上 下
29 / 382
第2章  敵はホンノー人にあり

4【ホンノー自治区へ】

しおりを挟む
<<マサル視点>>
コフブ領で手配してもらった案内人と護衛2名とで、ホンノー自治区に向かった。

ホンノー自治区は、コフブ領内でも最西にあり、カクガーの森に面している。
ホンノー自治区は、結界に覆われている為、案内人がいなければ、入り口を見つけることも、難しいだろう。

「マサル様、こちらがホンノー自治区の入り口になります。
ここからは、許可された者しか入れません。」
「案内ありがとうございます。ここからは、1人で大丈夫です。」
俺は、案内人と護衛に礼を言って、結界の中に入っていった。

結界の中は白い光が溢れており、しばらく歩くと森が広がってきた。
結界を抜けて森に入ったすぐの所に、検問所と思しき建物があり、その前に、ライヤー殿が待っていた。

「ライヤー殿、お待たせいたしました。」
「なんの、マサル殿、よくお越し下された。
早速ですが、ホンノー自治区の首長である、アベルの所にご案内いたします。」

検問所から街道をしばらく歩くと町が見えてきた。
町に入ってみると、一応活気はあるが、ところどころに武装した兵士が立っており、戦時中であることを窺わせる。
この町がホンノー自治区のほぼ全てになるらしい。
人口約600人、その内ですぐに戦力として使えるのは、150人程だとライヤー殿から聞いた。
5分くらい歩いたところで、一際大きな建物に到着した。
この建物が庁舎らしい。
ライヤー殿の先導で中を進むと首長室があった。

「ライヤーです。アベル首長、キンコー王国よりの先見隊としてマサル殿をお連れしました。」

「ライヤーご苦労だった。マサル殿、遠路ありがとうございます。
わたしは、ホンノー自治区の首長をしておりますアベルと申します。」
「キンコー王国ネクター王より、この度のホンノー自治区における災難に協力するよう、仰せつかりましたマサルです。」

アベル首長との挨拶を終え、早速現状についてヒヤリングを行う。
アベル首長やライヤー殿の話しを聞きながら、タブレットを確認し、現在把握できている内容とタブレットで確認した実際の状況を比較しながら現状についての同期をとっていく。
アベル首長は、ほぼ正確に状況を把握しており、現状持ちうる戦力では、最適と思われる配備をしていることが分かった。
これまでの会談でアベル首長の統率力や戦闘力の高さが見て取れる。

「そうすると、現状で抜本的にかけているところが2点ありますね。
1点目は、防壁。結界はありますが、既に敵は結界を通過する術を持っているため、防壁としては問題があります。
また敵の規模や味方の人数を考えると広範囲に回り込まれ複数個所を一度に責められると防ぐことは難しいでしょう。
これについては、結界の前に幅10メートル、深さ50メートルの堀を張り巡らせ、その内側に幅10メートル高さ10メートルの岩壁を作ります。
それで、敵の侵入を防ぐと共に壁の上から攻撃を加えられる体制を作りましょう。

2点目ですが、やはり味方の兵数と兵器の威力ですね。兵数に関しては、ゴーレムで対応しましょう。
兵器については、攻撃用の魔道具を事前に準備し、壁の上の兵に持たせることにしましょう。

いかがでしょうか?」

「マサル殿、本当にそれが実現できれば非常に助かるが、それらを構築するだけの時間も人数も足りないのが実情だ。」
「私が何とかします。とりあえず、今から結界の周りを調査させて下さい。」

「分かった、わたしが同行しよう。」

俺は、アベル首長の同行の元、結界の外20メートル地点を一周し、棒で大きな円を描くように線を引いた。
円の周囲は約5キロメートル程度だろうか。
壁や堀の作成地点に人や障害物が無いことを確認し、俺は土魔法を発動する。

「土魔法、土砂移動。」

俺のオリジナル魔法「土砂移動」で、線を引いたところから10メートル内側までの土50メートルの土を浮かせ、更に今できた堀の内側10メートルの位置に移動させる。
余った土は、積み上げた土壁の上に乗せた。

「土魔法、圧縮。」

出来た土壁の周りに強力な風魔法で枠を作り、土壁を上から圧縮する。これにより、高さ10メートル程度の強固な岩盤のような壁が出来上がった。
岩壁には、約5度程度の返しを付け、登れないように工夫している。

約1時間程の出来事だが、アベル首長は目を大きく開き驚いていた。
2人で壁の周囲を確認して回り問題の無いことを確認した。

「マサル殿、いったいあなたは………」
「わたしが何者かについては今は詳しくは言えません。ただ、アベル首長の味方であることは間違いありませんので、安心してください。」

俺は、アベル首長と相談して入り口になる門の作成と堀を渡る橋の構築に取り掛かった。
先程同様、土砂移動で、壁に門の分だけ穴を空け、その土砂を橋にして堀に掛けた。

「アベル首長、土砂移動と圧縮の機能を持った魔道具を用意しておきました。
ここに魔力を通していただければ、橋は、門の穴を塞ぐように移動しますので、最悪立てこもる必要があった場合にお使い下さい。
後は、内側から城壁に上るための階段を数ヶ所用意しておきます。
これで、壁の上からの攻撃ができるでしょう。
お話しを伺っている限りでは、敵の魔道具の射程距離は約30メートルですので、相手の攻撃は城壁の上までは届かないと思います。」

「マサル殿、なんて言ってよいかわからないが、非常に助かった。
これ程の防壁があれば、少人数とはいえ、充分敵の侵攻に対応できるだろう。」

「いえ、まだです。防壁の上から敵をせん滅するための魔道具が必要です。
対地上と対空の2種類が必要になるでしょう。今から用意します。」

俺は、空間魔法で魔道具の材料になる魔石と杖、それと魔力を溜めておける特殊な魔石を200セット取り出した。
これは事前にキンコー王国内の備蓄品から預かってきたものだ。

次に雷魔法を使って「スタンガン」の電気を飛ばすようなイメージの対地上戦用の魔道具を150セット完成させる。
対空戦用としては、氷魔法を使用した魔道具を50セット用意した。

対空戦に氷魔法を使用したのには訳がある。
1つ目は、対空戦に出てくる竜族は炎の属性があるため、火に強いことがあげられる。火に対しては氷の方が有効度が高い。
2つ目は、もし的を外したとしても、固まった氷はそのまま地上に落ちるので、地上の敵に対しても効果がある為である。

以上200セットの魔道具を壁の上に設置し、兵の配置を決めていった。

<<アベル視点>>

ライヤーがキンコー王国の使者を連れてきた。
キンコー王国とは、長年にわたり良好な関係を築いてきたとはいえ、いつ敵対関係になるやも知れん。
最終的には、ホンノー自治区もキンコー王国コフブ領の一部として組み込まれた方が庶民にとっては幸福なのだろうが、その時まで対等な関係を保っていないと不当な扱いを受ける恐れがある。
出来れば、今回の使者とうまくネゴし、対等な関係を維持したまま支援を受けられるように持っていきたい。

「ライヤーです。アベル首長、キンコー王国よりの先見隊としてマサル殿をお連れしました。」
マサル?聞いたことの無い名だ。コフブ伯爵が来るものだと思っていたが。

ライヤーと共に執務室に入ってきたのは20歳を少し過ぎたくらいの若者であった。
キンコー王国はホンノー自治区を見限ったか?と一瞬よぎった。

しかし、マサル殿と会談していく中で、その懸念は払しょくされていった。
こちらの実情をよく知っており、かつこちらの問題点や敵の状況も非常に正確に把握している。
時々うつむきながら考えるそぶりをするが、それは問題ではない。

2時間程の会談で、何が不足し、何が必要か、どう対処すればよいかを導き出せた。
実際に、その導き出した答えは絵空事のようなものではあるが、確かにそれが実現できれば想定する限りで最上の策となる。

すると、マサル殿が視察に行きたいという。
先程ついたばかりで、2時間の会談を行ったばかりだ。
疲れもあるだろうし、今日はこのまま歓迎会を、と思っていたのだが。

「大丈夫です。アベル首長同行願えますか?」

わたしに否応もない。2人で結界の周囲を歩きながら、会談で導き出した壁と堀を作る場所を決めていく。
どこまでできるのかわからないが、とりあえずやれるところまでやろうと思いながら。
マサル殿は歩きながら線を引いている。その線が1週繋がったところで、マサル殿が「では、始めます。」と言って呪文を唱えた。

すると、どういうことだろう。線に沿って堀の予定地の土が盛り上がったと思えば、壁の予定地辺りにどんどん移動して積みあがっていく。
強い風の幕が壁予定地の周りに吹き荒れ、積みあがった土を高く整形している。
「土魔法、圧縮」
マサル殿の呪文で、積みあがった土が圧縮され、風魔法が解除されると強固な岩壁が出来上がっていた。

わずか1時間ほどで、先程まで絵空事だと思っていた事が現実となった。

こ奴はいったい。こんな人間がいるなんて。もし敵になったらどうなる。
「マサル殿、いったいあなたは………」
「わたしが何者かについては今は詳しくは言えません。ただ、アベル首長の味方であることは間違いありませんので、安心してください。」
さわやかな笑顔は、わたしの危惧を和らげてくれる。
まだ、安心はできないが、今は、彼に頼るしかないと思う。

その後、マサル殿は、岩壁内に通じる門や橋の作成、攻撃用の魔道具の作成までを一気にやってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!

モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。 突然の事故で命を落とした主人公。 すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。  それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。 「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。  転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。 しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。 そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。 ※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

前世で家族に恵まれなかった俺、今世では優しい家族に囲まれる 俺だけが使える氷魔法で異世界無双

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
家族や恋人もいなく、孤独に過ごしていた俺は、ある日自宅で倒れ、気がつくと異世界転生をしていた。 神からの定番の啓示などもなく、戸惑いながらも優しい家族の元で過ごせたのは良かったが……。 どうやら、食料事情がよくないらしい。 俺自身が美味しいものを食べたいし、大事な家族のために何とかしないと! そう思ったアレスは、あの手この手を使って行動を開始するのだった。 これは孤独だった者が家族のために奮闘したり、時に冒険に出たり、飯テロしたり、もふもふしたりと……ある意味で好き勝手に生きる物語。 しかし、それが意味するところは……。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

処理中です...