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ミィチェは月に吠える

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 ミィチェを探すも、目に入るのは逆さに刺さった両手剣のみ。
 ミィチェが俺の手から落ちた時、刃に当たって怪我してないだろうか。
 刃には何の形跡もないような気がするが、暗いのでよく見えない。
 大丈夫だったら良いんだけど。

「お坊ちゃま」

 異変を察して飛んで来たらしい。
 ポーシェのいた辺りまで光の影響は及んだのだろうか。
 ポーシェは何やら目をしかめている。

「にゃーーー♪」

「ミィチェ!? 無事なのか、どこにいる!?」

 鳴き声は聞こえるが、姿は未だ見つけられない。
 草の影、地面の窪み、どこに隠れているんだ?

「お坊ちゃま、ミィチェが……」

 ポーシェが俺の頭へと手のひらを向ける。
 と、同時に頭の上にふさふさとした何かが感じられた。
 これは、ミィチェの足なのか?
 どうやって登ったんだろう。
 ほとんど重さを感じないような気がするが。

「ミィチェが、どうした?
 怪我してるのか!?」

「いえ、ミィチェが飛んでいます」

 は……?

「ミィチェがふわふわと浮かんでいます、これではまるで……」

「ナァァァオオオ!!!」

 突如、ミィチェが威嚇するような声を上げる。
 こんな声、今まで聞いた事がない。
 上を見上げると俺の目の前にミィチェの真っ黒な翼が広げられていた。
 羽ばたいている訳ではなく、ふぁさっと広げられた両翼。
 どういう原理で宙に浮いているのか分からないが、ミィチェはその格好のまま空へ向けて威嚇を続けている。

「フシャァァァアアア!!!」

 空に向けて吠える、と聞くとまるで犬のようだが、ミィチェは猫だ。
 猫は吠えるというよりも鳴く、という表現しか思い浮かばない。

「月……?」

 ポーシェの呟き。
 なるほど、ミィチェは夜空ではなく、夜空に浮かぶ満月に向けて威嚇しているのか。
 黒猫と満月というのは相性が良さそうだが。
 何を威嚇している?
 まさか、月が落ちて来るとでも言うのだろうか。

 次の瞬間、突風が空から吹き下ろされる。
 まともに立っていられないほどの風。
 なのにミィチェは微動だにせず俺の前で翼を広げて鳴いている。

「お坊ちゃま、伏せて下さい!」

 伏せる? 何を言っているんだ。
 いや、あれは、月から何かが落ちて来る……?

「ポーシェ、アルティを!」
「御意!」

 父上の怒声が聞こえたと思ったら、次の瞬間には俺が地面に押し倒されていた。
 草と土の匂い、そして温かくて柔らかい感触。

「ふがふがっ!?」

「お坊ちゃま、今しばらくお静かに」

 咄嗟の事で分からなかったが、ポーシェの胸に顔を押し付けられているらしい。
 何も見えないので判断し辛いが、俺は横向けに倒されたようだ。
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