーワード、「国際連合」と「国際裁判所」。
どうやらこれが、今回の趣旨だろう。
「もう少し細かく教えていただけないじゃろうか。」
「はい、国際連合とは、世界の国々が加盟する組織で、わたし達の世界では、経済最大国のアメリカにその本部があります。
ここでは、世界の情勢や細かな紛争、危険な国に対する制裁措置の決定など全世界的な協調を図るための議論や決定が各国の代表によってなされます。
国際裁判所 正式には国際司法裁判所といいますが、国際連合の1機関として、特に国家間でのトラブルに発展してしまった問題については、この国際司法裁判所の範疇でその判断が下されます。
当然国際連合の機関ですので、その決定は国といえどもないがしろにはできない程の権限を有します。
これ以外にも、貿易に関する問題、発展途上国の支援、国の経済破綻への金融協力等様々な問題を解決するための機関はありますが、わたしはこの世界では、国際ルールや商取引等これら全ての仲裁を司る機関として「国際裁判所」と考えています。
既に、大陸中に大きな影響力を持つキンコー王国、ハローマ王国、トカーイ帝国の3国には国際連合加入と国際裁判所設置の了承を頂いており、キンコー王国ナーラ領に本部を設置する方向で話しが進んでおります。」
淡々と話すこの青年は、これがどれほどのことなのか理解しているのだろうか?
キンコー王国で長年宰相をしてきた儂にとっては、夢物語のような難しいものだったのだが。
「どのようにしてそのようなことが実現できたのか?」
儂の問いに、マサル殿は答える。
「アーノルド様達にとっては非常に難しいことであったでしょうが、わたしにとってはそう難しいことではありませんでした。
なぜなら、わたしは別の世界でそれを実現しているのを知っているからです。
当然、なぜそれができたのか、結果どうなっているのか、懸念点は何か、わたしにはこれまでに学んだ知識とマリス様から頂いた力で全て理解しておりましたので、それを3首脳にお話しすればよかったのです。
元々3首脳とも、戦争を起こしたくもなければ、平和裏に紛争を解決する方法を模索しておられたと思います。
ただ、実際にそんな世界が作れるわけが無いと思い込んでおられる節がありましたので、その解決策を披露させて頂いたのです。」
なるほどマサル殿の言う通り我々は無知故、最初からあきらめていたのかも知れない。
ここまでお膳立てができていて、何を躊躇することがあるものか。
こうして6年に渡るわたしの第2の青春が始まったのだった。
<<ハローマ王国ガード王視点>>
ネクターから招待状が届いた。
トカーイ帝国のレイン皇帝も呼んで、会議をしたいとのことだ。
儂は、久しぶりに会う2人の顔を思い浮かべながら、キンコー王国に向かった。
わたしとネクター王は、キンコー王国の王立アカデミーの同級生で親友でもある。
わたしは、ハローマ王国の第2王子として生まれ、幼少期から大公爵として兄上を補佐することが決まっていた。
だから、補佐役として人脈を広げる為にキンコー王国の王立アカデミーに入学したのだった。
アカデミーでの生活は非常に楽しいものだった。
兄上を陥れてわたしを王に擁立したい佞臣の相手もしなくて良いし、わたしを暗殺しようとする兄上の佞臣に狙われることもない。
ただただ自由に少ない青春を謳歌することが出来た。
ネクターは、初めて会った時から気のいい奴だった。
彼は嫡子であり2歳下に従兄弟のクラークがいた。
ネクターに兄弟はいなかったので、彼にもしものことがあれば、クラークが王位継承者となる。
クラークはネクターを兄として慕い、いつも側にいたので彼等の佞臣が狙う隙は無かったと思う。
ネクターの即位後、2人のその時の行動はそれぞれの佞臣を寄せ付け無い為の企みだったことを聞いて、彼等の聡明さに舌を巻いたものだ。
わたし達はいつも3人でつるんでいた。
警護を巻いて街を散策したり、森に入って狩りや魔物退治なんかもした。
ネクターは、勇敢で常に先頭に立つ。
クラークは、思慮深くいつも何かを考えているが、いざという時の判断力には眼を見張るものがあった。
わたしは2人を見ながら、この2人が統治するキンコー王国は安泰だとあの頃からずっと思っている。
入学してから2年が経った頃、わたしは、兄上の急死の連絡を受けてハローマに戻ることになった。
戻ってからは前のように気軽には会えなくなってしまったが、即位して20年近く経った今も2人とは、親友として親交を結んでいる。
トカーイ帝国とは以前は険悪な状態であったが、穏健派のレインが皇帝になってからは、頻繁に交流を持つようになった。
レインはわたしやネクターよりも1歳下で、彼もまたアカデミーの生徒であった。
当時のトカーイ帝国は宰相のザイーンがライア教と結びついて、政治の実権を握っていた。
ザイーンは、国を乗っ取るためには第1皇子であるレインが邪魔であった。
レインの侍従長は、レインを暗殺から守るため、レインが物心ついた時から無能の振りをさせた。
レインは非常に聡明であり、このままだとザイーンが真っ先にレインの暗殺にかかるであろうと予想されたからである。
第2皇子は、病弱で気の弱い子供であったため、ザイーンは第2皇子に目を付け、第2皇子を傀儡皇帝の座につけるための画策を始めた。
第2皇子派は日増しに大きくなり、ザイーンにとってレインが邪魔に成り出した頃、レインはキンコー王国王立アカデミーに入学した。
表向きは知見を広げるためであるが、実際は暗殺を恐れての国外逃亡であった。
レインはアカデミーでも無能を装っていた。どこでザイーンの間者が見張っているかも知れないからだが、そのおかげで彼は目立つことなく本国ではいない者として処理されていたようである。
しかしレインは着実に自身の陣営を固めていた。
ザイーンの政敵である有力貴族の子弟がレイン同様にキンコー王国やその他の国々のアカデミーに入学し、レインが立ち上がるのを着実に力を溜めながら待っていた。
そしてわたしの帰国と同じ頃、その時はやって来た。
帝国でザイールがレインの弟を擁してクーデターを起こしたのだ。
その情報は事前にレイン達に流れていた為、ザイールが王城を鎮圧し気を抜いた瞬間をレイン達が急襲して、ザイールのクビを取ったのだった。
だが、対価も大きかった。
皇帝である父や弟、1番信頼していた侍従長の3人を失ったレインは、泣き崩れる間も無く残党の鎮圧に向かうのだった。
やがて、帝国内の体制が一新され、落ち着きを取り戻した頃、レインは亡き者達の喪を発すると共に皇帝に即位した。
レインは、キンコー王国、ハローマ王国に対して平和宣言を発布し、帝国からの不戦を打ち出した。
その潔さは両国に好意的に受け取られ、漸くレインの戦いは終わったのだった。
彼は、国内が落ち着きを取り戻した後、お忍びでネクターやわたしの所に遊びに来た。
わたし達は、旧友の苦悩に気付きながらも何も出来なかったことを詫びると共に、これからの世の中に思いを馳せたものだ。
やがて、わたしもネクターも王位に就き、お互いにお忍びでの行動は難しくなったが、何かあるとこうして公式に会うようにしている。
「レイン、ガード、久しぶりだな。元気そうでなによりだ。」
「ネクターさんもお元気そうでなによりです。」
「ネクター、ちょっと太ったんじゃないか。
聞いたが、農村の改革が上手くいって税収が上がっているそうじゃないか。
太ったのはそのせいか?」
「まあ、儂は太っとらんがな、今日の話しはそのことに関連しておる。
クラークとマサル殿、入ってくれるか。」
ネクターの呼びかけに、クラークと1人の青年が入って来た。
「ガード様、レイン様ご無沙汰しております。」
「クラーク久しぶりじゃ。相変わらず堅苦しい挨拶だな。」
「おふたり共、王と皇帝なのですから、世間体もありましょう。
ところで、こちらの青年をご紹介します。
彼は、異世界から来られたマサル殿です。
実は、ご存知のナーラ領の改革は、マサル殿のご尽力によるものなのです。」
異世界って言ったか?
儂の聞き間違いか。
「クラークさん、今異世界からと言われましたか。」
レインにも同じように聞こえたらしい。
「そうです。マサル殿は、マリス様の使徒として、異世界の進んだ文明を持つ国から召喚されたのだそうです。
詳しくはマサル殿から説明して頂きましょう。」
「マサルです。クラーク様の仰ったら通り、わたしは向こうの世界で死んだと同時にマリス様にこの世界に召喚されました。」
マサルと名乗る青年は、この世界に来てからの経緯やマリス様から依頼された内容などを理路整然と説明していく。
俄かには信じられない話しだが、時折入るクラークの話しを合わせて聞いていると妙に信憑性があった。
ちらっと横のレインの方を見ると、楽しそうに相槌を打ちながら聞いている。
ひと通り話しを聞き終えて、儂はレインに声をかけた。
「レイン、どうじゃった?信じられるか?」
「そうですね、わたしは嘘は無いと信じていますよ。
だって、クラークさんが嘘をついたことなんてないじゃないですか。
それに、本当だった方が楽しいですよ。」
まぁ、確かにその通りだが……
「ところでネクターさん、このマサル殿が絡むという、今日の要件に入りましょう。」
「そうだな、実はなこれもマサル殿の提案なんだが、我ら3名が発起人となり、国際連合なる組織を立ち上げたいと思っておる。
これはマサル殿の世界にあるものだそうだが、加盟各国間で発生した様々な問題を、この組織で仲裁や解決をして、紛争を未然に防ぐことを目的とする。
魔物が大発生した時や大規模な天災により、他国の協力必要な時にも、この組織を通して援助する。
大陸中の各国に加盟してもらい、大陸に恒久的な平和を齎したいと思っておる。」
「遠大な計画だが、争いは疲弊を生むばかりで、生産性が無いからのう。
のう、レイン。」
「ガードさん、親父の時代はもうしわけありませんでした。
わたしは、ネクターさんの提案、賛成です。
わたし達の時代は、こうして仲良くさせて頂いているので問題無いですけど、次やその次の世代になったら分からないですものね。
監視と抑止効果があるのであれば、大歓迎です。」
「確かにその通りだ。儂も賛成じゃ。
マサル殿、詳しい話しを聞かせてもらえんかな。」
「ありがとうございます。それでは、わたしのいた世界の国際連合の話しと、この世界で考える国際連合のアウトラインについて話させて頂きます。」
マサル殿は、元いた世界で何故国際連合が出来たのか、どのような運営体制なのか、どのような組織があり、どんな活動をしているのかを詳しく教えてくれた。
また、運営上の問題点を挙げて、その改善案やこの世界での改良点についても事細かに説明してくれた。
「ネクター、話しは良くわかった。
儂はまだ異世界というものがピンとこんが、そんなもん差し引いても、革新的で魅力的な素晴らしい提案だ。
マサル殿、儂の顧問としてハローマ王国にこんか?」
「こら、ガード。マサル殿はどこにもやらんぞ。」
「国際連合の初仕事は、マサル殿の取り合いの調停ですな。」
クラークの発言にその場は笑いに包まれた。
そしてこの日は、国際連合と国際裁判所、特許の話しまでまとまった、
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僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
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