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第3章 国際連合は活躍する

15【カトウ運輸、賊に襲われる2】

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<<隠れホンノー人フォン視点>>
カトウ運輸を監視し始めてから2ヶ月、残していた監視係も見つかった様で、今は我らの里に戻ってきている。
「マサルがいる時を狙うのは無理そうだ。
あんなに神出鬼没で、いつ居るのか分からなきゃな。
まぁ、カトウ運輸の本社を完膚なきまでに叩いてやれば良いだろう。
それだけで、しばらくは身動きも出来ないだろうぜ。

よし、襲撃は3日後の深夜だ。
みんな、準備して備えておけよ!」

「棟梁、了解でっさー。」

覚えておけよ、マサル。おまえが作り上げた大切な商会をぼろぼろにしてやる。

作戦決行の時間の少し前になって、我らはカトウ運輸本社裏口に集まった。

今回の襲撃には30人を参加させた。

忍び込み寝込みを襲う隊、倉庫や金蔵に火をつける隊、出入り口に張り付き逃げて来た者を襲う隊の3隊で徹底的に壊し尽くすつもりだ。

マサルが居ればラッキー。居なくてもしばらくはどうしようもないだろう。

俺は3隊のリーダーに指示を出すと、3人共薄くうなづきそれぞれ散っていった。

鍛え上げられた精鋭部隊の彼らなら、静かに速やかに作戦を終えて、ここに戻ってくるだろう。
予定では1時間程度で引き揚げられるはずだ。

50分経過した。
誰も戻ってこないどころか、俺が張り付いている裏口からも人が出てくる様子が全く無い。

1時間待っても火の気も上がらない。

やはりおかしい。

俺は、建物の周りを回ってみたが、各出入り口を塞いでいるはずの隊も居ない。

俺は、建物の中へと入っていった。

玄関ホールは、静まり返っている。いるはずの守衛も居ない。

何かおかしい。怪しい気配は全くないが、俺の感がそう叫ぶ。
弱気になりかけた気持ちを抑えて、奥の部屋に入ろうとした俺は、何かにぶつかった様な衝撃を受け、その場に倒れた。



「うつっ眩しい!」

俺は朝日の眩しさで目を覚ました。
手足を縛られて冷たい地面の上に転がされている事実を確認し、昨夜の襲撃が失敗したことを悟るのに、時間はかからなかった。

「目が覚めましたか?」

穏やか顔をした中年の男が無警戒に声を掛けてきた。

この顔は良く知っている。
カトウ運輸のナンバー2ヤングだ。

「俺達の襲撃を知っていたのか?
どのようにして、俺達の襲撃を阻止したんだ?」

俺の疑問にヤングが答えた。

「本社に結界が張ってあったんです。
入った瞬間に全身が痺れて気を失うような。

誰かが見張っているのは分かっていましたから、毎晩守衛を5人ほど配置しておいたのです。

まぁ入ってきた人達が次々と音も立てずに倒れていってくれたので、縛りあげて運び込むだけでしたら5人で十分でしたけどね。

あっそうそう、他の出入り口で待機しておられた方も、事前に警報機で分かっていましたから、事前に扉を開けておいて、中に入って頂きましたよ。」

なんて用意周到な。俺たちは完璧に裏をかかれていたんだ。

俺達はもうダメだろう。
せめてもの道連れにコイツを連れて行ってやる。

俺達ホンノー人にはそれぞれ独自の異能の力を持っている。

俺は、気を集めて圧縮したものを高速で飛ばすことができる。

10メートル範囲であれば、敵に致命的なダメージを与えることができる。
ヤングまでの距離は、3メートル。
確実に仕留められる距離だ。
ヤングめ、最後に気が緩んだようだな。

俺は、ホンノー人の異能の力を使って、ヤングに向かって気の固まりを放った。

確実に俺の気弾はヤングを捉えた。
が、ヤングの手前1メートルのところで霧散してしまった。

「あーびっくりした!
マサル様の御守りのおかげで助かりましたね。」

なんと、必殺の気弾まで弾かれてしまってはどうしようもない。

「わかった。俺の負けだ。殺すなり領主に突き出すなり好きにすればよい。」

「そうですねぇ、とりあえず、他のお仲間の皆さんと一緒に牢にでも入っておいて頂きましょうか。
ハリスさん。連れて行ってあげてくださいな。」

俺は地下に連れていかれ、単独で牢に入れられた。仲間達は5人づつ単位で別々の牢に入れられている。

「俺は守衛隊長のハリスだ。牢の管理もしているので、何か問題があれば言ってくれ。
あっ、そうそうホンノー人は異能の力を使うらしいな。
この牢それぞれは、本社に掛けてある結界と同様の結界が張ってあるので、異能の力を使っても無駄だと思うぞ。

そうだ、お前の名前を聞いておこう。」

「俺の名前はフォンだ。
何故、我らがホンノー人だとわかった?」

「事前にマサル様から聞いていたのさ。
お前達がここを見張っていることは、早くから知っていた。
身のこなし等をマサル様に報告したところ、マサル様がお前達を追跡して正体を突き止めておられたのだ。

マサル様は王都にいる従業員1000人に御守りの魔道具を渡し、本社にも結界と侵入探知の魔道具を設置しておられたのだ。
どれもマサル様特製の強力な奴だぞ。

喧嘩を吹っ掛けた相手が悪かったな。」

俺はハリスの言葉を聞いて、勝てない相手に挑んだことを後悔すると共に、残してきた妻子や仲間のことを思った。

「ハリス殿、俺達はお前達を襲撃し、結果こうして捕まった。この後の処分については、どうなろうと文句はない。
ただ、これは俺の単独の判断で動いたことだ。残っている一族の者達については、穏便な処置を頼んでもらえないだろうか?」

「それについては、俺の判断では何もできないので、マサル様に話しはしてみる。
結果については、今は何とも言えないが。」

「ハリス殿、ありがとう。恩に着る。」

<<マサル視点>>
やはり犯人はハローマ王国に住む、隠れホンノー人だったか……

俺はハリスから、監視している賊の本体が帰還するのではないかとの情報を得て、彼らに気付かれない様に空中から後をつけた。
カクガーの森を抜け、ダゴー領との間にある小さいが鬱蒼とした森の中に彼らの集落はあった。
集落には女子供合わせて100名程度が住んでおり普通の営みをしている。

ナーラ領より戻ってきた賊は、少し打合せをした後、それぞれの家庭に戻っていった。

俺は指揮官と思われる者の家に気配を消して近付いた。
「フォン、お帰りなさい。無事帰ってきてくれてうれしいわ。」
「フェンリ、ただいま。留守中は問題なかったか?」
「大丈夫よ。何もなかったわ。」
「それは良かった。フェアリーが処刑されたことで、一部の民がハローマ王国やキンコー王国に対し敵対意識を強めているのは知っているな。
彼らが暴走する前に、事態を収拾する必要がある。
今ハローマ王国と事を構えるのは得策ではない。戦闘になった場合、当然この地も大きな被害を被ることだろう。
そうならない様に、向こうには申し訳ないが、元凶としてキンコー王国の数人に死んでもらう必要がある。
その先頭に加わることで敵対意識のある民達を慰撫することもできるだろう。」

「あなた、本当にそれしか方法はないの?
元々は、迫害を受けたわたし達祖先からの因縁よね。
もう何百年も経っているのに、いつまでハローマ王国に対する憎しみを抱えていかなくちゃいけないのかしら。
フェアリーだって、その犠牲者だわ。
彼女はわたし達が殺したようなものよ。」

「妹を亡くしたおまえの気持ちは、良くわかっている。
ただ、その憎しみを糧にしか生きられない奴等もいるんだ。

まずは、この困窮した生活をなんとかしなくては。」

どうやら、隠れホンノー人達も生活に非常に困窮している現実に対して、過去の因縁からくる憎しみで誤魔化しているだけなのだろう。

それに気づいている者もいるのだろうが、言い出せる状況じゃないんだろうな。

まずは生活環境を整えてやることが、この因縁を断ち切る為に必要だ。

俺は、カトウ運輸本社に戻り、ヤングやハリスを呼んで隠れホンノー人のことを話した。

「俺はこれからホンノー自治区に行ってアベルに受け入れ出来ないか頼んでみるつもりです。

希望者がいれば、カトウ運輸でも雇い入れたいと思っています。
受け入れ準備をお願いできますか?」

「マサル様、わかりました。
ところで彼等はここを襲撃して来るのでしょうか?」

「近いうちに必ず来ます。
建物には結界を、それとナーラ領にいる従業員には全員に御守りの魔道具を配布します。
襲撃があったらトランシーバーで連絡下さい。
どこに居てもすぐに駆けつけてきます。」

「マサル様、まぁそこまでして頂ければ大丈夫です。
後は俺達に任せてくださいや。」

少し不安そうなヤングを気遣いながら、ハリスが笑顔で力こぶを作った。

「ヤングさん、ハリスさん、お願いしておきますね。」


それから、3日後フォン達の襲撃があったのだった。

事件解決後、知らせを受けた俺は急いで本社に戻った。

幸いにも、従業員にも建物にも被害は出なかった。

「ヤングさん、ハリスさんお疲れ様でした。
大丈夫だったみたいですね。」
「マサル様、おかげさまで無事に事無きを得ました。
あの結界と御守り、凄い効果でした。

賊は、牢に入れてあります。ご案内致します。」

俺は、ハリスさんに案内されてフォンのいる牢に向かった。

「フォンさんですか?」
「うん?おまえは?」
「わたしは、カトウ運輸の会頭をしているマサルというものです。」

「ふっ、おまえがマサルか。フェアリーの仇を取るつもりだったが、俺もしてやられたな。」

「フェアリーさんについては、ちょっとやり過ぎました。
ただ、あなた達については、まだ間に合います。
奥さんや子供達の為にも、もう一度やり直す気はありませんか?」 

俺の言葉を聞いたフォンの顔に驚きの表情が浮かぶ。

「もう一度やり直すとはどういうことだ。
何故おまえが妻や子供の事を知っている?」

「あなた達が集落に帰るところをつけていました。
奥さんが、この因縁を断ち切りたいとお考えだと思っておられることも知っています。

やり直す手段は、いくつかあります。
このカトウ運輸で従業員として生計を立てることや、ホンノー自治区で、ホンノー人として生活をすることなどですね。」

「我等はホンノー人から弾かれたもの達の末裔。ホンノー自治区が受け入れてくれるとも思えない。」

「既にホンノー自治区代表のアベルさんには話しをしてあり、フォンさん達が望むのであれば、喜んで受け入れたいと言って頂いています。」

「厚かましい話しだが、もしアベル殿が受け入れて頂けるのであれば、集落に残っている者達だけでも、お願い出来ないだろうか。
今集落に残っている者達は、力のない者達や、過去に拘らない穏健派なのです。
ここにいる我等は、過去に囚われてすべきでない戦いをしてしまった愚か者です。
俺にはわかっていました。
能力があるからと言うだけで、フェアリーを若い時から縛り付け、無残に殺してしまったのは、俺達だったことを。

俺達は、罰せられるべきですが、もし温情を頂けるなら、集落の者達に生きる術を与えてやって頂けませんかっ……」

涙を流しながら懇願するフォンを見て、一緒に捕らえられている者達も、涙を流しながら土下座している。

ハリスやいつのまにか来ていたヤングも、神妙な顔をこちらに向けている。

いや、直接襲われたあなた達が、助けてあげたいって言うなら、俺に嫌はないよ。

「フォンさん、集落にいるあなた達の仲間や家族は、わたしが責任を持ってホンノー自治区へお連れしましょう。

あなた達は、カトウ運輸で働いて頂きます。
ここでしっかりと、他領での常識や基礎学力を付けて、集落を出ても生活出来るだけの知識を養って下さい。
ヤングさん、ハリスさんお願いしますね。」

「「承知しました。」」

「では皆さん、これからはカトウ運輸の従業員としてきっちり働いてもらいますからね。
よろしくお願いします。」

ヤングの声を聞いて、フォン達隠れホンノー人の30人は、新しい希望を胸に、涙を振り払って牢から出ていった。

閉ざされた集落の中で生まれてからずっと生活していた彼等にとって、外の世界は厳しいかもしれない。
ただ、早く自立できる様になって、家族と一緒に幸せな生活を送れるようになって欲しいものだ。
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