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第六章:VS魔王国

47:精霊の加護、魂の形

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「あぁぁぁ……、お待ち申し上げておりましたぁぁぁ……」


 魔王国は魔王城へと戻った僕を、もう二度と逃がすものかと言わんばかりに抱き締める魔王ディアーブル。その姿は逃げ出そうとした彼氏にもうどこへも行かないでと縋りつくアラサー女子そのものだ。
 魔族でも胸は柔らかくて温かいんだな……。

『……………………』

 アンジェル、無言の念話を送って来るの、止めてもらえない?

「安心しろ、フォンセの加護から魔族を開放出来るであろう手立てを用意した。魔族に掛けられた加護を一斉に解除する。
 先日のように魔王城周辺に集める事は可能か?」

「一斉にというのは、全国民を同時にという事でしょうか……? さすがに全国民を集めるとなると時間を頂きとうございます」

 口調は戻っているけど、抱き締めるの止めてくれないか? 婚約者の視線が痛い。

 それはそうと、王国へ戻っていた期間が1週間ほど。残り3週間で魔王国の全国民をフォンセの呪縛から解放するとなると、かなり厳しいような気がする。いや、改めて考えて正直無理だろって今さらながらに思う。

「前回の勇者殿ご一行をお迎えした際に魔王城周辺で待機しておったのが、国民の約3割ほど。それらは魔王都を離れぬよう指示しております。残り7割に関しては、現在こちらへと向かわせておる最中にございます。
 後2日ほどお待ち頂ければ、ほぼ全国民が集結可能かと」

 はぁ……。準備がいいのか、それとも国民の総数が少ないのか。はたまた魔王からの召集に慣れているのか。そこらへんはとりあえず置いておこう。
 今回は戦ではなく、両国にとってより良い未来の為の合同作戦だ。王国、ひいては僕達の負担の方が極めて大きいけれど、今回の作戦が成功する事で争いがなくなるのであれば、それでよしとしよう。

「して、闇の精霊様からの加護を解除する方法というのは……」

「あぁ、このキトリーが精霊のお力をお借りして、フォンセと魔族との間に結ばれているえにしを断つ」

「そのような方法が……。キトリー殿、何卒よろしくお願い申し上げます」

 魔族の王たるディアーブルに頭を下げられ、キトリーはどこか落ち着かない様子のようだ。いや違うな、あの目つきは……。

「そろそろリューちゃんから離れてもらえないかな? それ、ボク達のなんだよね」

「あら? キトリー様にたまにお貸しするのは構いませんが、リュー様の寵愛を分けて差し上げるつもりはございませんよ?」

 バチバチバチと複数の火花が散る。あの~、あくまでこれは大魔王を相手取った最終決戦なんだけど。愛だ恋だと言っている場合じゃないんですよ?

「此度の一件が終われば、我が身をリュドヴィック殿に捧げるつもりでございます。妻にとは申しませぬ、めかけの1人としてたまにお相手を務めさせて頂ければ……」

 うわぁ、お断りしてぇ……。

「後の事を語るより前に、実際に魔族へと与えられている加護を解除出来るかどうかの確認がしたいんだ。
 正直に言って、生まれたその瞬間から与えられている加護を解除する、その影響がどう出るかの実証は出来ていないんだ。
 誰かに協力をしてもらえればと思うんだけれどね」

 キトリーは半ば冗談だったようだ。アンジェルは半ば本気といったところか。その目つきを止めなさい。

「どのような影響が分からぬ以上、おいそれと試すのも難しい、と。であれば、この私でお試し下さい」

 ディアーブルが被検体を買って出た。まぁ先にやるか後にやるかの違いではあれ、魔族を統べる王としての責任として手を挙げたのだろう。
 ただ、万が一何かが起こった際、残された魔族、ひいては魔王国と王国の関係はどうなるだろうか。少し想像するだけで不安要素が山のように出て来る。

「私の身に何があろうと、すでに我ら魔族はリュドヴィック様に屈しております。急進派も根絶やしにし、私が率いる穏健派の幹部達も恭順すると約しております。
 何も問題ございません」

 僕に屈しているのではなくて、メルヴィング王国に屈しているという言い方にしてくれないかな。別に僕はこの国をどうこうしたい訳ではないんだから。

「リュー様、ここまで言っているのです。魔王自らが進んで加護解除を受ける事で、他の者達も安心する事でしょう」

「そうだね、ちゃちゃっとやろうか。さぁリューちゃん、ボクを抱き締めて!」

 そりゃ僕のブーストがないとディアーブルの加護を剥がすの大変だろうけどさ、その言い方はちょっとどうなの? ほら、ディアーブルが変な顔してこっち見てんじゃん。いらぬ火種作らないでよ。
 今でさえアンヌでしょ? アンジェルでしょ? それとキトリーじゃん。3人だよ!? おかしくない!!? それに控えているのがイレーヌでしょ、それと……

「終わったよ」

 早っ!!?


 縁の精霊、ロンとその契約者キトリーの力によって、魔王であるディアーブルに与えられていた闇の精霊フォンセからの加護を解除する事に成功。
 キトリーの終わったよ、の声の後、ディアーブルの身体に変化が見られた。頭頂部付近から生えていた鋭い角が2本、まるで鹿の角が生え代わる時のようにポロンと取れた。
 そして長く伸ばさせたオレンジ色の髪は、頭頂部から毛先に向けて銀色へと変化。金色の瞳も空のように透き通った水色へと変わった。
 青白かった肌も、初雪のような白さへと変わっている。唯一変わらなかったのは、鮮やかな赤い唇だけか。まるで別人のようなディアーブル、本人も自身の変化に戸惑っている様子だ。

「加護を剥がす事によって見た目まで変わるとは、やはり生まれながらの加護を解除するのはその魂にも影響があるんだろうね」

 生まれながらに受けていた加護を解除した事により、魂にまで影響を及ぼし、姿形まで変化した。逆に言えば、生まれながらに加護を受けている事によって姿形が本来の物から変えられていた、という事だろうか。
 となると、ドラゴン種も同じく、生まれながらに姿形が変えられているのかも知れない。加護を与えられているからこそのドラゴン、なのだろうか。こればかりは試す事は出来ないし、試す必要も感じられない。



 これで魔族へ与えられているフォンセの加護を解除する、剥がす事が可能である事が実証された。問題があるとすれば、魔族全体の加護を解除するのにどれだけの時間が必要かという点か。
 空間の精霊、エスによってしばしの間フォンセを封印出来ているけれど、その封印がこの世界に影響を与えないであろう期間が残り3週間ほど。それまでに全ての魔族の加護を剥がせるのだろうか。
 最悪、一瞬のみ隔離した空間を元に戻し、そして再度隔離し直すのいう事が可能かどうかエスに聞いてみよう。


「あの、リュドヴィック様……」


 夜になり、魔王城に用意された客間で1人寛いでいると、顔を真っ赤にさせたディアーブルが入って来た。
 明日から魔王国の国民、1人残らず加護を解除して行く事を考慮して、かなりの重労働になるであろうからと、ディアーブルが1人につき1部屋を用意してくれた。
 アンジェルとキトリーは僕と同室がいいと言っていたが、僕もたまには1人になりたいなと思ったので、せっかくだからと1人にしてもらったのだ。

 青白かった肌が白く柔らかそうなすべすべ肌へと変化し、真っ黒なローブを着ていたディアーブルは、今は真紅のナイトドレスに身を包んでいる。
 いや、ところどころ包み切れていないけれど……。とっても大きいです。

「どうした?」

 魔族の王、ディアーブルに対する口調がどうしてもキツい物になってしまうのはどうしてだろうか。仮にも僕が勇者たる存在だからか、それともディアーブルが完全に屈服しているからか。

「魔族に先行致しまして、この身を呪いから解放して頂いた事、改めてお礼申し上げます。
 実は、この城の禁書庫の奥に昔々の古文書がございまして、もしやと思い確認致したところ、我ら魔族も元は同じく人族であったと思わしき文献がございました」

 なるほど、この国は元々人族の国であり、何らかの理由で闇の精霊フォンセが影響下に置いた為にそれ以降魔族として姿を変えさせられていたのかも知れないな。
 この辺りの話は、事が終わり次第リュエ達精霊シスターズに確認しよう。むしろ何故黙っていた。

「生まれた時から角があり、あのような姿形をしておりましたが、むしろ何故今まで不思議に思わなかったのだろうというほど違和感がなく驚いております。
 実はその……、姿形が変化したのは角や髪、肌の色だけではなくてですね……」

「どうした? はっきりと言ってくれないと分からないんだが」

 モジモジしていても伝わらない。ディアーブルを促すと、意を決したかのような表情で僕を見つめ、大きく開いた胸元、その谷間からキラキラとした青い宝石を取り出した。

「こちらをお手に取って頂きたく……」

 両手で差し出されたそれを手に取り、シャンデリアの灯りに透かして見る。どうやらこれは魔力の結晶のようだ。結晶内部がゆらゆらと揺らめいており、それなりの魔力が込められているのが分かる。

「我ら魔族は、へそにその魔石を付けて生まれ出ます。闇の精霊様の加護が解除された際、角と同じタイミングで私の臍からポロリとそれが零れ落ちました。
 本来であれば、魔族の男は死ぬまで臍に付けたまま。女は魔石を取り出して、伴侶となる相手へとその魔石を捧げて婚姻の証と致します」

 ん?

「私は是非ともリュドヴィック様へと捧げたいと思い、お渡しした次第にございます。あ、魔族の風習と致しましては一度手にされた魔石は返却不可でございますので受け取れません。ご了承下さい」

 いやいや、返すから受け取れよ!

「何も妻としてくれなどと烏滸おこがましい事は申しません。先ほど申しましたように妾の1人としてで結構です、お側に置いて下さいませ。
 そして、その魔石を捧げた際には伴侶へと精一杯の愛情をお伝えするのが我ら魔族の古くからの習わしにございます。
 この身、未だ男を知らぬもので不慣れかも知れませぬが、私からの精一杯の感謝、親愛、そして奉仕の精神をお伝え出来ればと思っておりますので、どうか、どうかお受け取り下さいませ」

 来るな! 四つん這いでこちらに迫って来るな!!

「そうは申されましても、うふふふふふふっ……」



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