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信仰よりも現実を

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「あの、そろそろ部屋に戻らせてもらえないでしょうか。
 さすがに頭がこんがらがって来てしまいました。
 少し一人で考えさせて頂けないでしょうか。
 一応私は休みなく戦に出て疲れているので……」


 そんなこんなで自室へ戻る事が出来た。
 父上が鈴の為に部屋を用意し、ミィチェもそちらへ着いて行った。
 三百年振りに再会したのだから積もる話もあるだろうと思ったが、実は鈴はミィチェがリトゥアール家へ連れて行かれた後にちょくちょく会いに行っていたらしい。
 ミィチェ同様小さい猫の姿になって屋敷に侵入して、様子を見に言っていたそうだ。

「ポーシェは今夜の話はどこまで知っていた?」

 ポーシェに寝間着を着せてもらいながら質問する。
 違う、そのフリフリレースのドレスじゃなくていつものガウンを寄越せ。

「全て知っておりました。
 私はお坊ちゃまが竜神様に連れ去られないよう護衛する役目も負っておりますので」

 渋々ガウンを着せるポーシェ。
 毎晩毎晩同じやり取りをするのも疲れるんだが。
 もしかして諦めて言われるがままドレスを着てしまうのを狙っているんじゃないだろうな。

「俺が連れ去られないように?
 だから鈴が降りて来た後、みんなで俺を守ろうと必死になっていたのか」

「はい。
 初代当主様から続くリトゥアール家の歴史の中で、表には決して出せない話が伝わっています。
 竜神様は幼い男の子を竜の島へ連れ去ってしまう、と。
 竜神様が代々の当主に自ら差し出せと仰ったという正式な記録は残っておりませんので、連れ去られるという話が事実かどうかは不明です」

 うーん。
 鈴を見た限り、生け贄を求めるような人には見えない。
 リューゲに憧れて行方不明になった男の子の事と、いつの間にか話が混ざったんじゃないかな。
 それに、俺は決して幼い男の子じゃない。

「この地はリトゥアール家のものではなく、遙か昔に因縁があるシュライエン家。
 当主同士、お坊ちゃまのご両親同士に軋轢はないものの、古い考えの人間もおります。
 特にリトゥアール家には影の者がおりますゆえ、お坊ちゃまを連れ去られてしまえば竜神信仰を大々的に復活させようとするでしょう」

「影の者というのは、信仰を続けて来た部門の事か?」

「そうです。
 また、シュライエン家は当主子息を連れ去られるという失態と共に、お館様のご実家との衝突は避けられなくなります。
 今の時代、信仰を忌避する者の方が圧倒的に多いです。
 竜神様のご意志がどうであれ、王国内でのリトゥアール家の立場の方が、今は大事なのです」

 何というか、現実的な考えだな。今の今まで竜神の存在をほとんど信じていなかったのだから当然か。
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