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ムーン大陸で大冒険

ようやく帰って来ましたよ

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魔法陣に思い切り魔力を注いだら淡い光と共に、俺とミーアの姿が粒子になっていく。

手を振ってくれる秘書さん達や泣き顔のオシンさん、満面の笑顔のクルステさんが見守ってくれている中、俺とミーアの「ありがとう」の言葉を残して俺達は魔力の奔流に飲み込まれていった。

真っ暗な空間を抜けて出た先は薄暗いけど明るい光が散りばめられた不思議な空間だった。

そこが空の上だと気付いた俺は、慌てて服の飛行機能を使い空中に浮かぶ。

その時俺達の後ろが大きな光と音で包まれた。

何が起こっているのか瞬時には分からなかったが、後ろからの光に映し出された懐かしい顔はすぐに分かった。

タマの姿のミーアを抱えたまま、俺は真っ直ぐにイリヤ様達の元へ向かう。

ステファンさん、セバスさん、マティスさん、懐かしい顔が揃っていたんだ。


「ただいま。イリヤ様、みんな。」

「お帰りなさいませ、ヒロシ様。」

俺の言葉に、泣き顔と笑顔が入り混じったイリヤ様だけが、当たり前のように返事をしてくれる。

そうだ、こちらの世界でどのくらい経ったのかは分からないけど、彼女は俺の言葉を信じて待っていてくれたんだ。

少し大人びたイリヤ様に近づいて抱きしめた。

ミーアは間には挟まっていないよ。

既に地面に降りているからね。

しばらく固まっていた皆んなもようやく我に返って口々にお帰りって言ってくれていた。

少しして、セバスさんがイリヤ様に何か耳打ちしている。

イリヤ様は涙を拭いながら俺から離れ、そばにある壇上へと立つ。

「皆様、今奇跡が起こりました。

深い病の底で長らく苦しんでおられたヒロシ様が、神の加護に包まれてわたし達の戻って来られました。……」

俺は何のことか理解するのに少し時間がかかったが脳内アシスタントさんの助言もあり、今起きている事態を把握する。

俺の納得したような顔を見て、イリヤ様が壇上に俺を呼ぶ。

壇上からモールの方を見ると、ルルー商会の店先に『回復おめでとうございます。お帰りなさいヒロシ様』と書かれた垂れ幕があった。

ルルー商会のジャン会頭が俺達の様子を見て、すぐに作らせたのだろう。

さすが大陸一の大商会。

この垂れ幕のおかげで、俺の出現はあらかじめ用意された演出だとほとんどの人が思ったと思う。

グッジョブ、ジャンさん。

「こちらの世界では3年経っているようです。

今日はショッピングモールの増床落成式ですからね。

しっかりと挨拶をして下さいね。」

脳内アシスタントさんの助言を受けて、壇上の俺は話し始める。





長い間留守にしてゴメンね。元気になったから、また前みたいに頑張ります。

皆んなよろしくね。





「いやあヒロシ様、本当に驚きました。あの大勢が集まっている場所で、しかもあの幻想的なタイミングで現れるとは。

誰もが神の御業としか疑わなかったでしょうな。」

落成式から4日後、あの翌日から事態を掴めないながらも俺が戻ってきた事実を認識した各地の代官や村長達が続々と集まってきていた。

そしてようやく時間が空いた今、俺達4人と1匹は俺の執務室で歓談中だ。

ステファンさんから現況の報告を受ける。

イリヤ様が領主補佐として頑張ってくれたおかげで、他領や他国との問題も起きなかったようだ。

「ヒロシ様がいなくなってすぐにインディアナ神国のスペル様がいらして下さったのですよ。

あの方のおかげで、内外の混乱は急速に沈静化したとのことです。」

スペルさんか、懐かしいなって、こっちでは3年経ってるけど、向こうでは2週間もいなかったからなぁ。

でも挨拶には行かなきゃ。

「ちょっと行って来ますね。」

後ろからなにやら慌てている雰囲気を感じるが気にしない。

飛び立つ時に「ちょっとも変わっておられませんな。」ってセバスさんの笑い声が聞こえた。

あちらの蜘蛛の糸を使って作った服の飛行機能を使って、インディアナ神国までひとっ飛び。

インディアナ神国の中心部から少し離れたところで、騎士団の演習をしているのが見えた。

一際長い剣を振り回しているのは、あっ、スペルさんだ。

「スペルさーん。」

俺が空の上から声を掛けると、向こうも気付いたみたい。

騎士団の皆さんが空からの来訪者に驚くなか、スペルさんだけは平常運転だ。

「スペルさん、ご無沙汰しています。」

「ようヒロシ殿か、長い病が治ったみたいだな。

イリヤ様にはもう会ったのか?」

「ええ、この数日皆んなに揉みくちゃにされてました。

俺がいなくなって大変な時に、スペルさんが尽力して下さったって聞いたから、少しでも早くお礼を言わなきゃと思って飛んできました。」

「どうってことない。俺達は親友だからな。
親友が病に倒れたら協力するのは当たり前だろう。

ところでヒロシ殿。さっき空を飛んでたな。

前な風魔法を使ってたが、今は本当に飛んでるようだったぞ。

どうやったのか教えてくれんか。」

あくまで俺が病気だったことにしてくれるみたいだし、俺が帰って来るのを信用して待ってくれていたような口ぶりだ。

この人は信用できる人だ。

「この服を着ると飛べるんです。

詳細については言えないんですけど。

あっそうだ。お世話になったし、1着作って、差し上げますよ。」

「い、いいのか。本当か!」

スペルさんすごく嬉しそう。

「生地があまり残って無いんで、1着だけですけどね。」

ぶんぶん首を縦に振るスペルさんは前に立ち合いをした時のように純真な子供のようだ。

俺は収納から蜘蛛の糸を取り出して錬金する。

あっという間に出来上がり。

「出来ましたよ。これを着て魔力を注ぎながら、飛ぶイメージをして下さい。」

俺が渡した服をなんら疑うこと無く着たスペルさんは、すぐに遥か高くまで飛んで行ってしまったのだ。


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