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神をも恐れぬお坊ちゃま

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『鈴、うちの屋敷に招待したいって父が言ってるんだけど、どうかな?』

『アルティちゃんのおうち?
 んー、行く行くー』

 軽いな。
 まぁ断られる事はないだろうと思ったけど。
 けれど不安が一杯あるな、一応確認をしておこう。

『屋敷の中で竜の姿に戻ったりしないよな?』

『あー、うん。大丈夫だよー』

 あんまり信用出来ない返事だ。
 本当に大丈夫だろうか。

『竜は魔力の塊。
 自分がイメージする形になれる。
 鈴の今の姿は前世の姿。
 よほどの事がない限り、あの身体から形が変わる事はない』

 俺の疑念の感情を感じ取ってか、ミィチェが説明をしてくれる。
 という事は、ミィチェも前世の姿に変身出来るという事なんだろうか。
 気になるが、後でゆっくりと教えてもらうとしよう。

「お父様、鈴が屋敷へ来るそうです」

「竜神様のお名前はシュジュ様と仰るのだな。
 ではシュジュ様、こちらでございます」

 父上が身振りで鈴を誘導し始め、大人しく着いて行く鈴。
 この世界の人間には『スズ』という発音が難しいらしい。
 まぁシュジュでも伝わるのであれば問題ないか。

『え、分かれて馬車に乗るの?
 面倒だからあたしが竜化して皆を背中に乗せてあげるよ!』

 そう言って、鈴はピカーっと光を放ち始めた。
 慌てて止めに入る。

『ちょっと待て!
 変身するな!!』

『え、何で?
 あ、そっか!
 このまま変身しちゃったら、貸してもらった服がビリビリに破れちゃうねー』

 そう言って、鈴は光を止めて服を脱ぎ始める。

『だからちょっと待てって言ってんだろうが!』

 鈴の頭を叩いて止める。

『痛いなー、ひどいよー?』

『アルティ、ナイスツッコミ。
 鈴、竜は信仰の対象。
 背中に乗るという発想がない。
 それ以前にこの人達は鈴に近付く事も出来ないと思われる。
 素直に馬車で移動する』

 ミィチェが俺の気持ちを代弁してくれた。
 鈴はミィチェの言葉を聞き、ようやく納得してくれたようだ。
 そしてやっと、俺が家族や兵士達にすんごい目で見られているのに気付いた。

「お兄様、今竜神様の頭を叩かれましたわよね……?」

 いや、エティー、あれは違うんだ。
 あれは日本のツッコミという文化で……、そんな事を言っても理解してもらえないか。
 俺は神様の頭を叩くというとんでもない行動をしたと、みんなに思われているのだろう。
 神をも恐れぬお坊ちゃま。
 この誤解は解けそうにないな……。

 そんなひと悶着ふた悶着ありつつも、何とか屋敷まで帰って来た。
 街はもう寝静まっている。
 本来であれば俺も家族も寝付いている時間帯だが、今夜に関しては寝ている場合じゃない。
 色々と説明しておいてもらわなければならない事がある。
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