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アルマニ領で領地経営

スペルさんはお辛いのがお好き

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インディアナ神国の使節団との和やかな会談も今後の定期的な交流を約束して終了した。

夕刻からは歓迎晩餐会を予定している。

セバスさんが指示を出して、一昨日から準備を進めていたらしい。

昨日のスタンピードで退治した魔物の中に、稀少な食材になるやつがいて、マークさんがその部位を切りとって持ってきてくれていたそうで、セバスさんが大興奮。

早速今日の晩餐会の目玉になるそうだ。


「ヒロシ殿、そろそろ良いのではないか。

練兵場に行こうじゃないか。」

スペルさん、やっぱり忘れてなかったよ。

「ええ、それじゃあ行きましょうか。」

俺達は城の裏にある練兵場に向かう。

練兵場では騎士団が訓練の真っ最中だったが、新しく領主になった俺と、インディアナ神国に強者ありと名高いスペルさんが手合わせを行うとあり、訓練を中断して整列、場所を開けている。

「ヒロシ様、武器は何を使われますか?」

騎士団長が尋ねてきた。

そういや武器って使ったこと無いや。

「いや、武器は使わない。」

「えっ、まさか無手で戦われるのですか?」

「そう、武器は使ったことがないんだ。」

騎士団の面々が囲むように並ぶことで出来た即席の闘技場の真ん中では、木剣を持ったスペルさんが素振りをして待っている。

「ヒロシ殿はやはり無手であるか。
魔法は使って頂いて結構。
では始めようか。」

俺が近くに行くと、スペルさんが静かに言う。

スペルさんと向かい合うと騎士団長が審判をかって出る。

「では一番勝負始めます。

両者準備はよろしいでしょうか?」

俺とスペルさんが頷く。

「では、はじめ!」

瞬間、恐ろしいほどの殺気を感じ、俺は身体に魔力を纏わせると10メートルほど真後ろに飛ぶ。

スペルさんの繰り出した剣撃による風圧により、目の前の地面に溝ができた。

あっぶねー。ギリギリじゃねえかよー。

俺は大きくジャンプし、空中で気配遮断、風魔法で高速移動してスペルさんの後ろに移動した。

またしても危機察知が働き、大きく後ろに下がる。

さっきまで俺がいた場所の地面にも剣撃の痕が残っていた。

気配遮断を見破られた?!

「ヒロシ殿、その気配遮断見事なものだ。

わたしが見切れないとは恐れいった。

ただ、惜しむらくは経験不足ということか。

動きが単調で読み易いのが、問題だな。」

気配を察知されているわけじゃなくて、動きを予測して対応したということか。

ならばこれでどうだ。

俺は土魔法でスペルさんの目の前に俺と同じくらいの土人間を作り出す。

即座にそれは木剣によって壊された。

今度は5体同時に土人間を形成。それと同時に高速でスペルさんの目の前に移動する。

スペルさんは迷うこと無く10メートルほど後ろに下がり、俺の放った水魔法は宙で霧散した。

5体でダメなら10体。今度は右下から、上に流すように水魔法を繰り出すも、またギリギリで交わされてるしまう。

次は15体。俺はこの戦いで最大の殺気を放ち、今度は左上から水魔法を繰り出すと同時に高速移動する。

「もらった!!」

スペルさんはそう言うと、自らの右下に剣を振るう。

そしてその剣撃が俺に当たる…ことはなかった。

大きく振り抜かれたスペルさんの木剣が空振りした時、彼は静かに倒れた。

しばらくしてスペルさんが、意識を取り戻す。

「ヒロシ殿、わたしの負けだ。

たしかに右下から微量の殺気を感じとったのだが。

まさか左上から来るとは。」

スペルさんの悔しそうな言葉に俺が答える。

「ええ、たしかに右下から殺気を出しました。

スペルさんには殺気を感じ取られることが分かりましたから、右下にいる時、あえて移動前にその場に少しだけ殺気を残して、そのまま左上に高速移動したのです。

こんな子供騙しが効くか少し不安だったんですが、スペルさんの放った言葉で、効いたと確信したのです。

最初に放った大きな殺気は俺の移動を目くらますには充分だったようですね。」

「見事だ。たしかに最初の大きな殺気を俺はヒロシ殿の焦りだと思った。

だからこそ右下に残された殺気がフェイクだと見抜けなかった。

未熟な技術を工夫で補い、かつ戦いの中で成長するとは。

こりゃヒロシ殿がいる間は間違っても争うべきでは無いな。

いやあ、参った参った。ガハハハ」

「さあスペル殿、そろそろ晩餐会の準備も出来ているところでしょう。

一緒に行きましょう。」


俺達ふたりが握手をして笑い合う姿を見て、その場にいた騎士達から歓声と拍手が沸き上がっていた。




俺達は風呂場に飛び込み、軽く汗を拭ってから、正式な衣装に着替えている。

「スペル殿、練兵場ではありがとうございました。

騎士団の皆が俺に懐疑的なのを見て、華を持たせて下さったのでしょ。」

「何のことだ、ヒロシ殿。
俺は純粋に貴殿と立ち会いたかっただけだぞ。

そして全力を尽くして負けただけのこと。

彼らがヒロシ殿を評価したのは、貴殿の実力ではないか。」

あくまで俺に華を持たせてくれるようだ。

事実、俺がシルバーウルフの群れを倒したのはこちらにも伝わっているし、レッドドラゴン討伐にも加わっていたという話しも噂に登っている。

だが、成人前の平民が王女様と婚約して公爵になり、自分達の主人になったとしたらどうか。

いくら前領主の隠し子だとはいえ、その実力に懐疑的になっても当たり前だろう。

だから今回の立ち合いは大きな意味があった。

剣豪で名高いインディアナ神国のスペルさんとの勝負に負けない実力を示して、その上で互いに器の大きさを認め合う必要があったのだ。

そういう意味でも、スペルさんの協力は嬉しかった。

着替え終わった俺達ふたりが並んで晩餐会場に入ると、満場の拍手に迎えられた。

先に入った騎士団長が先程の立ち合いの様子を皆に伝えていたようだ。

「新領主ヒロシ・デ・アルマニ様の登場です。

並びにインディアナ神国使節団御一行様。

ヒロシ様、皆さんにお声をお願い致します。」

ステファンさんの仕切りで晩餐会が進んでいく。

今日の晩餐会はインディアナ神国の使節団の歓迎会なのだが、俺のお披露目でもあるから、領内の貴族や有力者も集まっている。

皆んな俺の素性が知りたいようなので、どう切り抜けようか考えていたが、メインの話題が先程の俺とスペルさんの模擬戦になっているのはありがたかった。

やがて、メインディシュが運ばれてきた。

分厚いステーキだ。

「これは幻の食材と呼ばれるビリーベアーのステーキでございます。

使節団のマーク議員がご提供下さいました。

低温でじっくりと焼き上げておりますので是非ご賞味ください。」

幻の食材か。

俺は一口切り分け、先に口を付ける。

う、うん!?

口が痺れて言葉が出ない。

皆、俺が食べるのを待っていたが、一口口に入れたことで、自分の皿に手を付ける。

………

誰も話さない。いや話せないでいる。

「ガハハハ、これは美味いぞ。
このピリピリが堪らんなあ。」

やっぱり、この人はおかしいよね。
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