上 下
2 / 132
ようこそ異世界へ

ようこそエレメントスへ

しおりを挟む
狐の神様が俺の前から突然消えてしまった。

まだ聞きたいことはたくさんあったのに。

何故、俺がその世界で100年も生きなきゃいけないのか?

何故俺が選ばれたのか?

俺がもらったという能力は何なのか?

今からどこに行けばいいのか?

はっきり言って、こんな状態でここに取り残されても本当に困るんだよな。

そんなことを考えながら途方に暮れていたら、また目の前が真っ白になった。

ここに来た時と同じだ。

またどこかに飛ばされるのか!

やがて目の前の霧が晴れてきた。


「おい、そこのヤツ、お前どこから現れやがった? 怪しいやつめ、こっちへ来い!」

すっかり霧が晴れた目の前には、映画で見たような街の風景が現れてきた。

そう、戦国時代くらい?

自衛隊がタイムトラベルして戦国武将と戦うやつ?

その時に自衛隊員が訪れる農家の風景に似ている。

「おい、お前だ。聞こえないのか? ますます怪しいやつめ。
ちょうど良いか。
奉行所へ引っ張って行ってやる!」

突然頭を鈍器で殴られ、腕を掴まれたまま膝を蹴られた俺はその場で膝をついて倒れる。

手を後ろ手に荒縄で縛られ、無理やり立たされた。

「さあ、早く歩かないか! まだ殴られたいのか!」

意識が朦朧とする中で、これ以上殴られるのは命にかかわると直感した俺は、ふらつく足を何とか動かして背中を押す男の前をよろよろと歩き出した。


畑の間をしばらく歩くと、大きな建物が見えてきた。

石造りの頑丈そうな建物でここだけ見ると中世ヨーロッパに出てきそうだ。

「おい、こいつがお奉行様殺しの下手人だ。牢に入れるから絶対逃がすんじゃねえぞ。

それと、尋問も禁止だ。妙な神通力を使いやがるからな。惑わされちまうぞ。

分かったか。


さあ、お前は早く入るんだ!」

腕に括られていた荒縄を引かれてその建物に引きづりこまれる。

ドンと背中を押されて、つんのめり前に数歩歩いたところで前のめりに倒れる。

ガチャ! ガチャ! ガチャ! ガチャ!!

大きな音に何とか後ろを振り向くと、鉄格子の扉が締められたところだった。

おいおい、狐の神様、いきなり命のピンチじゃないの。

土の床で打った額から流れる血を頭を振って振り払う。

手は荒縄で縛られたままなので、うまく起き上がることすらできない。

俺はどうなってしまうのだろうか。お奉行殺しとか言っていたけど、まさか罪を着せられているんじゃ。

大きな不安が俺を襲う。

寒い。息苦しい。喉が渇く。これら全てが更に不安を掻き立てる。

結局その晩は一睡もできずに朝を迎えた。

外からかすかに聞こえる鳥の声だけが朝の訪れを教えてくれる。

あー腹減った。

寒さ、喉の渇き、空腹が全身の感覚を徐々に失わせていた。

ガチャ! ガチャ! ガチャ! ガチャ!!

意識が朦朧とする中、背後で大きな音がする。

「ほら、いつまで寝てやがる!起きねえか!」

ドン!

背中を思いっきり蹴られ、薄れていた意識が一気に覚醒する。

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ。」

息が詰まり激しくせき込む俺を見て笑い声が聞こえる。

「ハハハハー。 何処の誰か知らねえが全くいいところで現れてくれやがった。

こいつを殺人犯に仕立ててこのまま死刑にしてやったら、万事うまくいくじゃねえか。」

「全くその通りでございます。荒又の旦那も上手いことやりなさった。
これでなんの嫌疑もかけられず旦那もお奉行様でさあね。」

「全くだ。越後屋、奉行の呼び出しご苦労だったな。」

「いえ、簡単なことでしたよ。ちょっと甘い話しを持ちかけるだけの簡単な仕事でした。」

「何はともあれ、こいつをとっとと殺して全てはおしまいさ。」

俺は殺されるのか。

100年生きるとかって言っていて、2日と持たなかったじゃねえか。

「さあ出るんだ。」

牢から引き出された俺はそのまま表に連れ出され、道端に用意されている磔台に乗せられた。

ようやく解かれた後ろ手の縄は解かれたと思ったとたん、磔台に再び括りつけられた。

槍を持った処刑官がすぐ横に控えている。

足元には薪の束があり、油のにおいがする。

わずかな炎でも俺を焼き尽くすのに充分だろう。

「やれっ!」

無慈悲な槍が俺の脇腹から斜め上に突き刺さる。

朦朧とする意識の中で、俺はパチパチという音を聞いていた。








「もう帰って来たんだねー。想像よりかなり早かったなー。」

意識が戻ってきたのでゆっくり目を開ける。

あれっ、俺って槍で突かれて火に焼かれたんじゃなかったっけ。

「おっ、気が付いたねー。気分はどうだいー?」

「まだ体中が自由に動きません。」

「そうだよねー。でも戻ってくるの早すぎー。」

そんなこと言われたって。

これ俺の素直な気持ち。何も知らされず、何もしないうちにあっという間に拉致られて、処刑されて。

「しょうがないなー。ちょっとだげ教えてあげるからさー、もう一回頑張ってねー。

君が行く世界、星って言った方が良いかな。この星エレメントス星は、バイオレンスな世界なのー。

命の価値が軽すぎて、平均年齢が20歳くらいしかないのー。

その中で100年生きられたら、ゲームコンプリートって感じー?

100年生きられたら創造神様からとーっても素敵なプレゼントがあるんだよー。

もう既にその一部は君ももらっているんだけどねー。

ほら、最初に僕が能力をあげたでしょー。あれのことだよー。

どんな能力だって?

それは自分で見つけて欲しいなー。まあヒントは教えてあげるよー。

あることをすると特殊な能力が手に入る上に、運ポイントが飛躍的に向上するんだよー。

運ポイントが上がると、トラブルにも巻き込まれにくくなるし、長生きするための能力や道具を手にすることが出来るんだよー。

何をしたら運ポイントが上がるんだってー?

それは言えないなあー。でもねー、ヒントをあげるよ。生理現象だよー。じゃーあーねー。また頑張ってきてねー。

あっ、そうそう運ポイントは、君に危害を加えようとする奴等を倒しても入るからねー。

でも今の君はまだ弱いから、すぐに戦うのはお勧めしないけどねー。」



そしてまた白い霧に包まれた俺はエレメントスに戻っていくのだった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

処理中です...