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第2章  敵はホンノー人にあり

6【対決そして決着】

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<<ライヤー視点>>
キンコー王国からお連れしたマサル殿は、我々が想像も出来ない大魔法で、あっと言う間に自治区全体を難攻不落の要塞にしてしまった。
わたしは、防衛隊の隊長に任命され、マサル殿の作られた魔道具の扱い方の訓練や防衛体制の構築に忙しく動き回っている。
つい先日までは、失意の中にいた兵士や民も意気揚々と防衛準備に余念がない。

怪我をして戦列を離れている兵士も、既にマサル殿の魔法で回復しており、戦列に復帰している。
中には古傷まで治り、以前よりも戦力が上がっているようだ。

カイン率いるカクガー軍が襲って来ても返り討ちにしてやろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

予定通り、カクガー軍は、襲撃にやって来た。
堀と岩壁は、マサル殿の幻覚魔法で、見えないようになっている。

何も知らないカクガー軍の攻撃が始まった。

カクガー軍の強力な火力は、全て見えない石壁に阻まれている。
近寄ってくる兵士は、堀に落ちるが、堀が見えない為、突然消えたように見える。

堀の中には空気の膜があり、落ちても怪我しないようになっている。
ただ、麻酔ガスなるものが漂っており、すぐに眠ってしまうらしい。

石壁の上から発射する雷魔法も、殺傷能力は低いが、敵を気絶させるものだ。

これらは、カクガー軍が誰かに操られているのでは、というキンコー王国側との交渉時に考えられた為の措置であった。

戦闘が始まって2時間程で、敵の大将であるカインが堀に落ち、残りわずかな敵兵も全て投降した為、戦闘は終結した。

敵味方合わせても数名の怪我人が出ただけで死者は出なかった。

堀の中の敵兵を回収し、予め用意しておいた収容所に収監する。

「マサル殿、ありがとう。いくら感謝してもしきれない。貴方は、全ホンノー人の恩人だ。」

どこからともなくマサルコールが起こり、それは、自治区内中にいつまでも響きわたった。

<<カイン視点>>
目を覚ますと、そこは狭い石で囲まれた部屋であった。
手と足には、枷が付いておりそこから出ることは、諦めざるを得ない状況だと認識できた。

「カイン、目覚めたか。」

俺を呼ぶ声に、そちらを見る。
ホンノー自治区の首長である、アベルがそこにいた。

「俺は、おまえ達に捕らえられたのか?」

俺の質問に、アベルは納得したかのような素ぶりを見せ、

「やはり、何も覚えていないのか?」と聞いてきた。

「おまえに捕らえられたということは、俺が何か誤ったことをしたということか。」

「その通りだ。どこまで記憶があるかわからないが、おまえはカクガーの民全てを武力で糾合し、その全軍を率いて、このホンノー自治区を落とそうとしたんだ。」

俺が?
確かにカクガーの部族全てを糾合したが、それは各部族が望んだ結果だったはず。………

うっ、頭が割れるように痛い。

頭を抱えて蹲っていると、1人の若者が近づいてきた。
彼は、俺の頭に手をかざすと「クリア」と唱えた。

すると、頭痛が全く取れ、頭の中に様々な記憶が蘇ってきた。

「アベル、どうやらおまえの言う通りのようだ。
今頭の中に、様々な記憶が湧いてきている。」

「やはり、おまえは、誰かに操られていたのだな。
心当たりはないか?」

「たぶん、2年程前から付き合いのある行商人だろう。」

「それは、どこの誰だ?」

「思い出せない。いや、始めから聞いていなかったかもしれない。」

「アベル様、これ以上は、難しいかもしれませんね。」

青年の言葉にアベルは頷き、わたしを牢屋に入れて、その場を立ち去った。

<<アベル視点>>
マサル殿の活躍で、ホンノー自治区はことなきを得た。
元々カインに悪意は無く、誰かに操られていたことは、彼の深層心理を読み取ることで、実証された。
ホンノー人には、深層心理を読み取る異能を持つ者もいるのだ。

カインに従い攻撃してきた部族の長達と個別に面談し、今後どうしたいか確認した。

ほぼ全ての部族が、ホンノー自治区に帰属したい旨を表明してきた。

「カイン、おまえは今後どうしたい?」

「アベル、負けた俺にそれを聞くのか?」

「おまえが、自分の意思でやった訳ではないだろう。」

「ふっ、甘いな。俺は、このまま処刑されてもしようがない。
まぁ、願いを聞いてくれるのなら、俺に従わざるを得なかった者達に寛大な措置を頼む。」

「カイン、元よりそのつもりだ。既に各部族長には聞き取りを終え、大半から帰順の意を汲んでいる。
キンコー王国と相談し、悪いようにはしないつもりだ。」

「アベル、ありがとう。それを聞いて安心した。
さあ、処刑してくれ。」

「カイン、俺はおまえを殺したりするつもりはない。
俺の右腕として、大きくなるホンノー自治区を支えてくれないか。」

「アベル、おまえは本当に甘いな。昔のままだ。
その甘さは、今後の憂いになるやもしれんぞ。
まぁ良い、おまえが、そう望むのであれば、足りない苛烈な部分は、俺が被ってやろう。」

「それはありがたいな。頑張ってくれよ、カイン。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「マサル殿、なんとお礼を言って良いかわからないくらい、感謝している。
我が部族だけでなく、カクガーのホンノー人も救って頂けるとは。」

「アベル様、とりあえずは良かったと言えます。
ただカイン殿を操り、今回の問題を起こした黒幕については、見つけられないままです。
根本解決しておかないと、同じようなことが起きる可能性が高いと思います。」

「一度ネクター王の元に行き、今後の相談をしませんか?」

「俺も、そう思っていた。自治区に帰属したいホンノー人が増え、町も手狭になるので、キンコー王国への併合も含めて、相談したいと思う。」

「そうですね。では、早速ですが参りましょうか。」

こうして、俺とマサル殿は、ネクター王に謁見し、事の顛末を説明した。
ネクター王からは、カクガーのホンノー人を自治区に入れること、カクガーの森を開拓し自治区を広げて良い旨の了承も得られた。

また、自治区側としても以前のような鎖国状態ではなく、キンコー王国との自由な交流を深めていきたいことを表明し、理解を得られた。

これからは、ホンノー人も変わっていくだろう。
自分達の文化を守り続けることは、絶対必要だが、その為に文化を停滞させ、風化させることは、最悪なのだから。

<<ホンノー人とある部族の長視点>>
儂らは、カクガーの森で、太古からの生活を続けてきた。
爺さんも親父も、なんの疑問も持たず、ただ部族の文化を守り続けることだけを考えて。

それがカイン軍の侵攻で、全てが無になった。
我が隣の部族が、カイン軍の前に何の抵抗もできずに、占領されてしまったのだ。

過去に何度も他民族から襲撃されることはあった。
その度に、我らは撃退してきたと聞いている。
我らホンノー人には異能の力があったからだ。

その為、我らは異端と見なされることも多く、他民族との交流を自ら避けるようになった。

そんな生活が数百年続き、部族の誰もが安全に慣れ切っていた。

そんな時にカイン軍の侵攻があったのだ。

しかし、いくら同じホンノー人だとはいえ、我らには異能の力があり、そう易々と占領されることはないと思うのだが。

命からがら逃げてきた民の話しを聞くと、カイン軍はわずか10名ほどで、火を噴く杖や地震を起こす杖を持っていたという。

それ程の強力な武器を誰が…

いや、儂らは気付いておった。
他国では強力な武器や戦闘形態が発明され、昔とは戦力が違いすぎることを。
既に我らの異能の力が衰えていることを。

それなのに、それを直視することなく、安穏と過ごしてきたのだ。

儂は悟った。カイン軍はこの地にもやってくるだろう。座して待つよりは、カイン軍に取り込まれ部族が生き残る道を選ぼうと。

翌日、カインに会いに行き、忠誠を誓った。
カインは快く受け入れてくれた。その後、続々と他部族もカインの元を訪れ、忠誠を誓っていく。
そして、あんなに長きに渡って、まとまらなかったカクガーの森の民が1つにまとまったのだった。

しばらくして、カインはキンコー王国のホンノー自治区を攻めると言い出した。
あそこは、確かカインの幼馴染であるアベルが納めていたはずである。
何故カインがアベルを攻めるのか理解に苦しむが、今にして思えばその時のカインは少し様子がおかしかった。
どこかうつろな目をしながら商人と密談している様子が度々見られた。

もしかすると、「あの商人がカインに入知恵しているのでは」とも思うが、確証が無いので口にはできなかった。

そして、ホンノー自治区に攻め入る時が来た。

戦闘可能な者は全て参加した。

結果はひどいものだった。町が見えたので、皆突撃していった。が、途中で消えてしまう。
攻撃しても、町に届かない。その上、天から雷のようなものが落ちてきて、戦士の意識を奪っていく。
やがてカイン自身も町の手前で消えてしまい、相手の降伏勧告を受け入れざるを得ない状況になった。

この戦いにはキンコー王国が介入しているのを後で聞いた。
儂は、ホンノー人の滅亡まで覚悟していたが、全ての民は助けられた。
それどころか、ホンノー自治区に帰属するなら平民として扱ってもらえる上に、カクガーの森に向けて開拓した土地は自治区の土地として認めるとのお達しもあった。
我らホンノー人は、これからキンコー王国の一員として、自分達の文化を守りつつ、他民族との交流を図りながら発展していく機会を得られたのだった。
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