66 / 132
ムーン大陸で大冒険
ようやく帰って来ましたよ
しおりを挟む
魔法陣に思い切り魔力を注いだら淡い光と共に、俺とミーアの姿が粒子になっていく。
手を振ってくれる秘書さん達や泣き顔のオシンさん、満面の笑顔のクルステさんが見守ってくれている中、俺とミーアの「ありがとう」の言葉を残して俺達は魔力の奔流に飲み込まれていった。
真っ暗な空間を抜けて出た先は薄暗いけど明るい光が散りばめられた不思議な空間だった。
そこが空の上だと気付いた俺は、慌てて服の飛行機能を使い空中に浮かぶ。
その時俺達の後ろが大きな光と音で包まれた。
何が起こっているのか瞬時には分からなかったが、後ろからの光に映し出された懐かしい顔はすぐに分かった。
タマの姿のミーアを抱えたまま、俺は真っ直ぐにイリヤ様達の元へ向かう。
ステファンさん、セバスさん、マティスさん、懐かしい顔が揃っていたんだ。
「ただいま。イリヤ様、みんな。」
「お帰りなさいませ、ヒロシ様。」
俺の言葉に、泣き顔と笑顔が入り混じったイリヤ様だけが、当たり前のように返事をしてくれる。
そうだ、こちらの世界でどのくらい経ったのかは分からないけど、彼女は俺の言葉を信じて待っていてくれたんだ。
少し大人びたイリヤ様に近づいて抱きしめた。
ミーアは間には挟まっていないよ。
既に地面に降りているからね。
しばらく固まっていた皆んなもようやく我に返って口々にお帰りって言ってくれていた。
少しして、セバスさんがイリヤ様に何か耳打ちしている。
イリヤ様は涙を拭いながら俺から離れ、そばにある壇上へと立つ。
「皆様、今奇跡が起こりました。
深い病の底で長らく苦しんでおられたヒロシ様が、神の加護に包まれてわたし達の戻って来られました。……」
俺は何のことか理解するのに少し時間がかかったが脳内アシスタントさんの助言もあり、今起きている事態を把握する。
俺の納得したような顔を見て、イリヤ様が壇上に俺を呼ぶ。
壇上からモールの方を見ると、ルルー商会の店先に『回復おめでとうございます。お帰りなさいヒロシ様』と書かれた垂れ幕があった。
ルルー商会のジャン会頭が俺達の様子を見て、すぐに作らせたのだろう。
さすが大陸一の大商会。
この垂れ幕のおかげで、俺の出現はあらかじめ用意された演出だとほとんどの人が思ったと思う。
グッジョブ、ジャンさん。
「こちらの世界では3年経っているようです。
今日はショッピングモールの増床落成式ですからね。
しっかりと挨拶をして下さいね。」
脳内アシスタントさんの助言を受けて、壇上の俺は話し始める。
長い間留守にしてゴメンね。元気になったから、また前みたいに頑張ります。
皆んなよろしくね。
「いやあヒロシ様、本当に驚きました。あの大勢が集まっている場所で、しかもあの幻想的なタイミングで現れるとは。
誰もが神の御業としか疑わなかったでしょうな。」
落成式から4日後、あの翌日から事態を掴めないながらも俺が戻ってきた事実を認識した各地の代官や村長達が続々と集まってきていた。
そしてようやく時間が空いた今、俺達4人と1匹は俺の執務室で歓談中だ。
ステファンさんから現況の報告を受ける。
イリヤ様が領主補佐として頑張ってくれたおかげで、他領や他国との問題も起きなかったようだ。
「ヒロシ様がいなくなってすぐにインディアナ神国のスペル様がいらして下さったのですよ。
あの方のおかげで、内外の混乱は急速に沈静化したとのことです。」
スペルさんか、懐かしいなって、こっちでは3年経ってるけど、向こうでは2週間もいなかったからなぁ。
でも挨拶には行かなきゃ。
「ちょっと行って来ますね。」
後ろからなにやら慌てている雰囲気を感じるが気にしない。
飛び立つ時に「ちょっとも変わっておられませんな。」ってセバスさんの笑い声が聞こえた。
あちらの蜘蛛の糸を使って作った服の飛行機能を使って、インディアナ神国までひとっ飛び。
インディアナ神国の中心部から少し離れたところで、騎士団の演習をしているのが見えた。
一際長い剣を振り回しているのは、あっ、スペルさんだ。
「スペルさーん。」
俺が空の上から声を掛けると、向こうも気付いたみたい。
騎士団の皆さんが空からの来訪者に驚くなか、スペルさんだけは平常運転だ。
「スペルさん、ご無沙汰しています。」
「ようヒロシ殿か、長い病が治ったみたいだな。
イリヤ様にはもう会ったのか?」
「ええ、この数日皆んなに揉みくちゃにされてました。
俺がいなくなって大変な時に、スペルさんが尽力して下さったって聞いたから、少しでも早くお礼を言わなきゃと思って飛んできました。」
「どうってことない。俺達は親友だからな。
親友が病に倒れたら協力するのは当たり前だろう。
ところでヒロシ殿。さっき空を飛んでたな。
前な風魔法を使ってたが、今は本当に飛んでるようだったぞ。
どうやったのか教えてくれんか。」
あくまで俺が病気だったことにしてくれるみたいだし、俺が帰って来るのを信用して待ってくれていたような口ぶりだ。
この人は信用できる人だ。
「この服を着ると飛べるんです。
詳細については言えないんですけど。
あっそうだ。お世話になったし、1着作って、差し上げますよ。」
「い、いいのか。本当か!」
スペルさんすごく嬉しそう。
「生地があまり残って無いんで、1着だけですけどね。」
ぶんぶん首を縦に振るスペルさんは前に立ち合いをした時のように純真な子供のようだ。
俺は収納から蜘蛛の糸を取り出して錬金する。
あっという間に出来上がり。
「出来ましたよ。これを着て魔力を注ぎながら、飛ぶイメージをして下さい。」
俺が渡した服をなんら疑うこと無く着たスペルさんは、すぐに遥か高くまで飛んで行ってしまったのだ。
手を振ってくれる秘書さん達や泣き顔のオシンさん、満面の笑顔のクルステさんが見守ってくれている中、俺とミーアの「ありがとう」の言葉を残して俺達は魔力の奔流に飲み込まれていった。
真っ暗な空間を抜けて出た先は薄暗いけど明るい光が散りばめられた不思議な空間だった。
そこが空の上だと気付いた俺は、慌てて服の飛行機能を使い空中に浮かぶ。
その時俺達の後ろが大きな光と音で包まれた。
何が起こっているのか瞬時には分からなかったが、後ろからの光に映し出された懐かしい顔はすぐに分かった。
タマの姿のミーアを抱えたまま、俺は真っ直ぐにイリヤ様達の元へ向かう。
ステファンさん、セバスさん、マティスさん、懐かしい顔が揃っていたんだ。
「ただいま。イリヤ様、みんな。」
「お帰りなさいませ、ヒロシ様。」
俺の言葉に、泣き顔と笑顔が入り混じったイリヤ様だけが、当たり前のように返事をしてくれる。
そうだ、こちらの世界でどのくらい経ったのかは分からないけど、彼女は俺の言葉を信じて待っていてくれたんだ。
少し大人びたイリヤ様に近づいて抱きしめた。
ミーアは間には挟まっていないよ。
既に地面に降りているからね。
しばらく固まっていた皆んなもようやく我に返って口々にお帰りって言ってくれていた。
少しして、セバスさんがイリヤ様に何か耳打ちしている。
イリヤ様は涙を拭いながら俺から離れ、そばにある壇上へと立つ。
「皆様、今奇跡が起こりました。
深い病の底で長らく苦しんでおられたヒロシ様が、神の加護に包まれてわたし達の戻って来られました。……」
俺は何のことか理解するのに少し時間がかかったが脳内アシスタントさんの助言もあり、今起きている事態を把握する。
俺の納得したような顔を見て、イリヤ様が壇上に俺を呼ぶ。
壇上からモールの方を見ると、ルルー商会の店先に『回復おめでとうございます。お帰りなさいヒロシ様』と書かれた垂れ幕があった。
ルルー商会のジャン会頭が俺達の様子を見て、すぐに作らせたのだろう。
さすが大陸一の大商会。
この垂れ幕のおかげで、俺の出現はあらかじめ用意された演出だとほとんどの人が思ったと思う。
グッジョブ、ジャンさん。
「こちらの世界では3年経っているようです。
今日はショッピングモールの増床落成式ですからね。
しっかりと挨拶をして下さいね。」
脳内アシスタントさんの助言を受けて、壇上の俺は話し始める。
長い間留守にしてゴメンね。元気になったから、また前みたいに頑張ります。
皆んなよろしくね。
「いやあヒロシ様、本当に驚きました。あの大勢が集まっている場所で、しかもあの幻想的なタイミングで現れるとは。
誰もが神の御業としか疑わなかったでしょうな。」
落成式から4日後、あの翌日から事態を掴めないながらも俺が戻ってきた事実を認識した各地の代官や村長達が続々と集まってきていた。
そしてようやく時間が空いた今、俺達4人と1匹は俺の執務室で歓談中だ。
ステファンさんから現況の報告を受ける。
イリヤ様が領主補佐として頑張ってくれたおかげで、他領や他国との問題も起きなかったようだ。
「ヒロシ様がいなくなってすぐにインディアナ神国のスペル様がいらして下さったのですよ。
あの方のおかげで、内外の混乱は急速に沈静化したとのことです。」
スペルさんか、懐かしいなって、こっちでは3年経ってるけど、向こうでは2週間もいなかったからなぁ。
でも挨拶には行かなきゃ。
「ちょっと行って来ますね。」
後ろからなにやら慌てている雰囲気を感じるが気にしない。
飛び立つ時に「ちょっとも変わっておられませんな。」ってセバスさんの笑い声が聞こえた。
あちらの蜘蛛の糸を使って作った服の飛行機能を使って、インディアナ神国までひとっ飛び。
インディアナ神国の中心部から少し離れたところで、騎士団の演習をしているのが見えた。
一際長い剣を振り回しているのは、あっ、スペルさんだ。
「スペルさーん。」
俺が空の上から声を掛けると、向こうも気付いたみたい。
騎士団の皆さんが空からの来訪者に驚くなか、スペルさんだけは平常運転だ。
「スペルさん、ご無沙汰しています。」
「ようヒロシ殿か、長い病が治ったみたいだな。
イリヤ様にはもう会ったのか?」
「ええ、この数日皆んなに揉みくちゃにされてました。
俺がいなくなって大変な時に、スペルさんが尽力して下さったって聞いたから、少しでも早くお礼を言わなきゃと思って飛んできました。」
「どうってことない。俺達は親友だからな。
親友が病に倒れたら協力するのは当たり前だろう。
ところでヒロシ殿。さっき空を飛んでたな。
前な風魔法を使ってたが、今は本当に飛んでるようだったぞ。
どうやったのか教えてくれんか。」
あくまで俺が病気だったことにしてくれるみたいだし、俺が帰って来るのを信用して待ってくれていたような口ぶりだ。
この人は信用できる人だ。
「この服を着ると飛べるんです。
詳細については言えないんですけど。
あっそうだ。お世話になったし、1着作って、差し上げますよ。」
「い、いいのか。本当か!」
スペルさんすごく嬉しそう。
「生地があまり残って無いんで、1着だけですけどね。」
ぶんぶん首を縦に振るスペルさんは前に立ち合いをした時のように純真な子供のようだ。
俺は収納から蜘蛛の糸を取り出して錬金する。
あっという間に出来上がり。
「出来ましたよ。これを着て魔力を注ぎながら、飛ぶイメージをして下さい。」
俺が渡した服をなんら疑うこと無く着たスペルさんは、すぐに遥か高くまで飛んで行ってしまったのだ。
1
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜
和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。
与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。
だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。
地道に進む予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる