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第九章
〜最終決戦 vol.1〜
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第九章~最終決戦 vol.1~
エレナの丘の頂上にたどり着いた青たちは、眼前に広がる壮大な景色にしばし心を奪われた。
丘の風は柔らかく、遠くには草原が波のように揺れている。
空は澄み渡り、夜明け前のわずかな光が空を染めていた。
その頂上にひっそりと佇むのは、一体のフクロウの石像だった。
石像はまるで生きているかのような精巧な彫刻で、鋭い目と翼を広げた姿が印象的だった。
その足元には、幾何学的な模様が刻まれた古びた台座があり、不思議な力を感じさせた。
「ここに首飾りがあるはずなのに…」
エレナが青を見上げながら静かに言った。
「青様…私に触れてください…そして目を閉じて…」
青達が台座に触れると、その瞬間、石像がまばゆい光を放ち始めた。
眩しさに目を閉じた青たちは、光が消えたあと、目の前に現れた人物に息を呑んだ。
そこにいたのは、オディゴスの母、アジェリィだった。
彼女の登場とともに、周囲の空気が変わり、静寂と神聖さが増した。
アジェリィの声は柔らかく、しかし力強く響いた。
「本当の敵をお伝えしなければなりません。それは…『月影 玄 様』です。」
月影玄は、青自身の父親だ。
胸の奥底にしまい込んでいた感情が一気に湧き上がった。
しかし、不安や恐怖はなかった。
ふと、両脇を見ると、エレナとリィナがそこにいた。
エレナは鋭い決意を瞳に宿し、リィナはその小さな体からは想像もつかないほどの勇敢な姿勢を見せていた。
彼女たちの存在が、青の心を支えていた。
アジェリィは微笑みながら、エレナとリィナに歩み寄った。
「あなたたちには、これからの戦いを乗り越えるための力を授けます。」
彼女はまずエレナの前に立ち、その額に手をかざした。
「エレナ、あなたには『時渡りの眼』を授けます。」
「この力は、時間を超えて真実を見る能力です。」
エレナの瞳が一瞬輝き、彼女は深く息を吸い込んだ。
次にアジェリィはリィナの前に立ち、優しく微笑んだ。
「リィナ、小さな戦士よ。」
「あなたには『心音共鳴』の力を授けます。」
「この力でリィナは皆様と心の中で会話ができます」
リィナは目を輝かせながら、大きく頷いた。
アジェリィは最後に青に目を向け、静かに言った。
「青、あなたにこの世界の命運を託します。」
アジェリィの体が次第に光に包まれ始めた。
光が完全に消えると、フクロウの石像は元の静寂を取り戻していた。
しかし、青たちの心には新たな力と決意が宿っていた。
「さあ、行こう。」
青のその一言に、エレナとリィナは大きく頷き、三人で再び歩み始めた。
旅路を急ぐ青たち三人。
彼らは次の目的地であるBARに向かった。
しかし、そこには以前とは違う姿のヴォルケンが待ち構えていた。
macotoに敗れたヴォルケンは復讐を誓い、リカに人体改造を依頼していた。
その結果、かろうじて意識を保ちながらも、もはや人間とは思えない異形の姿となっていた。
「お、、、そかっ、、、、たな」
ヴォルケンの荒々しい声がBARに響く。
青はエレナとリィナを狭間の世界へ避難させ、単独でヴォルケンに立ち向かう決意をした。
記憶と力を取り戻した青は、自信を持って戦いに挑んだ。
しかし、改造を受けたヴォルケンには青の攻撃が通用しない。
その時、狭間の世界からリィナが新たに得た『心音共鳴』の力で青に語りかけた。
青はリィナの声を信じ、指示された弱点に全力で攻撃を集中させた。
その結果、ヴォルケンは大きく怯み、隙が生まれた。
「エレナ、リィナ、ありがとう!」
しかし、ヴォルケンを完全に倒すには至らず、青はさらなる修練が必要だと感じた。
青は狭間の世界に戻り、鍛錬の日々を送ることにした。
エレナ、リィナ、そしてmacotoも青に続き、共に修練を積んでいく。
日々の努力の中で彼らはさらなる強さを手に入れていった。
オディゴスに促され、青は「未来の扉」を開いた。
その扉の先で青を待っていたのは、かつて青に命を救われたエレナの幼馴染、レオだった。
「この時を待っていました!!」
レオは血の滲むような努力を重ね、数百名の戦闘員を集めていた。
彼は「トライデント 未来支部」のリーダーとして、頼もしい存在に成長していた。
「WE are TRIDENT!!」
レオと彼の率いる戦闘員たちが声を合わせ、青たちの前に整列した。その姿に青は心強さを感じ、未来への希望を抱いた。
こうして、頼もしい増援と共に、最終決戦の幕が今開かれる…。
macotoの号令で最後のブリーフィングが始まった。
「未来支部のみんな、本当によく集まってくれたわ」
「青に続き、心から感謝するわ」
「あ・り・が・と♡」
なんともしまらないはじまりだ……
かつて鬼神とまで言われたmacotoがこうも変わってしまったとは……
戦いが終わったらゆっくり話を聞こう。
「さて、わたしたちはこれから、ミシェルの本部に向かうわ」
「最終目標は武力の鎮圧……ちんあつ…チン………アツ!!」
「あっ…失礼。」
「武力の鎮圧とビルの破壊よ」
「そして、もっとも注意しなきゃならない敵が4人、レイダー四天王よ」
ミシェルの軍隊的立場「レイダー」
武力で裏仕事をするやつらだ
その数は数千とも言われている
それをまとめるのが「レイダー四天王」
リーダーの「ジョシュ」
刀使いの「夜叉」
改造人と化した「ヴォルケン」
研究所の責任者「リカ」
そしてそれらをまとめるBOSS……「月影 玄」僕の親父だ、、、
「まずは、レオ率いる未来支部の精鋭達にレイダーの戦闘員を制圧してもらうわ」
「戦闘員の数はおそらく1000以上。」
「あたしたちトライデントは300ちょいってとこかしら?」
「圧倒的不利ね……なにか策はあるのかしらレオ」
「はい!リーダー」
「所詮、あちらは烏合の衆」
「対して我らトライデントは1人1人が鍛錬を何年もしてきた格闘のスペシャリストが300人です」
「さらに、しっかりと連携がでるように訓練してあります!」
「1000でも2000でも負けることはありません」
「弱虫レオがこんなにたくましくなっちゃって…泣けるわ」
「惚れちゃいそう♡」
「OKよ」
「ではそちらはレオを主軸に連携をとってちょうだい」
「はっ!了解いたしました!」
本当にたくましくなってくれたもんだ。
いつもエレナの後ろに隠れてた子がこんなに立派になって帰ってくるなんて。
「さて……問題はこっちね」
残りの四天王。
そしてBOSS「月影 玄」
リカに戦闘能力はないとして、残り4人。
対する僕らは、macoto、エレナ、僕の3人。
どう戦うか?
「ま、こっちはノリで行きましょ~」
「おい!macoto!!」
僕は思わず突っ込んでしまった。
「ヴォルケンちゃんはあたしが責任を持って教育するわ」
「それまでは、青とエレナ、そしてレオと残りの隊員で頑張ってちょうだい」
「大丈夫よ青」
「あなたの力が戻ったんだから!」
「あたしより強いあなたがいれば大丈夫」
相変わらずのノープランだ。
「わかったよ。やるしかないんだろ、リーダー!」
macotoはニッコリ笑うと僕に抱きついてきた。
「生き残るわよ。全員で!」
「ああ。必ずだ!」
僕は親友と固く誓った。
もう悩まないと決めたんだ。
やるしかない。
macotoの雰囲気がガラリと代わりトライデント隊員に向け激励の言葉をはなつ。
「よく集まった我らの同志達よ」
「我らトライデントの力を見せる時が来た!」
「君達のしてきた努力は必ず報われる」
「思い出せ!あの訓練を!!」
「常に思え!心に大切な人を!」
「共に闘え!苦楽を共にした仲間を!」
「俺達は誰にも負けない!」
「さぁ叫べ!!」
「WE are TRIDENT!!」
(WE are TRIDENT!!)
「WE are TRIDENT!!」
(WE are TRIDENT!!)
「WE are TRIDENT!!」
(WE are TRIDENT!!)
「誰1人……絶対死ぬな!!」
「以上」
リーダーの熱いスピーチで隊員のボルテージが最高潮に上がった!
レオが続く。
「さぁ!みんな行こう!!
最終決戦だ!!」
(うおぉぉぉぉぉぉぉぉ)
狭間の世界が揺れるほどの雄叫び。
なんとも頼もしい次世代の戦士達。
僕も胸が熱くなってきた。
「エレナ、リィナ」
僕は2人を力強く抱きしめた。
「いよいよだ。」
「全てを終わりにしよう」
「エレナ」
「無茶はするな」
「だが、お前は俺の娘だ!」
「必ずやれる!」
「うん。パパも無茶はしないで」
「ああ。共に戦おう」
「リィナ」
「幼い君に大変な思いをさせてすまない」
「でも頼りにしている」
「だってリィナは……」
「おじいちゃんの孫だもん!」
「はは。そうだ。」
「僕の孫だ!最高のな!!」
「新しい力でみんなをサポートしてあげてくれ」
「頼んだぞ!」
「まっかせてー!」
「オディゴス」
「はい。我が主(あるじ)」
「リィナのサポートを頼む」
「もちろんでございます」
「主よ。御武運を!!」
全ての準備は整った。
僕は天高く手をあげ目を閉じた。
ゆっくりと現代への扉が開く。
「さぁ!行こう!!」
レオを先頭に数百名のトライデント軍団が扉を進んでいく。
「青。いくわよ」
「ああ。必ず勝つぞ」
僕達も続いて最終決戦へと向かった。
扉を抜けた先はBAR「Hazama」。
漂う木材の香りとわずかに甘いアルコールの匂いが出迎え、どこか懐かしい空気感が広がっている。
店内には重厚なカウンターと温かな間接照明が揺れる静かな空間が広がっていた。
戦闘前の緊張を解くには最適の場所。
青は周囲を見渡しながら、奥で忙しなく準備を進めるmacotoを目にする。
彼が必要だと言うものがここにあるらしい。
しかし、この狭いBARに数百名もの隊員が入れるはずがない。
裏手に広がる空き地にテントが次々と設営され、仮拠点が作られていった。
夜の冷たい空気が漂う中、焚き火の明かりが揺れ、隊員たちはオディゴスが丹精込めて作った弁当で腹ごしらえをしている。
BARに残ったのは青、macoto、エレナ、そしてレオの4人だけだった。
「あたし達も何かお腹に入れておきましょ。」
macotoが手際よくキッチンに立ち、得意のペペロンチーノを作り始めた。
立ち込めるニンニクとオリーブオイルの香りに、全員の空腹が一気に刺激される。
「ニンニクパワーで元気モリモリよ!」
さっきまで戦闘計画を真剣に語っていたmacotoが、いつもの明るいオカマリーダーに戻っている。
そのギャップに青は小さく笑った。
「レオ。少し手伝ってちょうだい。」
「はい。リーダー。」
macotoとレオが地下に向かう間、青とエレナは黙々と後片付けを始めた。
キッチンに立つ2人はどこかぎこちないが、心地よい静けさがそこにあった。
「パパとこうしてキッチンに立つなんて…なんだか不思議。」
エレナが控えめに呟く。
「そうだな。」
青はふと手を止め、優しい眼差しを向けた。
「毎日訓練ばかりでこんなことはしてこなかったもんな。」
「これが終わったら、リィナを連れて旅行にでも行こう。」
「少しでもエレナの孤独を埋めたいんだ。」
「そうだね、パパ。」
「私も話したいことが山ほどある。」
「私たちの時間も少しずつ取り戻そう。」
エレナの微笑みはどこか懐かしく、青は心の中で強く決意した。
地下に降りたmacotoとレオの間には、張り詰めた空気が流れていた。
レオにとってmacotoは尊敬する人物であり、同時にプレッシャーを感じる存在でもあった。
「レオ、あなたに聞きたいことがあるの。」
macotoが不意に足を止めた。
「はい!リーダー。なんでしょうか?」
レオはピンと背筋を伸ばし、緊張を隠せない。
「あなた…エレナに惚れてたわよね?」
「ん!?…………」
突拍子もない質問に、レオは完全に硬直した。
「いまでも惚れてるんでしょ?」
「あたしにはわかるのよ~」
macotoの視線が突き刺さるようにレオを射抜いた。
「いや……自分は………。」
視線を泳がせ、答えに窮するレオを見て、macotoは溜息をついた後、一歩近づく。
「リーダーレオ!!!」
「はっ!」
敬礼をするレオに対し、macotoが突然叫び声をあげた。
「ぎゃあ!」
macotoは容赦なくレオの股間を掴み、持ち上げる。
「しっかりしなさい!レオ。」
「この戦いで命を落とすかもしれないのよ。」
「伝えておかないと後悔するかもしれないわ…」
「リーダー………。」
「ま、あたしより先に死んだらコロスわよ♥。」
「さ、ついた。」
2人が到着したのは地下2階にある訓練所の小部屋。
中央には大きな金庫が鎮座していた。
金庫はmacotoの生体認証でしか開かない仕組みになっている。
「まずはコレね。」
macotoが金庫を開け、2着の戦闘服を取り出した。
ネームタグには「SEI」と「ERENA」と刻まれている。
macotoが大切そうに戦闘服を抱えながら語る。
「いつかあの二人に渡そうと思って作っておいたのよ。」
「特別仕様なんだから!」
次に手に取ったのは、刀だった。
「レオ、あなた刀は使えるかしら?」
「はい。武器は一通り訓練済みです!」
「じゃ、これあげる。」
「この刀は我が家に代々伝わる由緒ある刀よ。」
「夜叉との戦いに使いなさい。」
「自分に夜叉が倒せるでしょうか?」
少しため息をついたmacotoがまた……
「ぎゃあああああああ!」
レオが再び悲鳴をあげる。
「あなた。自信を持ちなさい!」
「努力は裏切らないわ」
「エレナと2人で、、、いや、、」
「リィナちゃんも居るから3人」
「必ず活路を見つけなさい!」
レオは驚きつつも感謝の念を込めて頷いた。
「最後はこれね。」
macotoが取り出したのは龍の細工が施された奇妙な瓶だった。
中にはワインのような赤黒い液体が揺れている。
「これがあればまあなんとかなるでしょ。」
macotoは瓶を大事そうにポケットにしまい、笑顔を浮かべた。
「さ、戻りましょ。」
macotoとレオが戻ると、青とエレナが待っていた。
「お待たせ!!二人に渡すものがあるの。」
macotoがケースから戦闘服を取り出し、2人に手渡す。
「じゃあ~ん!二人のために作っておいたのよ!」
エレナが目を輝かせ、飛び跳ねた。
macotoが新調した戦闘服を身にまとい、青とエレナは改めて気を引き締める。
「macoto、エレナ、レオ。」
青の声が静かに響く。
「厳しい戦いになると思う。」
「でも最後まであきらめずに戦おう!行くぞ!」
言葉はそれ以上いらなかった。
お互いが信じ合い、尊敬し合う絆が、目の前に広がる夜の闇を貫いていく。
macotoを先頭に、数百名の戦闘員たちが続く。
その行進はまるで光の波のように静寂を切り裂いていった。
今夜、すべての決着がつく。
ーーー研究所内 実験室ーーー
青達がレオと合流した同じ時刻。
敗れたヴォルケンはリカのいる研究室に向かっていた。
「リ………カ―――」
「ヴォルケン!?」
青に返り討ちにあったヴォルケンはリカに怒りの表情で戻ってきた。
肉体改造までして強くなったはずなのに、青に全く歯が立たなかったからだ。
実験室内で暴れるヴォルケンにリカは諭すように話し始める。
「あなた、体がまだ慣れていないうちに戦ったのね」
「改造で輸血していたとはいえ、血液も失っていたわ」
「そんな状態で力を取り戻した青に勝てるとでも?」
「彼はトライデントで一番の実力者よ」
「そ…それを………なんと……か…するの…が…おまえ……の…しご…と」
「おれ…を……か…んぜ……んに…かいぞ………うしろ!」
「これ以上は無理よ!」
「本当にただの怪物になってしまうわ!!」
ヴォルケンは怒り狂いリカの首を締め上げる
「や…………れ」
リカはもうやるしかなかった。
ヴォルケンに殺される前に……
研究員たちも従うしかなかった。
ヴォルケンの怒りが実験室を満たしていた。
彼の目は憎悪に燃え、全身から発せられる殺気は空気そのものを震わせるようだった。
彼の手はリカの首を掴み、指先が食い込むたびにリカは顔を歪める。
「や………れ……」
かすれた声で命じるヴォルケンの表情には、もはや人間らしい感情は残っていなかった。
ただ一つ、復讐の炎がその瞳に宿っているだけだった。
リカは諦めたように目を閉じ、小さく息を吐いた。
「分かったわ……やるしかないのね……。」
彼女は息を飲み込み、急いで制御台の前に立つと研究員たちに命じた。
「全員、準備に入って!更なる改造の準備を開始するわ!」
研究員たちは震える手で作業を始めた。
彼らは誰もヴォルケンを直視しようとせず、無言のまま機械を動かしていく。
ヴォルケンは金属製の実験台へと歩み寄った。
その足音は重く、響き渡るたびに床が軋む。
実験台に横たわると、冷たい拘束具が彼の両手両足を締め上げた。
「心拍数は既に限界に近い値です……」
「無視して進めて!彼が生き残れるかどうかなんて問題じゃないのよ!」
リカの声が響く中、天井からは無数のロボットアームが降りてきた。
その先端には、メスや電極、ドリルといった器具が取り付けられている。
蛍光灯の光がそれらの金属部分で反射し、薄暗い室内に鋭い光を散らしていた。
まず、ヴォルケンの背中が切り開かれた。
巨大なメスが肉を裂き、血が噴き出す。
「輸血急げ!!」
その下から覗く骨に、黒光りする金属プレートが次々と埋め込まれていった。
「……!!!」
ヴォルケンは歯を食いしばりながら、叫び声を抑えようと耐えたが、痛みの波が全身を襲い続けた。
プレートが骨に固定されるたびに鈍い音が室内に響き、床に滴る血が真紅の小さな川を作っていく。
「背骨の補強が完了しました。次は胸郭に入ります。」
アームがヴォルケンの胸部へと降り、胸板を切り開いた。
心臓を守るように設置された金属のプレートが組み込まれると、彼の呼吸が一瞬乱れる。
次に両腕と両脚の皮膚が切り裂かれ、肉が剥き出しにされた。
メスが筋繊維を慎重に切断し、そこに人工筋肉が埋め込まれていく。
赤黒いい液体がチューブを通じて注入される。
新たに開発された人口血液だ。
人の筋力を増幅させる血液……
それはまるで生きているかのように彼の血管を這い回り、筋肉を膨張させていった。
「筋肉の結合が始まります。」
「破裂の可能性あり。」
金属が肉と融合するたびに火花が散り、焼けた肉の匂いが実験室を満たす。
頭部が固定され、研究員たちは慎重にヴォルケンの頭蓋骨を開いた。
ドリルの音が響き、骨片が散らばる中、脳の奥深くにさらに制御チップを埋め込む作業が始まった。
「神経系の接続を開始します。」
電極がヴォルケンの脳に刺さるたびに、彼の体が激しく痙攣した。
心拍数が跳ね上がり、目が真っ赤に光り始める。
「リカ様、彼の生命活動が不安定です!」
「気にしないで進めなさい!この男は普通の生命体じゃない!」
最後の工程では、全身が金属で覆われていった。
生身の肉が引き裂かれ、硬化した装甲に置き換えられるたびに、ヴォルケンはもはや人間の姿を失っていった。
拘束具が解除されると同時に、彼はゆっくりと立ち上がった。
その動きは鈍く、機械的だったが、一歩一歩が重く地響きを立てた。
目は冷たく赤く光り、口元からは低いうなり声しか聞こえない。
言葉を話すことはもはやできず、彼を突き動かしているのは純粋な復讐心だけだった。
リカが震える声で問いかける。
「ヴォルケン……聞こえるの?」
彼は振り返り、リカを睨みつけニヤリとわらう。
口元がわずかに動き、かすれた声で一言だけ呟いた。
「う”ぅぅぅぅ」
「……コロス……」
彼が話す最後の言葉だった。
その瞬間、彼は拳を振り上げ、実験室の壁を粉々に砕いた。
轟音と共に壁の向こうへと消えていくヴォルケン。
その姿は完全に怪物そのものであり、人間の面影はどこにも残っていなかった。
リカは崩れ落ちるように床に座り込み、震える手で顔を覆った。
「もう……戻れない……。」
「この怪物を止められるのは……青しかいない……。」
そして、ヴォルケンの足音は、闇の中へと消えていった。
ーーーミシェル製薬 正面玄関ーーー
BARのある新宿からビルのある渋谷まで約400人の青い軍団が列を連ねる
僕たちトライデントは渋谷にそびえ立つミシェル製薬本社の前に到着した。
「着いたぞ。」
60階建てのそのビルは暗闇の中で、ネオンがガラス窓に反射し、不気味に揺らめいている。
これだけの人数で動いたのだ。おそらく、情報は既に漏れているだろう。
案の定、ビル前にはミシェル製薬の戦闘員が1400人もの規模で待ち構えていた。
対する我がトライデントの兵士はわずか380人。
しかし、数ではなく統率が勝敗を分ける。
レオはそう言った。
ミシェルの戦闘員たちは、ばらばらの動きで威嚇の声を上げている。
まるで地元の不良集団のような統率の無さだ。
一方、トライデントの兵士たちは整然と並び、5人1組のチーム単位で確固たる陣形を取っている。
班長を中心に鍛え上げられた動きは、まるで一つの生き物のようだった。
夜の渋谷に異様な緊張感が漂う。
両軍が対峙する中、レオが一歩前に出て声を張り上げた。
「全隊員!班長の指示を厳守せよ!勝利を掴むのは我らだ!」
「了解!!」
整然とした敬礼とともに全員が声を揃える。
その響きがビル群の間にこだました。
一方、ミシェルの戦闘員たちはただ大声を上げ、混沌としたままだ。
彼らは数の優位に甘え、秩序のない集団となっていた。
だが、その圧倒的な人数には恐怖を覚えざるを得ない。
レオが剣を抜き、再び叫ぶ。
「行くぞ!我らトライデント!」
「突入!」
部隊が一斉に走り出した。
その動きは正確で、流れるようなフォーメーションを保ったまま敵陣へと突進していく。
両軍の距離が一気に縮まり、ついに激突した。
レオの指示が響き渡る。
「防御ラインを維持しろ!」
前衛部隊が盾を構え、敵の攻撃を受け止める。
ミシェルの戦闘員たちは怒号を上げながら武器を振り下ろしてくるが、
トライデントの兵士たちは冷静に攻撃をいなし、正確なカウンターを繰り出していく。
槍が敵を貫き、剣が一閃で数人を薙ぎ払う。
「崩すな!押し返せ!」
班長たちが次々と指示を飛ばし、全体の連携を保ちながら確実に敵を減らしていく。
しかし、敵の勢いは止まらない。
突然、敵陣の奥から奇妙な武器を持った精鋭部隊が現れた。
黒い装甲に身を包み、ヘルメットの奥から感情のない冷たい視線を放つ。
彼らの動きは滑らかで、鋭い槍さばきと体術でトライデントの防衛ラインを突き崩し始めた。
トライデントの隊員はみるみるうちに押されていく
負傷者も多く戦場を離脱するものもでてきた。
「ここは俺に任せろ!」
後方にいた青が最前線に出た。
一瞬で間合いを詰めると、精鋭部隊の一人を一撃で吹き飛ばす。
「レオ、隊を再編しろ!俺が時間を稼ぐ!」
「はい!お願いします、青さん!」
レオが即座に指示を出す。
「全隊員、再編!持ち場を離れるな!」
「精鋭部隊を包囲して撃破せよ!」
後方ではエレナが「時渡りの眼」を使い、敵の攻撃を先読みして兵士たちに指示を出していた。
「次は右側!槍兵が突進してくるよ!」
エレナの予知に従い、兵士たちが盾を構え、敵の攻撃を防ぎきる。
そして隙をついて反撃を繰り出した。
リィナも「心音共鳴」で兵士たちに声を届け、士気を高める。
【大丈夫!自分の力を信じて!】
【もう半分以上やっつけたよ!】
【もうひといき!頑張って!!】
その声に応じるように兵士たちの動きがさらに統率されていく。
しかし、ミシェルの指揮官が怒声を上げ、残存する兵士全員に突撃を命じた。
その数はまだ600以上。対するトライデントは150人を切っていた。
レオが剣を振り上げ、最前線に加わる。
「ここが正念場だ!全隊全力でいけ!」
青も敵陣深くに突入し、拳を振り下ろすたびに敵が吹き飛んでいく。
「これがトライデントの武神の力………」
青のその姿に兵士たちの士気はさらに高まった。
「これで終わりだ!」
トライデントの兵士たちが最後の力を振り絞り、ミシェルの兵士たちを次々と撃破していく。
トライデント戦闘員たちはミシェルの兵士たちを殲滅した。
倒れた兵士たちの息遣いだけが渋谷の静寂に響く。
ネオンに照らされた路面には、戦闘の跡が生々しく残っていた。
レオが肩で息をしながら青に近づく。
「やりましたね、青さん……。」
青は頷きながらミシェル製薬本社のビルを見上げた。
「ああ……だが、まだ終わってない。」
「本当の敵は、この中にいる。」
レオが兵士たちに声を張り上げる。
「皆、よく戦った!これから我らは本部に突入する!」
「負傷したものはここに残り待機」
「動ける者はついてこい!」
兵士たちの目には疲労の中に確かな決意が宿っていた。
そして、青達とトライデントは次なる戦いに向けて進軍を開始した。
夜の渋谷には、再び静寂が戻っていた――。
その静寂は束の間のものでしかなかった。
「……異常な反応を感知しました。」
通信デバイスから鋭い声が響く。
「まずい……ビルの上層階から何かが動き出してる。」
レオが眉をひそめる。
エレナの表情が曇る。
「……多分、兵士じゃない。」
その言葉が告げるものに、全員が緊張感を新たにする。
青はビルを睨みつけながらmacotoに呟いた。
「やつがくるぞ」
突如、ミシェル製薬本社の上層階から金属の塊のようなものが飛んできた。
眩いばかりの光がビルを覆い、その中から黒い影が浮かび上がる。
「……これは何だ?」
その影は人型をしていたが、異様に巨大で、全身が機械のような装甲に覆われている。
赤く光る目が地上のトライデントを捉えた瞬間、低い振動音とともにその存在が動き始めた。
「警戒しろ!」
レオが叫ぶ。
「全員、散開!フォーメーションを維持しながら状況を確認!」
しかしその声が終わる前に、機械の巨人が両腕を突き出した。
次の瞬間、とてつもないスピードで隊員をなぎ倒す
「くっ……大丈夫か?」
青が咄嗟に前へ出て、隊員たちを守るように立ちはだかる。
「ここはあたしに任せて頂戴」
「この子にはお仕置きがひつようなのよ」
macotoが巨人の方へ駆け出した。
そう奴は。ヴォルケンだ。
完全に改造されたヴォルケンが再び現れた。
一方、エレナはビル内の動きを注視していた。
「ヴォルケンだけじゃない」
「……建物内にも動きがある。」
「これ、明らかに普通の兵士じゃない……。」
ビルの上から長い刀を抱えた女がこちらを冷めた目で見ている
夜叉だ。
無表情なその顔は不気味にこちらを静観している。
「あなた達は行ってちょうだい!」
「あたしもすぐにおいつくから」
macotoが僕たちに先に行くように指示する
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
僕たちに襲い掛かるヴォルケンの前にmacotoが入り込む。
「行ってちょうだい!!!」
macotoがヴォルケンを止めた。
僕達は彼を信じビルに入る。
機械のような身体、異様に膨れ上がった筋肉、赤いな瞳。
リカの人体改造によって生まれ変わった彼の姿に、人間らしさは微塵も残されていなかった。
もはや以前の彼はそこにはいない。
「リカの犬になったってわけ?」
「やりすぎな筋肉、センスないわね。」
「そのピカピカのドレスもイマイチよ」
macotoは冷ややかに言い放つ。
ヴォルケンが床を砕くほどの勢いで突進してくる。
その速さにmacotoは紙一重でかわした。
「遅いわね」
「あたしの教えがひとつもできていないじゃない」
macotoの足が滑らかに動き、反撃の蹴りがヴォルケンの側頭部を捉えた。
だが、まるで岩を蹴りつけたような感触。
macotoは眉をひそめる。
「これが改造された肉体の力なの?……。」
ヴォルケンはニヤリと笑うと、反撃の拳を振り下ろした。
空気が唸りを上げる。
拳が地面を捉えると、衝撃波が放たれ、床が爆発するように砕け散った。
macotoは軽やかに後方に飛び、粉塵をものともせずに笑みを浮かべる。
「あらあら…力任せだけじゃ勝てないわよ。」
ヴォルケンは一瞬で間合いを詰め、連続攻撃を繰り出す。拳、肘、膝…。
その全てがmacotoを狙い、鋭い軌跡を描く。
macotoはダンスするかのように細かなステップで攻撃を避け続ける。
「バカね、もう何手先も見えてるわ。」
macotoは足を軸に回転しながら、踵でヴォルケンの胸を強打。
衝撃でヴォルケンの巨体が後退し、壁に激突する。
ヴォルケンが両腕を広げ、異様な器具を起動させる。
彼の腕に埋め込まれた装置から鋭い爪のような武器が飛び出し、彼の全身がさらに硬化していく。
「あら?それは反則ね!あんたしつこいわね。」
macotoがため息をつくが、次の瞬間、ヴォルケンの爪が彼の顔をかすめる。
彼は素早く後退し、隙間なく繰り出される爪の連撃をかわしていく。
だが、さすがにヴォルケンの強化された身体は厄介だ。
「そろそろ終わりにしましょう。」
macotoの動きが一変した。
まるで風そのもののように滑らかに動き、ヴォルケンの攻撃の間をすり抜ける。
macotoは彼の懐に飛び込んだ。
「さようなら、ヴォルケン。」
息を大きく吸い込み胸の前で「気」を溜める。
圧縮されたその気功を容赦なくヴォルケンに放つ。
macotoの強烈な一撃がヴォルケンに突き刺さる
およそ2mあるその巨体は吹っ飛ばされた。
頑丈なコンクリートの壁に激突していく。
「ヴォルケン………」
macotoは複雑な表情でそれを見つめる。
かつては自分の愛弟子であったヴォルケンが異形の姿で最期を迎えようとしている。
macotoは手を合わせ、青達の後を追いビルに入ろうとした………その時!
「ぐぅああああああああああああ!」
雄たけびと共にヴォルケンが立ち上がる……
彼の赤い目はまだ死んでいなかった
ーーーミシェル本部 35階ーーー
一方、ビル内部に突入した青たちは、薄暗い階段を進む。
至る所に異様な機械の音が響き渡る。
階段を駆け上がりビルの真ん中あたりで広いホールにでた。
その真ん中には夜叉があぐらをかき待ち構えていた。
「やっときたね」
「誰が僕を満足させてくれるんだい?」
不気味に笑う最強の剣士「夜叉」
その静かな佇まいはとてつもないオーラを漂わせていた……
macotoとヴォルケン
青、エレナ、レオ。
激しい戦いはさらなる熱を帯びていく。
第9章~完~
エレナの丘の頂上にたどり着いた青たちは、眼前に広がる壮大な景色にしばし心を奪われた。
丘の風は柔らかく、遠くには草原が波のように揺れている。
空は澄み渡り、夜明け前のわずかな光が空を染めていた。
その頂上にひっそりと佇むのは、一体のフクロウの石像だった。
石像はまるで生きているかのような精巧な彫刻で、鋭い目と翼を広げた姿が印象的だった。
その足元には、幾何学的な模様が刻まれた古びた台座があり、不思議な力を感じさせた。
「ここに首飾りがあるはずなのに…」
エレナが青を見上げながら静かに言った。
「青様…私に触れてください…そして目を閉じて…」
青達が台座に触れると、その瞬間、石像がまばゆい光を放ち始めた。
眩しさに目を閉じた青たちは、光が消えたあと、目の前に現れた人物に息を呑んだ。
そこにいたのは、オディゴスの母、アジェリィだった。
彼女の登場とともに、周囲の空気が変わり、静寂と神聖さが増した。
アジェリィの声は柔らかく、しかし力強く響いた。
「本当の敵をお伝えしなければなりません。それは…『月影 玄 様』です。」
月影玄は、青自身の父親だ。
胸の奥底にしまい込んでいた感情が一気に湧き上がった。
しかし、不安や恐怖はなかった。
ふと、両脇を見ると、エレナとリィナがそこにいた。
エレナは鋭い決意を瞳に宿し、リィナはその小さな体からは想像もつかないほどの勇敢な姿勢を見せていた。
彼女たちの存在が、青の心を支えていた。
アジェリィは微笑みながら、エレナとリィナに歩み寄った。
「あなたたちには、これからの戦いを乗り越えるための力を授けます。」
彼女はまずエレナの前に立ち、その額に手をかざした。
「エレナ、あなたには『時渡りの眼』を授けます。」
「この力は、時間を超えて真実を見る能力です。」
エレナの瞳が一瞬輝き、彼女は深く息を吸い込んだ。
次にアジェリィはリィナの前に立ち、優しく微笑んだ。
「リィナ、小さな戦士よ。」
「あなたには『心音共鳴』の力を授けます。」
「この力でリィナは皆様と心の中で会話ができます」
リィナは目を輝かせながら、大きく頷いた。
アジェリィは最後に青に目を向け、静かに言った。
「青、あなたにこの世界の命運を託します。」
アジェリィの体が次第に光に包まれ始めた。
光が完全に消えると、フクロウの石像は元の静寂を取り戻していた。
しかし、青たちの心には新たな力と決意が宿っていた。
「さあ、行こう。」
青のその一言に、エレナとリィナは大きく頷き、三人で再び歩み始めた。
旅路を急ぐ青たち三人。
彼らは次の目的地であるBARに向かった。
しかし、そこには以前とは違う姿のヴォルケンが待ち構えていた。
macotoに敗れたヴォルケンは復讐を誓い、リカに人体改造を依頼していた。
その結果、かろうじて意識を保ちながらも、もはや人間とは思えない異形の姿となっていた。
「お、、、そかっ、、、、たな」
ヴォルケンの荒々しい声がBARに響く。
青はエレナとリィナを狭間の世界へ避難させ、単独でヴォルケンに立ち向かう決意をした。
記憶と力を取り戻した青は、自信を持って戦いに挑んだ。
しかし、改造を受けたヴォルケンには青の攻撃が通用しない。
その時、狭間の世界からリィナが新たに得た『心音共鳴』の力で青に語りかけた。
青はリィナの声を信じ、指示された弱点に全力で攻撃を集中させた。
その結果、ヴォルケンは大きく怯み、隙が生まれた。
「エレナ、リィナ、ありがとう!」
しかし、ヴォルケンを完全に倒すには至らず、青はさらなる修練が必要だと感じた。
青は狭間の世界に戻り、鍛錬の日々を送ることにした。
エレナ、リィナ、そしてmacotoも青に続き、共に修練を積んでいく。
日々の努力の中で彼らはさらなる強さを手に入れていった。
オディゴスに促され、青は「未来の扉」を開いた。
その扉の先で青を待っていたのは、かつて青に命を救われたエレナの幼馴染、レオだった。
「この時を待っていました!!」
レオは血の滲むような努力を重ね、数百名の戦闘員を集めていた。
彼は「トライデント 未来支部」のリーダーとして、頼もしい存在に成長していた。
「WE are TRIDENT!!」
レオと彼の率いる戦闘員たちが声を合わせ、青たちの前に整列した。その姿に青は心強さを感じ、未来への希望を抱いた。
こうして、頼もしい増援と共に、最終決戦の幕が今開かれる…。
macotoの号令で最後のブリーフィングが始まった。
「未来支部のみんな、本当によく集まってくれたわ」
「青に続き、心から感謝するわ」
「あ・り・が・と♡」
なんともしまらないはじまりだ……
かつて鬼神とまで言われたmacotoがこうも変わってしまったとは……
戦いが終わったらゆっくり話を聞こう。
「さて、わたしたちはこれから、ミシェルの本部に向かうわ」
「最終目標は武力の鎮圧……ちんあつ…チン………アツ!!」
「あっ…失礼。」
「武力の鎮圧とビルの破壊よ」
「そして、もっとも注意しなきゃならない敵が4人、レイダー四天王よ」
ミシェルの軍隊的立場「レイダー」
武力で裏仕事をするやつらだ
その数は数千とも言われている
それをまとめるのが「レイダー四天王」
リーダーの「ジョシュ」
刀使いの「夜叉」
改造人と化した「ヴォルケン」
研究所の責任者「リカ」
そしてそれらをまとめるBOSS……「月影 玄」僕の親父だ、、、
「まずは、レオ率いる未来支部の精鋭達にレイダーの戦闘員を制圧してもらうわ」
「戦闘員の数はおそらく1000以上。」
「あたしたちトライデントは300ちょいってとこかしら?」
「圧倒的不利ね……なにか策はあるのかしらレオ」
「はい!リーダー」
「所詮、あちらは烏合の衆」
「対して我らトライデントは1人1人が鍛錬を何年もしてきた格闘のスペシャリストが300人です」
「さらに、しっかりと連携がでるように訓練してあります!」
「1000でも2000でも負けることはありません」
「弱虫レオがこんなにたくましくなっちゃって…泣けるわ」
「惚れちゃいそう♡」
「OKよ」
「ではそちらはレオを主軸に連携をとってちょうだい」
「はっ!了解いたしました!」
本当にたくましくなってくれたもんだ。
いつもエレナの後ろに隠れてた子がこんなに立派になって帰ってくるなんて。
「さて……問題はこっちね」
残りの四天王。
そしてBOSS「月影 玄」
リカに戦闘能力はないとして、残り4人。
対する僕らは、macoto、エレナ、僕の3人。
どう戦うか?
「ま、こっちはノリで行きましょ~」
「おい!macoto!!」
僕は思わず突っ込んでしまった。
「ヴォルケンちゃんはあたしが責任を持って教育するわ」
「それまでは、青とエレナ、そしてレオと残りの隊員で頑張ってちょうだい」
「大丈夫よ青」
「あなたの力が戻ったんだから!」
「あたしより強いあなたがいれば大丈夫」
相変わらずのノープランだ。
「わかったよ。やるしかないんだろ、リーダー!」
macotoはニッコリ笑うと僕に抱きついてきた。
「生き残るわよ。全員で!」
「ああ。必ずだ!」
僕は親友と固く誓った。
もう悩まないと決めたんだ。
やるしかない。
macotoの雰囲気がガラリと代わりトライデント隊員に向け激励の言葉をはなつ。
「よく集まった我らの同志達よ」
「我らトライデントの力を見せる時が来た!」
「君達のしてきた努力は必ず報われる」
「思い出せ!あの訓練を!!」
「常に思え!心に大切な人を!」
「共に闘え!苦楽を共にした仲間を!」
「俺達は誰にも負けない!」
「さぁ叫べ!!」
「WE are TRIDENT!!」
(WE are TRIDENT!!)
「WE are TRIDENT!!」
(WE are TRIDENT!!)
「WE are TRIDENT!!」
(WE are TRIDENT!!)
「誰1人……絶対死ぬな!!」
「以上」
リーダーの熱いスピーチで隊員のボルテージが最高潮に上がった!
レオが続く。
「さぁ!みんな行こう!!
最終決戦だ!!」
(うおぉぉぉぉぉぉぉぉ)
狭間の世界が揺れるほどの雄叫び。
なんとも頼もしい次世代の戦士達。
僕も胸が熱くなってきた。
「エレナ、リィナ」
僕は2人を力強く抱きしめた。
「いよいよだ。」
「全てを終わりにしよう」
「エレナ」
「無茶はするな」
「だが、お前は俺の娘だ!」
「必ずやれる!」
「うん。パパも無茶はしないで」
「ああ。共に戦おう」
「リィナ」
「幼い君に大変な思いをさせてすまない」
「でも頼りにしている」
「だってリィナは……」
「おじいちゃんの孫だもん!」
「はは。そうだ。」
「僕の孫だ!最高のな!!」
「新しい力でみんなをサポートしてあげてくれ」
「頼んだぞ!」
「まっかせてー!」
「オディゴス」
「はい。我が主(あるじ)」
「リィナのサポートを頼む」
「もちろんでございます」
「主よ。御武運を!!」
全ての準備は整った。
僕は天高く手をあげ目を閉じた。
ゆっくりと現代への扉が開く。
「さぁ!行こう!!」
レオを先頭に数百名のトライデント軍団が扉を進んでいく。
「青。いくわよ」
「ああ。必ず勝つぞ」
僕達も続いて最終決戦へと向かった。
扉を抜けた先はBAR「Hazama」。
漂う木材の香りとわずかに甘いアルコールの匂いが出迎え、どこか懐かしい空気感が広がっている。
店内には重厚なカウンターと温かな間接照明が揺れる静かな空間が広がっていた。
戦闘前の緊張を解くには最適の場所。
青は周囲を見渡しながら、奥で忙しなく準備を進めるmacotoを目にする。
彼が必要だと言うものがここにあるらしい。
しかし、この狭いBARに数百名もの隊員が入れるはずがない。
裏手に広がる空き地にテントが次々と設営され、仮拠点が作られていった。
夜の冷たい空気が漂う中、焚き火の明かりが揺れ、隊員たちはオディゴスが丹精込めて作った弁当で腹ごしらえをしている。
BARに残ったのは青、macoto、エレナ、そしてレオの4人だけだった。
「あたし達も何かお腹に入れておきましょ。」
macotoが手際よくキッチンに立ち、得意のペペロンチーノを作り始めた。
立ち込めるニンニクとオリーブオイルの香りに、全員の空腹が一気に刺激される。
「ニンニクパワーで元気モリモリよ!」
さっきまで戦闘計画を真剣に語っていたmacotoが、いつもの明るいオカマリーダーに戻っている。
そのギャップに青は小さく笑った。
「レオ。少し手伝ってちょうだい。」
「はい。リーダー。」
macotoとレオが地下に向かう間、青とエレナは黙々と後片付けを始めた。
キッチンに立つ2人はどこかぎこちないが、心地よい静けさがそこにあった。
「パパとこうしてキッチンに立つなんて…なんだか不思議。」
エレナが控えめに呟く。
「そうだな。」
青はふと手を止め、優しい眼差しを向けた。
「毎日訓練ばかりでこんなことはしてこなかったもんな。」
「これが終わったら、リィナを連れて旅行にでも行こう。」
「少しでもエレナの孤独を埋めたいんだ。」
「そうだね、パパ。」
「私も話したいことが山ほどある。」
「私たちの時間も少しずつ取り戻そう。」
エレナの微笑みはどこか懐かしく、青は心の中で強く決意した。
地下に降りたmacotoとレオの間には、張り詰めた空気が流れていた。
レオにとってmacotoは尊敬する人物であり、同時にプレッシャーを感じる存在でもあった。
「レオ、あなたに聞きたいことがあるの。」
macotoが不意に足を止めた。
「はい!リーダー。なんでしょうか?」
レオはピンと背筋を伸ばし、緊張を隠せない。
「あなた…エレナに惚れてたわよね?」
「ん!?…………」
突拍子もない質問に、レオは完全に硬直した。
「いまでも惚れてるんでしょ?」
「あたしにはわかるのよ~」
macotoの視線が突き刺さるようにレオを射抜いた。
「いや……自分は………。」
視線を泳がせ、答えに窮するレオを見て、macotoは溜息をついた後、一歩近づく。
「リーダーレオ!!!」
「はっ!」
敬礼をするレオに対し、macotoが突然叫び声をあげた。
「ぎゃあ!」
macotoは容赦なくレオの股間を掴み、持ち上げる。
「しっかりしなさい!レオ。」
「この戦いで命を落とすかもしれないのよ。」
「伝えておかないと後悔するかもしれないわ…」
「リーダー………。」
「ま、あたしより先に死んだらコロスわよ♥。」
「さ、ついた。」
2人が到着したのは地下2階にある訓練所の小部屋。
中央には大きな金庫が鎮座していた。
金庫はmacotoの生体認証でしか開かない仕組みになっている。
「まずはコレね。」
macotoが金庫を開け、2着の戦闘服を取り出した。
ネームタグには「SEI」と「ERENA」と刻まれている。
macotoが大切そうに戦闘服を抱えながら語る。
「いつかあの二人に渡そうと思って作っておいたのよ。」
「特別仕様なんだから!」
次に手に取ったのは、刀だった。
「レオ、あなた刀は使えるかしら?」
「はい。武器は一通り訓練済みです!」
「じゃ、これあげる。」
「この刀は我が家に代々伝わる由緒ある刀よ。」
「夜叉との戦いに使いなさい。」
「自分に夜叉が倒せるでしょうか?」
少しため息をついたmacotoがまた……
「ぎゃあああああああ!」
レオが再び悲鳴をあげる。
「あなた。自信を持ちなさい!」
「努力は裏切らないわ」
「エレナと2人で、、、いや、、」
「リィナちゃんも居るから3人」
「必ず活路を見つけなさい!」
レオは驚きつつも感謝の念を込めて頷いた。
「最後はこれね。」
macotoが取り出したのは龍の細工が施された奇妙な瓶だった。
中にはワインのような赤黒い液体が揺れている。
「これがあればまあなんとかなるでしょ。」
macotoは瓶を大事そうにポケットにしまい、笑顔を浮かべた。
「さ、戻りましょ。」
macotoとレオが戻ると、青とエレナが待っていた。
「お待たせ!!二人に渡すものがあるの。」
macotoがケースから戦闘服を取り出し、2人に手渡す。
「じゃあ~ん!二人のために作っておいたのよ!」
エレナが目を輝かせ、飛び跳ねた。
macotoが新調した戦闘服を身にまとい、青とエレナは改めて気を引き締める。
「macoto、エレナ、レオ。」
青の声が静かに響く。
「厳しい戦いになると思う。」
「でも最後まであきらめずに戦おう!行くぞ!」
言葉はそれ以上いらなかった。
お互いが信じ合い、尊敬し合う絆が、目の前に広がる夜の闇を貫いていく。
macotoを先頭に、数百名の戦闘員たちが続く。
その行進はまるで光の波のように静寂を切り裂いていった。
今夜、すべての決着がつく。
ーーー研究所内 実験室ーーー
青達がレオと合流した同じ時刻。
敗れたヴォルケンはリカのいる研究室に向かっていた。
「リ………カ―――」
「ヴォルケン!?」
青に返り討ちにあったヴォルケンはリカに怒りの表情で戻ってきた。
肉体改造までして強くなったはずなのに、青に全く歯が立たなかったからだ。
実験室内で暴れるヴォルケンにリカは諭すように話し始める。
「あなた、体がまだ慣れていないうちに戦ったのね」
「改造で輸血していたとはいえ、血液も失っていたわ」
「そんな状態で力を取り戻した青に勝てるとでも?」
「彼はトライデントで一番の実力者よ」
「そ…それを………なんと……か…するの…が…おまえ……の…しご…と」
「おれ…を……か…んぜ……んに…かいぞ………うしろ!」
「これ以上は無理よ!」
「本当にただの怪物になってしまうわ!!」
ヴォルケンは怒り狂いリカの首を締め上げる
「や…………れ」
リカはもうやるしかなかった。
ヴォルケンに殺される前に……
研究員たちも従うしかなかった。
ヴォルケンの怒りが実験室を満たしていた。
彼の目は憎悪に燃え、全身から発せられる殺気は空気そのものを震わせるようだった。
彼の手はリカの首を掴み、指先が食い込むたびにリカは顔を歪める。
「や………れ……」
かすれた声で命じるヴォルケンの表情には、もはや人間らしい感情は残っていなかった。
ただ一つ、復讐の炎がその瞳に宿っているだけだった。
リカは諦めたように目を閉じ、小さく息を吐いた。
「分かったわ……やるしかないのね……。」
彼女は息を飲み込み、急いで制御台の前に立つと研究員たちに命じた。
「全員、準備に入って!更なる改造の準備を開始するわ!」
研究員たちは震える手で作業を始めた。
彼らは誰もヴォルケンを直視しようとせず、無言のまま機械を動かしていく。
ヴォルケンは金属製の実験台へと歩み寄った。
その足音は重く、響き渡るたびに床が軋む。
実験台に横たわると、冷たい拘束具が彼の両手両足を締め上げた。
「心拍数は既に限界に近い値です……」
「無視して進めて!彼が生き残れるかどうかなんて問題じゃないのよ!」
リカの声が響く中、天井からは無数のロボットアームが降りてきた。
その先端には、メスや電極、ドリルといった器具が取り付けられている。
蛍光灯の光がそれらの金属部分で反射し、薄暗い室内に鋭い光を散らしていた。
まず、ヴォルケンの背中が切り開かれた。
巨大なメスが肉を裂き、血が噴き出す。
「輸血急げ!!」
その下から覗く骨に、黒光りする金属プレートが次々と埋め込まれていった。
「……!!!」
ヴォルケンは歯を食いしばりながら、叫び声を抑えようと耐えたが、痛みの波が全身を襲い続けた。
プレートが骨に固定されるたびに鈍い音が室内に響き、床に滴る血が真紅の小さな川を作っていく。
「背骨の補強が完了しました。次は胸郭に入ります。」
アームがヴォルケンの胸部へと降り、胸板を切り開いた。
心臓を守るように設置された金属のプレートが組み込まれると、彼の呼吸が一瞬乱れる。
次に両腕と両脚の皮膚が切り裂かれ、肉が剥き出しにされた。
メスが筋繊維を慎重に切断し、そこに人工筋肉が埋め込まれていく。
赤黒いい液体がチューブを通じて注入される。
新たに開発された人口血液だ。
人の筋力を増幅させる血液……
それはまるで生きているかのように彼の血管を這い回り、筋肉を膨張させていった。
「筋肉の結合が始まります。」
「破裂の可能性あり。」
金属が肉と融合するたびに火花が散り、焼けた肉の匂いが実験室を満たす。
頭部が固定され、研究員たちは慎重にヴォルケンの頭蓋骨を開いた。
ドリルの音が響き、骨片が散らばる中、脳の奥深くにさらに制御チップを埋め込む作業が始まった。
「神経系の接続を開始します。」
電極がヴォルケンの脳に刺さるたびに、彼の体が激しく痙攣した。
心拍数が跳ね上がり、目が真っ赤に光り始める。
「リカ様、彼の生命活動が不安定です!」
「気にしないで進めなさい!この男は普通の生命体じゃない!」
最後の工程では、全身が金属で覆われていった。
生身の肉が引き裂かれ、硬化した装甲に置き換えられるたびに、ヴォルケンはもはや人間の姿を失っていった。
拘束具が解除されると同時に、彼はゆっくりと立ち上がった。
その動きは鈍く、機械的だったが、一歩一歩が重く地響きを立てた。
目は冷たく赤く光り、口元からは低いうなり声しか聞こえない。
言葉を話すことはもはやできず、彼を突き動かしているのは純粋な復讐心だけだった。
リカが震える声で問いかける。
「ヴォルケン……聞こえるの?」
彼は振り返り、リカを睨みつけニヤリとわらう。
口元がわずかに動き、かすれた声で一言だけ呟いた。
「う”ぅぅぅぅ」
「……コロス……」
彼が話す最後の言葉だった。
その瞬間、彼は拳を振り上げ、実験室の壁を粉々に砕いた。
轟音と共に壁の向こうへと消えていくヴォルケン。
その姿は完全に怪物そのものであり、人間の面影はどこにも残っていなかった。
リカは崩れ落ちるように床に座り込み、震える手で顔を覆った。
「もう……戻れない……。」
「この怪物を止められるのは……青しかいない……。」
そして、ヴォルケンの足音は、闇の中へと消えていった。
ーーーミシェル製薬 正面玄関ーーー
BARのある新宿からビルのある渋谷まで約400人の青い軍団が列を連ねる
僕たちトライデントは渋谷にそびえ立つミシェル製薬本社の前に到着した。
「着いたぞ。」
60階建てのそのビルは暗闇の中で、ネオンがガラス窓に反射し、不気味に揺らめいている。
これだけの人数で動いたのだ。おそらく、情報は既に漏れているだろう。
案の定、ビル前にはミシェル製薬の戦闘員が1400人もの規模で待ち構えていた。
対する我がトライデントの兵士はわずか380人。
しかし、数ではなく統率が勝敗を分ける。
レオはそう言った。
ミシェルの戦闘員たちは、ばらばらの動きで威嚇の声を上げている。
まるで地元の不良集団のような統率の無さだ。
一方、トライデントの兵士たちは整然と並び、5人1組のチーム単位で確固たる陣形を取っている。
班長を中心に鍛え上げられた動きは、まるで一つの生き物のようだった。
夜の渋谷に異様な緊張感が漂う。
両軍が対峙する中、レオが一歩前に出て声を張り上げた。
「全隊員!班長の指示を厳守せよ!勝利を掴むのは我らだ!」
「了解!!」
整然とした敬礼とともに全員が声を揃える。
その響きがビル群の間にこだました。
一方、ミシェルの戦闘員たちはただ大声を上げ、混沌としたままだ。
彼らは数の優位に甘え、秩序のない集団となっていた。
だが、その圧倒的な人数には恐怖を覚えざるを得ない。
レオが剣を抜き、再び叫ぶ。
「行くぞ!我らトライデント!」
「突入!」
部隊が一斉に走り出した。
その動きは正確で、流れるようなフォーメーションを保ったまま敵陣へと突進していく。
両軍の距離が一気に縮まり、ついに激突した。
レオの指示が響き渡る。
「防御ラインを維持しろ!」
前衛部隊が盾を構え、敵の攻撃を受け止める。
ミシェルの戦闘員たちは怒号を上げながら武器を振り下ろしてくるが、
トライデントの兵士たちは冷静に攻撃をいなし、正確なカウンターを繰り出していく。
槍が敵を貫き、剣が一閃で数人を薙ぎ払う。
「崩すな!押し返せ!」
班長たちが次々と指示を飛ばし、全体の連携を保ちながら確実に敵を減らしていく。
しかし、敵の勢いは止まらない。
突然、敵陣の奥から奇妙な武器を持った精鋭部隊が現れた。
黒い装甲に身を包み、ヘルメットの奥から感情のない冷たい視線を放つ。
彼らの動きは滑らかで、鋭い槍さばきと体術でトライデントの防衛ラインを突き崩し始めた。
トライデントの隊員はみるみるうちに押されていく
負傷者も多く戦場を離脱するものもでてきた。
「ここは俺に任せろ!」
後方にいた青が最前線に出た。
一瞬で間合いを詰めると、精鋭部隊の一人を一撃で吹き飛ばす。
「レオ、隊を再編しろ!俺が時間を稼ぐ!」
「はい!お願いします、青さん!」
レオが即座に指示を出す。
「全隊員、再編!持ち場を離れるな!」
「精鋭部隊を包囲して撃破せよ!」
後方ではエレナが「時渡りの眼」を使い、敵の攻撃を先読みして兵士たちに指示を出していた。
「次は右側!槍兵が突進してくるよ!」
エレナの予知に従い、兵士たちが盾を構え、敵の攻撃を防ぎきる。
そして隙をついて反撃を繰り出した。
リィナも「心音共鳴」で兵士たちに声を届け、士気を高める。
【大丈夫!自分の力を信じて!】
【もう半分以上やっつけたよ!】
【もうひといき!頑張って!!】
その声に応じるように兵士たちの動きがさらに統率されていく。
しかし、ミシェルの指揮官が怒声を上げ、残存する兵士全員に突撃を命じた。
その数はまだ600以上。対するトライデントは150人を切っていた。
レオが剣を振り上げ、最前線に加わる。
「ここが正念場だ!全隊全力でいけ!」
青も敵陣深くに突入し、拳を振り下ろすたびに敵が吹き飛んでいく。
「これがトライデントの武神の力………」
青のその姿に兵士たちの士気はさらに高まった。
「これで終わりだ!」
トライデントの兵士たちが最後の力を振り絞り、ミシェルの兵士たちを次々と撃破していく。
トライデント戦闘員たちはミシェルの兵士たちを殲滅した。
倒れた兵士たちの息遣いだけが渋谷の静寂に響く。
ネオンに照らされた路面には、戦闘の跡が生々しく残っていた。
レオが肩で息をしながら青に近づく。
「やりましたね、青さん……。」
青は頷きながらミシェル製薬本社のビルを見上げた。
「ああ……だが、まだ終わってない。」
「本当の敵は、この中にいる。」
レオが兵士たちに声を張り上げる。
「皆、よく戦った!これから我らは本部に突入する!」
「負傷したものはここに残り待機」
「動ける者はついてこい!」
兵士たちの目には疲労の中に確かな決意が宿っていた。
そして、青達とトライデントは次なる戦いに向けて進軍を開始した。
夜の渋谷には、再び静寂が戻っていた――。
その静寂は束の間のものでしかなかった。
「……異常な反応を感知しました。」
通信デバイスから鋭い声が響く。
「まずい……ビルの上層階から何かが動き出してる。」
レオが眉をひそめる。
エレナの表情が曇る。
「……多分、兵士じゃない。」
その言葉が告げるものに、全員が緊張感を新たにする。
青はビルを睨みつけながらmacotoに呟いた。
「やつがくるぞ」
突如、ミシェル製薬本社の上層階から金属の塊のようなものが飛んできた。
眩いばかりの光がビルを覆い、その中から黒い影が浮かび上がる。
「……これは何だ?」
その影は人型をしていたが、異様に巨大で、全身が機械のような装甲に覆われている。
赤く光る目が地上のトライデントを捉えた瞬間、低い振動音とともにその存在が動き始めた。
「警戒しろ!」
レオが叫ぶ。
「全員、散開!フォーメーションを維持しながら状況を確認!」
しかしその声が終わる前に、機械の巨人が両腕を突き出した。
次の瞬間、とてつもないスピードで隊員をなぎ倒す
「くっ……大丈夫か?」
青が咄嗟に前へ出て、隊員たちを守るように立ちはだかる。
「ここはあたしに任せて頂戴」
「この子にはお仕置きがひつようなのよ」
macotoが巨人の方へ駆け出した。
そう奴は。ヴォルケンだ。
完全に改造されたヴォルケンが再び現れた。
一方、エレナはビル内の動きを注視していた。
「ヴォルケンだけじゃない」
「……建物内にも動きがある。」
「これ、明らかに普通の兵士じゃない……。」
ビルの上から長い刀を抱えた女がこちらを冷めた目で見ている
夜叉だ。
無表情なその顔は不気味にこちらを静観している。
「あなた達は行ってちょうだい!」
「あたしもすぐにおいつくから」
macotoが僕たちに先に行くように指示する
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
僕たちに襲い掛かるヴォルケンの前にmacotoが入り込む。
「行ってちょうだい!!!」
macotoがヴォルケンを止めた。
僕達は彼を信じビルに入る。
機械のような身体、異様に膨れ上がった筋肉、赤いな瞳。
リカの人体改造によって生まれ変わった彼の姿に、人間らしさは微塵も残されていなかった。
もはや以前の彼はそこにはいない。
「リカの犬になったってわけ?」
「やりすぎな筋肉、センスないわね。」
「そのピカピカのドレスもイマイチよ」
macotoは冷ややかに言い放つ。
ヴォルケンが床を砕くほどの勢いで突進してくる。
その速さにmacotoは紙一重でかわした。
「遅いわね」
「あたしの教えがひとつもできていないじゃない」
macotoの足が滑らかに動き、反撃の蹴りがヴォルケンの側頭部を捉えた。
だが、まるで岩を蹴りつけたような感触。
macotoは眉をひそめる。
「これが改造された肉体の力なの?……。」
ヴォルケンはニヤリと笑うと、反撃の拳を振り下ろした。
空気が唸りを上げる。
拳が地面を捉えると、衝撃波が放たれ、床が爆発するように砕け散った。
macotoは軽やかに後方に飛び、粉塵をものともせずに笑みを浮かべる。
「あらあら…力任せだけじゃ勝てないわよ。」
ヴォルケンは一瞬で間合いを詰め、連続攻撃を繰り出す。拳、肘、膝…。
その全てがmacotoを狙い、鋭い軌跡を描く。
macotoはダンスするかのように細かなステップで攻撃を避け続ける。
「バカね、もう何手先も見えてるわ。」
macotoは足を軸に回転しながら、踵でヴォルケンの胸を強打。
衝撃でヴォルケンの巨体が後退し、壁に激突する。
ヴォルケンが両腕を広げ、異様な器具を起動させる。
彼の腕に埋め込まれた装置から鋭い爪のような武器が飛び出し、彼の全身がさらに硬化していく。
「あら?それは反則ね!あんたしつこいわね。」
macotoがため息をつくが、次の瞬間、ヴォルケンの爪が彼の顔をかすめる。
彼は素早く後退し、隙間なく繰り出される爪の連撃をかわしていく。
だが、さすがにヴォルケンの強化された身体は厄介だ。
「そろそろ終わりにしましょう。」
macotoの動きが一変した。
まるで風そのもののように滑らかに動き、ヴォルケンの攻撃の間をすり抜ける。
macotoは彼の懐に飛び込んだ。
「さようなら、ヴォルケン。」
息を大きく吸い込み胸の前で「気」を溜める。
圧縮されたその気功を容赦なくヴォルケンに放つ。
macotoの強烈な一撃がヴォルケンに突き刺さる
およそ2mあるその巨体は吹っ飛ばされた。
頑丈なコンクリートの壁に激突していく。
「ヴォルケン………」
macotoは複雑な表情でそれを見つめる。
かつては自分の愛弟子であったヴォルケンが異形の姿で最期を迎えようとしている。
macotoは手を合わせ、青達の後を追いビルに入ろうとした………その時!
「ぐぅああああああああああああ!」
雄たけびと共にヴォルケンが立ち上がる……
彼の赤い目はまだ死んでいなかった
ーーーミシェル本部 35階ーーー
一方、ビル内部に突入した青たちは、薄暗い階段を進む。
至る所に異様な機械の音が響き渡る。
階段を駆け上がりビルの真ん中あたりで広いホールにでた。
その真ん中には夜叉があぐらをかき待ち構えていた。
「やっときたね」
「誰が僕を満足させてくれるんだい?」
不気味に笑う最強の剣士「夜叉」
その静かな佇まいはとてつもないオーラを漂わせていた……
macotoとヴォルケン
青、エレナ、レオ。
激しい戦いはさらなる熱を帯びていく。
第9章~完~
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