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第3章 国際連合は活躍する

8【アーベ領の視察2】

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<<アーベ街代官フック視点>>
ハーバラ村から戻って4年。

今俺は代官として、アーベの街で頑張っている。


アーベに戻って一番最初に気になったのは匂いだ。臭い。

アーベの街というか、当時のほとんどの街や村には下水道が無く、糞尿を各家から集めて1ケ所に埋めていた。
溜めている間に各家から漏れる匂いや、運ぶ際に道に零れた糞尿の匂い、埋め立て場所から風で流れてくる匂い。

とにかく臭い。

今まで気付かなかったが、こんなに臭かったんだ。
それに比べてハーバラ村は全然臭くなかった。
下水道が既に完備されていたから。

俺は早速領主様に下水道の敷設を提案した。

領主様も下水道のことは王都で聞いておられ、街の雇用対策として実施するよう拝命した。

俺は、職人ギルドに職人を集める手配をかける。
それに合わせて冒険者ギルドで労働者の手配をかけた。

数日で気難しそうな職人達や、荒くれ冒険者達が集まってくる。

何か懐かしい感じがする。
ハーバラ村でもこんな感じだった。

あと、近所の主婦を集めて料理教室も開いた。
ハーバラ村では俺も料理を手伝っていたんだ。ちょっとした腕前だぜ。

やっぱり、気難しい職人と荒くれ労働者とくれば、美味い飯だ。
かわいい女の子がいれば最高なんだけど、それは難しいから、幼馴染のリンダで我慢しておこう。

さあ、準備が整ったら作業開始だ。


とにかく、すったもんだがあったが、無事半年で下水道を引き終えた。
途中、どうしても難しいところがあって、ジョージさんに手紙を出したら、返事より早くみんなで来てくれてあっという間に解決していった。

やっぱりジョージさんの班はすごい。
誰かが、ジョージさんのことを「キンコー王国きっての敏腕現場監督」と褒め称えていたが、それを聞いた吟遊詩人が王国中に広めたとか。

領主様は、今回の功績を認めてくれて、俺と一部の職人、それと荒くれ労働者を、改革推進チームとして、領の職員になる事を認めてくれた。

改革推進チームは今日も水路を堀り、森を開き、集合住宅を建て、 .... とにかく忙しい日々を過ごしている。



そんなある日、王都からリザベート様が視察に来られるという話がきた。

風の噂で、リザベート様が、アカデミーを首席卒業後、王都の女性初の官僚に就任されたことを聞いていた。
国の役人として行政全体の管理をしていくそうだ。

彼女みたいに本当の現場を知っていて且つ先進的な考え方を持つ人が上に立ってくれるなんて、非常に嬉しい話だ。
早速、みんなにも話してやったら、一緒に城門まで迎えに行くと言う。

よし、みんなで行こう。

<<リザベート視点>>
「フック様、お久しぶりですね。」
わたし達はマーズル領の視察を終え、次に向かったのは、アーベ伯爵領です。

アーベ領の首都アーベの城壁を抜けるとフック様以下たくさんの人が出迎えてくれています。
職人さんもいるし、ちょっと強面の人もいる。
あれが手紙に書いてあった、改革推進チームだよね。
だって、同じ作業着を着てるもの。
フック様のとなりに可愛い女の人がいるわね。
フック様の彼女かな。
ちょっとこっちを睨んでいるような気がするけど、緊張しているのかな。
後で紹介してもらおうっと。

「リ、リザベート様、遠路はるばるアーベの街まで、あ、ありがとうございます。」

「フック様、手紙拝見しました。
頑張っておられるようで、嬉しいです。
こちらは、わたしの同僚のマークさんです。
アーベの街で様々な改革を推進してこられたとの事、しっかり視察させて頂き、王都に成果を報告させて頂きますね。」
「マーク・チーターです。フック代官、よろしくおねがいします。」

「ありがとうございます。
ハーバラ村で勉強させてもらったことを、この街でも少しずつ進めています。
視察頂いて、気がついたところを指摘頂けると助かります。」

フック様もライス先輩みたいに、領地に戻って頑張っておられるみたい。
代官同士の交流会みたいなのがあった方が、お互いに刺激になって良いかも。
ユーリスタお養母様に、提案してみよっと。

「こちらの皆さんか、手紙にあった改革推進チームの方々ですか?」

「そうです。アーベの街が誇るチームです。
また、視察でそれぞれの担当場所に行った時に紹介させて頂きます。

では、領主のアーベ伯爵様がお待ちですので、城の方にご案内させて頂きます。」

アーベ伯爵主催の晩餐会に招かれたわたし達は、アーベ伯爵にアーベ領での改革後の変化について伺ってみた。

「そうですねぇ、上下水道が整備されて病人が劇的に減りました。
今までは、腹痛や腰痛が多かったですから。
薬屋は、嘆いていますけどね。
糞尿を運んでいた人達には、下水道の清掃と糞尿の埋め立てをしてもらっています。

糞尿から肥料が作れるのをフックが学んで来たので、埋めて肥料になったところから、近隣の村に配っています。

ほとんどの村の代官からは、2割程収穫量が増えたと報告が来ております。

カトウ運輸が物流センターを設置してからは、スラムの住人にも働き口が見つかり、キチンとした生活ができるようになりました。

スラム跡地には、集合住宅が建てられ路上生活者はほとんどいなくなりました。

みんなが働くようになって、税収が増え生活保護費が減りました。

その分新たな改革を進められます。

また、上水道のおかげで水汲み等が無くなり、家事が楽になって、子供達を街中でよく見かけるようになりました。
今庶民向けの学校を建設していますので、これからは、学校で学ぶ子供達が増えるでしょう。

いやあ、これまで手を付けられなかった問題がどんどん解決していきますな。
ユーリスタ様の手腕とネクター王の英断。
どちらにも感服するばかりです。

リザベート様の話も聞いておりますぞ。

王立アカデミーを首席で入学し、卒業まで首席の座を守られた。
それだけじゃなく、あの頭の固い先生方を動かし、改革に協力させたというじゃないですか。

ハーバラ村におけるご活躍もフックからも聞いておりますぞ。

あの村から巣立ったフックのような若者達が、各地の改革を推進しているのを、領主達は皆承知しております。」

「アーベ伯爵様、ありがとうございます。
ハーバラ村で農村改革を始めた時は、こんなに大きなことになるなんて思ってもおりませんでした。

ただ、全ての人が、働ける環境があり、誰もが教育を受けられ、健康で食べる物に困らないようにしたかったんです。

実の父と母の受け売りなんですけどね。」

「リザベート様の実のご両親は、確かライアン男爵とマリアン様でしたな。
国の最大の危機を救った1番の立役者のお二人の落とし胤だけのことはあるということか。」

伯爵は何かを思い出すように、少し上を向いてからわたしを真っ直ぐに見つめて言葉を紡ぐ。

「ユリウスが王都で反乱を起こした時、わたしは王都で官僚をやっておりました。

王城近くの事務所で仕事をして居ると、反乱軍がいきなり入って来て、わたし達を縛って監禁してしまいました。

扉の外では、守兵と反乱軍が争う怒号や剣戟の音。
逃げ惑う住民の嘆きの声、それを蹂躙する声。
生きた心地がしない中で、我々は何もできなかったのです。

しばらく、おそらく4、5時間くらい経ってからでしょうか、外の喧騒が鎮まってくるのが分かりました。
我々を監視していた者達も外の異変に気付き、1人が扉を開けて外に出て行きました。

数分後、扉が突然開けられたかと思うと、わたし達を監視している賊達が鮮やかな手際で、倒されていきました。
おそらく先に外に出た賊に中の様子を確認したのでしょう。
電光石火とはまさにあの事です。

リザベート様のご両親が率いる「赤いイナズマ」が助けに来てくれたのです。

その後、1日を待たずして王都に平穏が戻ってきました。

王国は、赤いイナズマによって守られました。

しかし、わたしがあの時感じた無力感は、未だにトラウマになっています。

その後しばらくして、わたしは家督を継ぐ為にこの街へと戻ってきました。

わたしにはライアン殿のような強さも、マリアン様のような強力な魔法もありません。

ただ、官僚時代に築いた人脈と、事務能力はあります。

それらを活用しながら、他の領で実施された施策や失敗談を懸命に精査し取り入れて来ました。

今回、フックをハーバラ村にやったのも、その内の一つでしたが、想像以上の結果をもたらしてくれました。
ここにリザベート様がおられるのもご両親のお導きだと思っています。
本当にありがとうございます。」

アーベ様が深く頭を下げられるのを見たフック代官が、泣き出しそうな声で話し始めた。

「領主様のこんなにも深い思慮を知らずに、何となく父の跡を継いでいたら、わたしは駄目な代官として罷免されていたでしょう。

ハーバラ村に行けたこと、リザベート様をはじめ、ジャン様、ジョージさん達に会えたことで、俺は領主様の期待に少しでも近づけると思います。
ううっ、本当にううっ、ありがとうございました。
今後もご迷惑をお掛けするとううっ、思いますが、よろしくお願い致します。」

途中から泣き出したフック様だけど、伯爵様の深い想いを引き継いだフック様が代官だったら、この街は、安泰だろうと思います。

翌日から2日間の視察を終えたわたし達は、様々な思いを胸に、王都への帰路に着くのでした。
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