ひよこリープ

とよきち

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第四章

第四章 ひよこリープ

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 鬱々と過ごした長い授業が終わり――そして切々と待ち望んでいた放課後。
 私は誰にも見られないようにそろそろっと階段を登り、屋上へと向かった。
 四階にある三年生の教室の間を抜けて、さらに上へ。ここの屋上は他の高校と違って珍しく今だに自由解放だった。鍵もかかっていない。
 ドアの前にたどり着いて、深呼吸。
「……よし」
 一歩踏み出して。
 私はすっとんとんな胸に希望と不安をないまぜに抱きながら、ドアノブを回した。錆びついた蝶つがいの軋む音がギィッと鳴る。
 あまりのまばゆさに一瞬目がくらんだ。けれどそれもすぐに慣れてきた。
 射しこんでくる赤い夕焼けの光。
 照られされてギラギラと光るフェンス。
 そしてフェンスには、後ろを向いて立つ人影がーー。
 消え入りそうなその背中に私は不安を覚える。
 けれど彼は思いのほか軽快に、くるりと振り返った。今朝の青白さはない。その顔にはいつもの不透明な笑みさえ浮かばせていた。
「やあ飛鳥井さん。ごめんね、こんなところに呼び出してしまって」
 初瀬くんはいつも通りの口調でそう言った。
 私は周りをキョロキョロと見回す。他に人の影はなく、彼一人のようだった。
「……ねえ初瀬くん、私に会わせたいって人は?」
「ああ、大丈夫だよ」
 何が大丈夫なんだろう。私は首を傾げた。
 すると初瀬くんはおもむろに携帯電話をポケットから取りだして何やら操作をし、それから私に手渡してきた。
「再生ボタンを押せば流れるから」 
「……どういうこと?」
「いいから押してみて」
「う、うん」
 私は言われた通りに再生ボタンを押してみた。
 するとガチャガチャ、という音が流れて真っ黒な画面から打って変わる。そしてカメラが誰かを映し出す。
 ――そこには、尊大な笑みを浮かべる一人の少女が佇んでいた。

     ◆

 初めまして、と言ったほうがいいのかしらね。
 あたしはあなたのことを前々から知っているからそんな感じではないんだけど。でもあなたの方は知らないだろうから、自己紹介しておくわね。
 あたしは黒崎杏樹。
 これを見て混乱しているでしょうけど、気を強く持って聞いてほしいの。
 でなければ、あなたこのままじゃ消えてしまうわ。他ならぬあたしによってね。
 わけがわからないだろうから、それをこれから説明するわ。
 いい? 気を強く持つのよ。
 そのひよこのボイスキーホルダーは――たしかトトちゃんだったわね? それに摩訶不思議な力はもちろんあるはずがない。たかだか二〇〇円程度で買えるオモチャにそんな能力がつくはずもないのよ。
 ワープだとかタイムスリップだとかそんなSFじみた愉快な現象も、当然起こってはいない。
 たしかにあなたはものの見事に勘違いをしたわけだけれど、それはいうなれば大昔から人間がしてきたことと一緒だわ。頭の理解が追いつかない目の前の現象を、神様や悪魔の仕業にすり替えることで納得し、心の安定を保つ。それと同じ。
 ねえ、つばさちゃん。
 あなたは真実と向き合わなければならないわ。どうしてもね。
 だからこうしてあたしの存在から認めてもらう必要があった。人間は幽霊みたいに正体不明なものに恐怖を抱きやすいから、いきなりダイレクトに真実を突きつけるんじゃなく、こういう側面からアプローチをしてみることにしたの。
 いいわね? これが私の最初で最後のエールよ。寛大なるあたしからのね。
 勇気を持って望みなさい。
 真実は時として残酷だけれど、それを乗り越えなければならない時もあるの。
 逃げていい時だってもちろんあるけど、今はダメ。
 決して逃げてはいけないの。
 でないと、あなたが消えてしまうから。近いうちにあたしの存在によって消されてしまうから。
 そんな不安がらないでも大丈夫よ。そこにいるグズーー初瀬優人も、きっと力になってくれる。
 あなたがあなたでいられるように、あたしも陰ながら応援しているわ。



     ◆



 数分の再生が終わって、私は唖然としていた。
 屋上のコンクリートに伸びた自分の影は微動だにしない。その周りを夕日が赤々と照らしている。私は携帯電話から目を離せずに固まっていた。
 画面には、微笑んで手を上げたまま静止した黒崎杏樹が――ううん。
 
 彼女は私と瓜二つの姿で、私の声で、私がしない尊大な仕草で、黒崎杏樹を名乗って、偉そうに喋って、初瀬くんのことをグズと罵って――私に優しい眼差しを向けて応援してると言っていた。
「これって、どういうこと……?」
 すると目の前にいた初瀬くんが神妙な顔つきでこう言った。
「これは君であって君じゃない。君が生みだしたーー言うなればもう一つの人格ってやつだ。それが『黒崎杏樹』という少女だったんだよ」
「もう一つの……?」
 驚愕する私に、彼は滔々と説明してくる。
「いわゆる二重人格だね。本人には堪えられないようなショッキングな出来事があると、防衛本能で別の人格を作り出すっていう。そして他の人格に切り替わって戻った際に、一瞬で空間を移動したみたいに感じる場合もあるって言われてるらしい。君が体験した『タイムリープ』はそういうことさ」
 つまり、と彼は静かに紡ぐ。

「君は」 

 絶句するしかなかった。
 時間じゃなくてーー記憶が。
 それも人格の入れ替わりによってなんて、まるで嘘みたいな話だ。
「そんな、どうして私が――」
「言っただろう? 本人には堪えられないショッキングな出来事があると、そういった防衛本能が働くことがあるって」
「で、でも! 初瀬くんだって昨日校門にいた時私と同じように『飛んでた』じゃない!」
「……それもたぶん、君の記憶が一瞬だけ飛んでそう見えただけじゃないかな」
 私はあの時のことを思い出した。初瀬くんが『飛んで』くる直前、たしかに変な感じがした。
 彼はお尻のポケットから一枚の紙切れをとりだして、私に差しだした。
「一応言っておくけど、これは黒崎さんから受けとったものだから」
「……?」
 その紙の色に見覚えがあった。端のほうがビリビリに破れている。
「もしかしてそれ、私の日記帳?」
 初瀬くんは黙って頷いてみせる。
 昨日の夜にたまたま見返していた時、一ページだけ破れてあったのを思い出す。私に覚えがないということは、『黒崎杏樹』がそれを破って初瀬くんに渡していたということだろうか。
 差しだされた紙切れを受け取ろうとして、ひょいと初瀬くんが自分の手元に引き寄せる。
「……いいかい? 気持ちを強く持つんだよ、飛鳥井さん」
 もう一人の私――黒崎杏樹と同じことを、真剣な眼差しでそう言ってくる。
 震える手で受け取って、折りたたんであったそれをさっそく開いてみる。そこには――
「?」
 そこには、何の変哲もない文章が書かれてあるだけだった。
 家族で動物園に出掛けていた弟が、お土産を渡しに次の日に尋ねてくるという吉報をほくほくと綴ったもの。……こんなの、いつもと全然変わらないと思うけど。
 そう思いつつ何気ない調子でクルリと紙をひっくり返してみて、
 一瞬で喉が干上がった。

『大ちゃんが死んでしまった。
 青だった。信号は青だったはずなのに、トラックが突っこんできた。大ちゃんをはね飛ばした。軽い身体が嘘みたいに高く飛んで、血がいっぱい出てて。ああもうやだ。思い出したくない。なんで。どうして。いやだ。いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ』

 グチャグチャだけど、たしかに私の字だった。
 震えながら書いたようで文字はミミズばっている。大きさも不揃いで、罫線を無視したようにはみ出していた。力を入れすぎたのか何度もシャーペンの芯が折れたような跡もある。最後は何が書いてあるのかもわからない状態だった。
「……大ちゃんが」
 私の弟が、死んだ? トラックに轢かれて――――
「轢か、れ…………て…………ッ」
 瞬間、私の頭に次々と映像が飛びこんできた。
 真っ赤な夕焼け、隣を歩く弟、ゼブラーゾーン、青信号、駆け出す弟、悲鳴を上げる私、猛スピードのトラック、弾け飛ぶ音、動かない大ちゃん、赤いバケツをひっくり返したようなアスファルトの上を、さらに赤い血だまりがのびている――
 弟が死んだ時の出来事が、ありありと私の頭に再現された。
「ーーーーッ」
 叫び声を上げたつもりが、声も出なかった。
 途端に見えていた世界がグラリと傾く。
 ……違う。
 傾いているのは自分だった。足の力が入らない。地面がすぐそこまで迫ってくる。
「飛鳥井さんっ」
 倒れかかった私を、誰かが支えてくれた。あ、初瀬くんだ。と妙に冷静な頭がそう認識する。
「気をしっかり持つんだ。酷だろうけど、君はこれを受け入れなきゃならない。でなきゃ君は彼女に存在を呑みこまれてしまう」
「大丈夫だよ初瀬くん。……意外と私冷静っていうか、平気みたいだから」
 安心させるために笑みを作ってみせる。
 けれど、彼は逆にさっと青ざめた顔をした。私を抱えた手に痛いくらい力が入る。
「それは逆だよ飛鳥井さん。君は今、事実を受け入れられないがために自分で自分を客観視しているだけだ。対岸の火事を傍観するみたいに、自分のことを他人事として捉えているに過ぎない。燃えているのは自分だっていうのにーー」
「い、痛いよ初瀬くん」
「そしてその後、君は黒崎杏樹と意識をバトンタッチする。記憶もさっぱり忘れて『リセット』してしまう。…………そういうパターンだったんだよ、君の場合。僕は何度か飛鳥井さんに事実を受け入れさせようとしたけれど、ことごとく失敗した」
「あ、はは。何言ってるの初瀬くん」
「君ーー弟はーー、ーーだんだ。ーーに轢かれて」
 初瀬くんの声がくぐもって聞きとりにくくなる。なんだか眠くなってきた。まるで深海の底に沈んでいくみたいだった。
 あれ、どうしてそんなに慌てているの?
 なんで初瀬くんは辛そうな顔をしてるの?
 珍しく悲痛な顔をした彼の顔は、それはそれで絵になった。彼の瞳からぽろぽろと大粒の涙が落ちてくる。
 泣き腫らした顔で彼は意を決したように私の顔を見つめ、それから何かを呟いた。
 ーーごめん、杏樹さん。
 そんな風に聞こえた。その直後だった。
 いきなり初瀬くんの顔が迫ってきて、私の唇を塞いだ。
「ーーーーッ!?」
 その衝撃に私はあらん限り目を見開いて、手足をばたばたとさせた。
 突き抜けるような驚きと一緒に視界が一気に鮮明さを取り戻す。
 さながら深海から急浮上したダイバーみたいに私はようやく解放された唇から思い切り息を吸う。初瀬くんは腕で涙を拭って、それから弱々しく笑った。
「目が覚めたかい? 杏樹さんの案でね、意識を引き戻すには多少のショックを与えなきゃって。君の性格上、コレが一番ダメージを与えられるって彼女が言ってたから」
 彼が身を起こした反動で、Yシャツの胸元から銀色のロケットが零れ落ちてきた。それを彼は開き、私に見せてくれる。
 そこには今より少し幼い初瀬くんと、もう一人、小さな女の子の映った写真が入っていた。
「……僕もね、妹を亡くしたんだ。君の弟と同じ交通事故でね。だから君の力になりたかったんだ」
 と、彼はそう言った。
 ――僕が、君と似たような境遇にいるから。
 その言葉の意味がようやく理解できた。
「ねえ初瀬くん。……その、黒木さんが私を消しちゃうっていうのはどういうこと?」
「ああそれは、控えめな飛鳥井さんに対して彼女の我が強すぎるから――って杏樹さんは言ってたよ。多重人格の人間で、例え主人格でも弱りすぎると他の人格に消されてしまうという症例はあるにはあるらしいんだ」
 そこら辺の感覚は本人たちにしかわからないんだろうけどね、と彼は言う。
「じゃあ、トトちゃん……じゃなくて、ひよこのボイスキーホルダーのことは?」
「ああ、それはトリガーだと思う」
 と初瀬くんは即答する。
「トリガー?」
「そう。君の悲惨な記憶を蘇らせるためのトリガー。心理学用語じゃ『リマインダー』っていうらしいんだけどね」
 私は小首を傾げる。どういう意味だろう。
 すると彼は人差し指を立てて、
「信号機の音響装置だよ」
 と短くそう言った。
「……音響装置? って、もしかしてあの、信号を渡る時に流れるあの音のこと……?」
 初瀬くんは深くうなづく。
「弟さんは青信号を渡っていた時に事故にあったそうだから、ずっと鳴っていたその音が飛鳥井さんの耳に残ったんだと思う。音響装置のメロディーはカッコーとか歌とか色々パターンがあるけど、それが偶然君のキーホルダーの音と一致していたんだよ」
 ……まさか。
 つまりそれって――
 そして初瀬くんは、愕然とする私に向かって静かにこう告げた。

「――そう、ひよこの鳴き声だ」

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