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第六章:VS魔王国

50:精霊王

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「遊びの精霊がケイオスワールドという物語ゲームを通じて、この世界にスタニスラスの魂を繋ぎ止める方法を取ったですわ。夢の精霊と協力して、夢を見させたのです」

「リュー様、もうお側を離れません」

「フォンセの加護、まぁ呪いですわね。その呪いに汚染された魂を浄化させる為に転成の儀、そして再転生の儀を施したのです。リュー君が向こうの世界へと転生した後、身体が弱かったのは浄化し切れなかったからでしょう。
 再転生する事で何とか呪いを断ち切る事が出来たの。これは命の精霊のお陰ですわね」

「また闇に呑まれるお姿を見たくありませんでした。ご無事で良かったですわ」

「こちらの世界へと魂が戻った際に、言葉が分かっていたでしょう? これはことの精霊のお陰ですわ。記憶が継続している以上、言葉が分からないと混乱してしまいますからね」

「精霊はみなリュー様の味方ですわ。みながワタシク達を祝福してくれる事でしょう」

 その他にもリュエは何やかんやと、俺がスタニスラスとしてこの世を離れ、そして再びリュドヴィックとして生まれ変わるまでの間の裏設定について語っていたが、説明中ずっとアンヌに抱き締められて愛を語られていた為にほとんど理解出来なかった。
 アンヌの愛の精霊としての力なのか、耳元での囁きによって脳内をトロトロに溶かされ、思考能力が低下している気がする。
 もうアンヌさえいたら、いやアンヌとアンジェルさえいたらいいやと思えて来た。

「それで、アンヌこと愛の精霊、リーベ・アム・アフェクシオンがスタニスラスに加護を与えた訳なのです。その為に精霊達がみな協力してスタニスラスの魂を再転生させるに至った訳ですわ。
 スタニスラスを再転生させる為に多くの魔力を消費してしまい、精霊としての権能を維持する事が出来なくなったので、愛の精霊の座を譲って時を待っていた訳ですね。リーベほどではないにしても、私とシャンも魔力が回復するまで砂漠の迷宮に籠もっていたのですわ」

「え? 精霊の座を譲るって、そんな事出来るもんなの?」

「ええ、光なり大地なり風なり愛なり、それぞれの属性をただ1体の精霊だけで見切れる訳ではないですから。それぞれの統括というか、代表のようなものが各属性の精霊として名乗っているのですわ。
 ですから、アンヌについては300年前に愛の精霊の代表だった、というだけなのです。今は人族の身体に精霊としての魂が入っているに過ぎません」

 何か掴み所のない説明で釈然としないな。だがまぁ俺に前世、そして前々世の記憶がある時点で説明し切れないんだから、無理に納得しようにも無理な話だな。
 そんなもんだ、程度に捉えておく事にしよう。

「そんな事はどうでもいいのです。ワタクシとリュー様さえいれば、そこに愛はあるのですから……」

 ……、うん、そういうもんだと思っておこう。

「あ、身体は人族と全く同じですので」

 そう微笑むアンヌ。つまり、まぁ子供は作れるからねって事なんだろう。本当にこの世界の精霊って存在は何でもありだな。




 アンヌの登場から空気と化していたおじいちゃんとエクトル伯父さん。今の話を全て理解し切れていないけれども、誰かに公表するような次元の話ではないという理由で、俺と同様そういうもんかと思うに留めるそうだ。
 ただ、侯爵だ王太子だ国王だと話していた俺の今後については、リュエ達精霊の悲願なのならば、という事で俺の将来は精霊シスターズへと譲り渡されてしまった。
 俺は王になるとは言ってないんだけど。

「リュー様が国王であれば、私は王妃ですわね」

 王妃どころか神様的存在なんでしょ?

「身体は人族と全く同じですので」

 うん、分かったから。分かったからじりじりとこっちに詰め寄って来るのを止めよう。みんな見てるから。

「魔王城ではお楽しみでしたのに……、ワタクシでは不満であると仰るのですか?」

 何でディアーブルとの一件を知っているんだ!? これが女の勘ってヤツなのか!!?

「ワタクシは愛の精霊ですの。愛の営みについてはワタクシの管轄でしてよ?
 他にも快楽の精霊や情熱の精霊、被虐の精霊など多数おりますが、お好みに合わせてお呼び致しますわ」

 もうヤメテ、精霊はお腹いっぱいです……。
 ってかもう悪役令嬢とか正統派ヒロインとか関係ないな。
 憧れていた悪役令嬢の正体は、愛に振り切れた精霊でした。



 魔王国との戦争状態が解消され、魔族の脅威に晒されていた王国に平穏が訪れた。まだ公表されていないが、ハーパニエミ神国が魔王国を吸収し、そして新たに統一されて出来る国と王国との間に友好条約を結ぶ事となる。
 その他の国の思惑など俺には分からないが、魔族以上の脅威というものはそうないだろうし、この平和はしばらく続くのではないだろうか。
 神国のドラゴンと王国の勇者が手を取り合い、魔王を葬った。これだけで他国の侵攻を躊躇わせるに違いない。

 問題なのは、ディアーブルが生きており勇者である俺の元に下ったという事。そして本当の黒幕である闇の精霊フォンセも俺の元に下ったという事。さらにはハーパニエミ神国の表向きの国家元首である大神官グレルは先代勇者であるスタニスラスとの間に子供がおり、その子供であるスラルは今代勇者である俺の事を父上と呼ぶ。
 その勇者はスタニスラスの血を受け継いでおり、現国王の直系の孫。人の身体になった精霊とファフニール族の王女とそれぞれ婚約していて、魔王国を飲み込んだ神国の王になる予定だ。

 誰がこんな話を信じるのか。
 あまりにも説得力のない筋書なので、おじいちゃんが文官達に命じて国民及び他国へ説明する公式的な筋書を書かせているらしい。
 対国家戦力として、俺の力はドラゴンにも並び脅威らしい。本当の力量を知らせてしまうと、必要以上に圧力を加えてしまい、暴発しかねないとか。
 正面から打って出ても敵わないのであれば搦め手を使う可能性がある。俺の大事な人を人質に取ろうとするなり、何なりと可能性の上でのリスクは尽きない。

 よく分からないけどそういう事らしい。ので、俺としては当分は当初の予定通り王立スタニスラス学園へと通う事になった。

 俺とアンジェルは学園に通い、アンヌはその間家で家庭教師からの教えを受ける。
 自分だけ除け者になるのに大丈夫なのか? そう尋ねると、

「アンジェルの愛は本物ですから」

 という答えが返って来た。
 アンジェルは涙ぐんでアンヌを抱き締めていたが、この2人にも俺の知らない裏設定がまだまだ残っていそうで怖い。


 キトリーも俺とアンジェルと一緒に学園に通う訳だが、俺が魔王国とハーパニエミ神国からなる新しい国の王になった際には、その国に着いて行くからと言っている。
 王都での神事はいいのか尋ねると、

「もう魔族はいないから」

 という答え。それは答えになってないよな? 魔族がいなかろうが、王都で行われる神事関連はコンスタンタン家が取り仕切ってるんじゃないのか?

「何とかなるよ」

 適当過ぎるだろ。



「明日からやっと学園に通うのね、こっちはあなたの受け入れ体制を整える為にバタバタしてるっていうのに本人が来ないんだもの」

 あ~、母上。それは俺のせいではないとはいえ、ご苦労様です。
 それにしても、ようやく公爵城へと帰って来る事が出来た。キトリーは引き継ぎがどうたら言っていたので王都へ残して来たが、少しすれば学園へと通う為にこちらへ来るそうだ。

「そう言ってやるな、リュドヴィックも魔王を倒した後の事故処理でバタバタしてたんだ。明日からはやっと12歳らしい日常へと戻れるんだ、いい事じゃないか。
 今日は久しぶりに家族全員が揃ったんだ。新しい家族も増えた。ゆっくりと夕食を楽しむとしよう」

 新しい家族とは、ディアーブルの事だ。今の姿は完全に人族の姿形そのものなので、ディアーブルが魔王だったという事は伝えていない。
 公爵城に連れ帰ったら、父上に肘でツンツンと突かれ、「あまりアンヌを泣かせるなよ?」と笑われただけで済んだ。

 父上と母上、トルアゲデス公爵夫妻は俺が魔王を倒した事は知っているが、この先この公爵領を離れて一国の王になるという予定を知らされていない。おじいちゃんこと国王陛下が言う時期を見計らうからと、今現在は口止めされている。

 せっかく跡継ぎとして俺を養子としたのにも関わらず、他国の王様になるからと取り上げられるという事実を伝えるタイミングを計っているらしい。確かに言いにくいよなぁ。
 そんな公爵夫妻をノマール子爵夫妻は居た堪れないというような面持ちで見つめている。

 ちなみに、俺の実の両親であるノマール子爵夫妻はその事実を伝えられている。王太子であるエクトル伯父さんから教えられたそうだ。ニヤニヤしながら話していた、とお父様が言っていたから、多分嫌がらせだろう。
 王太子の座を俺に譲れなかった為の腹いせだと思われる。大人げないな。

「お父様、お母様、リュー様が戻られた事以外にも何かお祝い事があるのではないですの?」

「えっ!? アンヌったら突然何を言い出すのです!!?」

 母上がやけに慌てておられる。父上の顔をちらちらと見て、困っているようだ。

「マリー、ちょうどいいじゃないか。なかなか家族が揃わないから言い出しにくかっただけなんだ」

「そうね……。実は私、妊娠したみたいなのよ」

「それはそれは! 兄上、おめでとうございます!!」

「マリー、おめでとう!!」

 ここぞとばかりに祝福するお父様とお母様。お腹の子が男の子でありますようにという念が込められていそうだ。アル兄とベル兄は素直に祝福しているというのに。

「それがねぇ、お腹の子には申し訳ないんだけど、男の子だったらどうしようと思ってね……」

 あぁ、わざわざ弟夫婦に頼んで俺を養子に貰ったのに、実の子が男の子だった話がややこしくなる、そういう心配をしておられるのか。
 アンヌ、お父様、お母様、アンジェル、アル兄、ベル兄、そしてマクシムが俺の顔を一斉に窺う。
 事情を知らないアル兄、ベル兄、マクシムは心配するような、苦い表情を浮かべているのに対し、アンヌと両親、アンジェルは、俺の顔をじっと見て、さぁ今だ早く言えと促すような表情。
 ちなみにディアーブルは話を振られないようと完全に気配を消している。マクシム以上に存在感が薄い。

 はいはい、自分で言えばいいのね。分かった分かった。

「父上、母上、もしお腹のお子が男の子だったら、この公爵領を継ぐ嫡男として育ててあげて下さい」

「リュドヴィック、しかし……」

「そうよ、そんな事は出来ないわ……」

 父上と母上のお気持ちは伝わった。それだけで十分だ。

「実は俺、いえ僕はハーパニエミ神国へと移る事が決まっているんです。ハーパニエミ神国が魔王国の領土を併呑へいどんし、新たな国として生まれ変わるのです。
 その統治を僕が任される予定でして……」

「統治を任されるとは、どういう形でだ? 王国からの派遣という扱いなのか?
 外交上よろしくないと思うのだが」

 さすが父上、察しが早い。魔王国とハーパニエミ神国が統一されるからと言って、メルヴィング王国から勇者が出張ってくるというのはおかしな話なのだ。

「ご歓談中失礼致しますわ、皆さま」

 と、そこへ次々と実体化していく精霊シスターズ。初めてではないとはいえ、みんながびっくりして慌てて立ち上がろうとする。

「そのままで結構じゃ。そろそろ我らに対しても親しみを持ってもらいたいもんじゃのぉ」

 それは無理な話だぞ、クー。

「そ、それで如何なされましたか!? こうも一同に精霊様がお見えになるとは……」

「ふふっ、見えないだけで、私達は常にリュー君の近くをウロウロしているのですわよ?」

 そんないらん情報伝えるな、過剰に意識させて日常生活が送れなくなってしまうだろうが。

「実はの、統一された新しい国の王を、リュドヴィックに任せようと思うておるのじゃ。
 魔王を倒し、そして倒すたびに魔王を復活させていた裏の存在さえもリュドヴィックが倒してしまった。これ以上王に相応しい者はおらん。
 すまんが、公爵家の嫡男を貰ろうて行くぞ」

「で、ですが……」

「お母様、ご心配なく。お腹のお子は男の子だそうです。元気な子が生まれるよう、精霊達が見守ってくれますわ」

「アンヌ!? それは本当か!!?」

「ええ、お父様。アンジェルお姉様は命の精霊より加護を受けておられますので、お腹の中の命まで感じ取る事が出来るのですわ。
 ですから、ワタクシとお姉様は知っておりました。お母様は何も心配なさらず、お身体を大事にして下さいませ」

 さて、これで俺が新しい国の王となる事を辞する理由がなくなってしまった。残っていようがいまいが恐らく決定事項として動かなかっただろうけれど、何となく最後の砦を潰されてしまったような感覚。
 だいたい元々は士爵家の三男だぞ? それが子爵家の三男になって、公爵家の嫡男になって、勇者になって次は王様だって?

 俺が学園を卒業するのが16歳。
 ケイオスワールドの筋書上ではゲームの登場人物としてのリュドヴィックが死んでしまうタイミングで、俺は王として即位するらしい。
 真逆過ぎない?


「そうそうリューちー、そろそろ精霊化が始まると思うんだー」

 そう言ってシャンが俺の身体をペタペタと触り始めた。精霊化って何だ……?

「ほう、精霊化か。久しい事よ」

「ええ、そうね。もう何千年振りじゃない?」

 えっと、ちょっと待ってくれないかな? エスもフォンセも知っているみたいだけど、俺は全く分かってないからちゃんと説明して下さい。

「リュー様、リュー様のお身体はもう人族と全く同じではないのですよ?」

 えっと、どういう事でしょうかアンヌ。

「リュー様、人族が精霊様と契約を結ぶと、その身体が少しずつ精霊へと昇華していくそうなのです。リュー様はすでに4柱の精霊様と同位間契約を、そして主従の契約をフォンセ様と結ばれております。
 前例にないほどの早さで精霊化するのではないか、と命の精霊様が仰っていました」

 また出たな裏設定! アンジェル、何でもっと早く言ってくれないの!?
 あれか、俺は人間じゃなくなるのか!?

「これがホントの精霊王ってね~」

 うるさいシャン! 王様が精霊って別に今のハーパニエミ神国でいいじゃん!!
 クーが正式な国家元首だろ、今と何が違うんだよ。すんごい騙された感!!

「よし、契約を解除して行こう。俺は普通の身体でいたいんだ!!」

「契約って双方の合意の元で成り立つものですから、一方的に破棄は出来ませんわよ?」

「リュエ、最初からこのつもりだったんじゃないだろうな!?
 だいたいおかしいんだよ、魔王を倒す為だけなら精霊と契約しなければ得られないほどの魔力なんて必要ないだろ!!
 魔王とか闇の精霊とかただのついで、いやそれこそ仕込みだったんじゃないだろうな!!
 おい、そっぽ向いてないでこっち見ろフォンセ! お前の本当の目的はこれだったんじゃないだろうな!? 聞こえてるだろ!!
 ……、俺が完全に精霊になってしまうのはどれくらい先なんだ?」

「ん~、多分50年くらい?」

 え、結構時間掛かるんだな……。

「大丈夫じゃ、契約を重ねて行けばその分早まる。ロンもおるし、アンヌことリーベも愛の精霊としての魔力を溜めておるし、国が出来ればリュドヴィックと契約したがる精霊も寄ってくるじゃろう」

「いや別に俺は早く精霊になりたい訳じゃない! だいたい何の精霊になるっていうんだよ!?」

「え? そんなの決まっていますわ、精霊を統べる精霊、精霊王になって頂きますわ」


 はぁ~!? 精霊を司る精霊って?

 

 そんな裏設定、知らないよ!!?




「リューちゃんが精霊になったら、私達も……。ふふふふふっ」


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