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侍女達は自重しない

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「お坊ちゃま」

「なぁー、指輪なんていらないよなぁー」

 ミィチェの喉を撫でると、ゴロゴロと喜びを表現してくれる。

「しかしお坊ちゃま、フィデリーテが申しておりました魔力増量の秘術が本当かどうかお確かめになる良い機会でございます」

 いつも通り無表情のまま。
 いや、僅かに頬を上気させて、ポーシェが赤いゴツゴツした宝石が乗っている指輪を俺に渡そうとしてくる。
 指輪だけではない、イヤリングやネックレス、髪飾り、腕輪。
 これらはポーシェの私物だろうか。

「それは本人の思い入れがあったり、気に入った逸品だったりするからこそ効果があるんじゃないのか?
 俺の持ち物ですらないんだから意味がないだろう。
 それに指輪なんてそれぞれ号数が違うんだから合わないだろう?」

「これは私がお坊ちゃまの為に買い揃えた品々でございます。
 この指輪はお坊ちゃまの右手人差し指にピッタリ嵌まります。
 確認済みです」

「何で俺の為に買い揃えてるんだよ!?
 確認済みって寝ている間に嵌めたのか!」

 ポーシェは何で執拗に俺に女装させようとするのか。
 無表情のクセに必死さが漏れ伝わって来るからすごく怖い。

「カーニャも化粧しようとするな!」

「しかしご主人様、せっかく爪が綺麗に塗れたのです。
 口紅や頬紅なども……」

 除光液なんて便利な物がないせいで、マニキュアが落とせないでいる。
 綺麗に塗れたのは俺が魔法で深い深い眠りについている時に勝手にやったからで、俺が頼んだ訳じゃない。
 二人して俺を着飾ろうとする。
 この二人は前から知り合いだったりしないか?
 急にここまで仲良くなれるもんかね。

「お坊ちゃまの思い入れはなくとも、私の思い入れがたっぷりと詰まっております。
 さぁ、お手をお出し下さいませ」

「思い入れならこのミィチェが一番だ。
 このコを抱いたまま歌うから問題ない」

 ミィチェを胸に抱き締めて、ポーシェとカーニャへの盾となってもらう。
 心なしかミィチェの眼光が鋭い気がする。
 頼もしい、月明かりに照らされた金色の瞳に吸い込まれそうだ。

 そんなバカなやり取りをしているうちに馬車が止まった。
 街道から外れた場所へ向かう為、これ以上馬車では進めない。
 ここからは徒歩で移動か、と思ったら馬が用意されていた。
 俺が馬に跨ると、期待した表情でエティーが手を差し出して来たので引き上げた。
 俺の後ろからがばっと腰へ抱き着いて来る。
 スカートが捲り上がってるが、見てない振りをしておこう。
 母上と姉上はそれぞれの夫の前で横乗りをしている。

「エティー!」

 父上に呼ばれて気付いたのか、エティーが体勢を変えた。
 落ちないようゆっくりと行こうか。
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