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ようこそ異世界へ

ミーアと戦うことになりそうです

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ラスク亭の専属冒険者となって意気揚々と初仕事に来た森で、魔人さんと会ってしまった。

「何だと!人間が魔人と戦わないだと?

うーん、そ、それは困る。

戦ってもらわないと。

我の使命というか、約束というか、ペナルティというか……

「用が無ければ、俺は行きますね。

じゃあ、魔人さん。さようなら。」

ま、待て、待ってくれ、待って下さいってば。」

待てが待って下さいになっちゃったよ。

人間と戦わないと何か問題でもあるのかな?

俺は立ち止まって、魔人、ミーアの方に振り向く。

「ミーアさんとおっしゃっいましたか。

何かお困りごとでも?」

あーまたお節介をしてしまいそうだ。

「おっ、聞いてくれるのか。

実はな、このあいだ、親父が大切にしている花瓶を割ってしまったのだ。

それで、怒った親父に勘当を言い渡されたんだけど、母様が間に入ってくれてな。

せっかく母様の取りなしで、親父の怒りが和らいだと思ったんだが、親父から許す条件として、武者修行に出て兄上より強くなって来ることが出されたのだよ。

ところが、兄上は魔人の中でも5指に入る強者。

どうしたものか分からなくなって、とりあえず人間の街に近いこの森で人間を待っているのだ。」

「どのくらいここにいるのですか?」

「10年くらいであるかな?」

「10年も!!」

「10年なんてそんなに長くはないぞ。

人間は全く来なかったけどな。

でも魔物と戦ったり、魔法の練習をしてたら、そんなに退屈でもなかったかな。

いや、ホント言うと、ちょっと飽きてきて困っていたのだが。」

「どうしてこんな森の奥深くに人が来ると思ったのですか?」

「そりゃこの道を抜けたら魔国に行くからに決まってるでしょ。

人間の一番強い勇者とかっていうのがここを通るんだろ。

弱っちい人間を相手にしても、全然物足りないしね。

勇者が魔王様を倒しに来るって、小さい時に読んだ絵本に書いてあったからな。」

こいつちょっと変?

まあでも、かわいそうっちゃかわいそうか。いろんな意味でね。

「勇者は来ないと思うけど。向こうでもそんな噂は聞かなかったし、10年も待って来なかったんでしょ。

たぶん待つだけ無駄だと思うけど。」

「そんな......じゃあ、お前、やっぱり相手して。」

「お断りします。」

「ええー。そんなあ。」

ミーアはとっても悲しそうな顔をする。

「修業しないと屋敷に帰れないのに......」

あーあ、べそをかきだしたよ。

「しょうがないなぁ。じゃあ、ちょっとだけだよ。

でも俺あんまり強くないと思うから、本気では来ないでね。」

「ええー、相手してくれるんだ。うれしー。じゃあ行くよ。」

ミーアの全身に黒い靄がかかり、少し身体が大きくなったみたいだ。

「本気で行くよ!」

「おい、本気はダメだって!」

まじかよ、嬉しくって約束を忘れてるみたいだ。

「高速演算!」

黒い靄に完全に包まれたミーアが近寄ってくる。

普通に早歩きくらいで。

あっ、爪が伸びた!

俺はすれ違いざまに伸ばされた手を軽くよけて、左足でミーアの足を引っかける。

ズデーン!

ミーアが前のめりに倒れた。

倒れた、倒れ......起き上がってこない。

「おい、大丈夫か?」

手を貸してやると、俺の手を掴んで立ち上がる。

「くそお、石にでも躓いたか。今度こそは殺ってやる。」


殺ってやるって言ったよ。おい。

ミーアは速足でその場を離れ、また全身を黒い靄で覆う。

「せーの!」

また速足だ。さっきよりはちょっと早いけど、充分よけられる。

足を引っかけてもいいけど、ちょっとかわいそうだし、とりあえず避けながら水魔法でミーアの進路に水を撒いてやる。

ズテーン!

今度は水でぬれた落ち葉に足を取られて、仰向けに滑っていった。



こんな感じで30分くらい相手をしていたら、ミーアがついに泣き出してしまった。

「ぼ、僕が一撃も入れられないなんて…


兄上には敵わなくても、僕だって魔人の中じゃ、結構強い方なのに。

このあいだの校内武闘会でも優勝したのに。

それに、それに、……

ねえ、人間ってみんな君みたいに強いの。

さっき、強くないって言ってたよねぇ。ねぇー。」

急に弱々しげに話し出したよ。

それに言葉も女の子らしくなっちゃったよ。

「本当はね、僕が強いか弱いか、分からないんだ。

だって、この世界に来て未だ数日だよ。

虫や犬っころとは戦ったことはあるけど、人間と戦ったことなんて無いんだから。」

「…決めた。僕は君と一緒に行くことにするよ。

君は、僕より強いし、もしかしたら兄上と同等、いや上かもしれないし。

一緒に居て、僕も強くなるんだ。

それにここにも飽きたし、ちょっと寂しかったし。

う、嘘、最後のは無し。
寂しかないもん。」

最後のが本音みたいだね。

「うーん、一緒に来るのはいいけど、面白いかどうかは分からなくよ。

それに君のその格好、それじゃ街で浮いちゃうね。

人間みたいに変身出来ない?」

「出来るよ。えい!

こんな感じでどう?」

頭から出ていたツノは引っ込み、顔に浮いていた入れ墨も消え、真っ赤な血のような色の瞳も綺麗なグリーンになっている。

真っ黒だった装いも、明るくポップな魔法少女風になっているし。

「ど、どうよ。」

はにかみながらうわ目使いに見てくるミーア。

むっちゃ可愛い。

持って帰りたい。いや、本人が望んでるからね。

誘拐じゃないからね。

「うん、可愛いじゃないか。」

「可愛いならもっと褒めなさいよね。」

おっ、次はツンデレか?

「ところで、あんた名前なんて言うのよ?」

そういや自己紹介が未だだった。

「俺の名前は榎木広志。
違う世界から数日前に来た日本人だ。

こっちでは、ヒロシって呼ばれているな。

ミーアよろしくね。」

「ヒロシか。変な名前。

ヒロシよろしくね。」

こうして、これから長い年月行動を共にするミーアと出会ったんだ。




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