上 下
85 / 122

フィデリーテの秘術

しおりを挟む
 戦の始末を終えて、屋敷へ向けてさぁ帰ろうという時にフィデリーテが妙な事を言い出した。
 自分の装飾品を全て取り外してほしいと。
 どういう意図でそのような事を言うのか詳しく聞くと、どうやらフィデリーテは自分よりも格上の魔法使いであるカーニャに並ぶ為に装飾品をゴチャゴチャと着けているのだそうだ。
 元々は顔もスタイルも良いカーニャに相応しい自分であろうと集め始めたアクセサリーだが、どうやら自分が気に入り思い入れもあるアクセサリーを身に着けている事で、魔法の発動がより大きなものになる事を発見したのだとか。

 この世界の魔法は詠唱や依り代や対価など必要なく、自分の意思のみで発動させる事が可能だ。
 その分、魔法と聞いて想像するような火や水や光を操ったり、瞬時に別の場所へ転移したりという分かりやすいものはあまりない。
 自分の感情に魔力を乗せる、そしてそれを上手く制御する事で、魔法を放出する事が可能。

 感情を上乗せする事で魔力を上げる。
 自分の気に入ったアクセサリーを身に着ける事で、より感情を昂ぶらせる事が出来ると気付いたのだとフィデリーテが説明してくれた。
 ヴェーニィであるカーニャが、フィデリーテの魔法に驚いていたのはこれが原因だろう。
 その秘術を全て俺に打ち明けた上で、自分の拠り所であるアクセサリーを外して見せる事で俺への忠誠心を示したいのだろう。
 俺はカーニャに命じ、全て取り外させて保管させておく事にした。
 負かした相手の身に着けていた物などいらない。
 本当に俺に刃向かわないか確信が持てた後で、本人に返そう。


「そう言えば、ご主人様。
 質問させて頂いてよろしいでしょうか」

 帰り道、五千人の兵と共に帰還している最中。
 皆は野営、俺と姉上は小さな集落にある建物で宿泊する。
 それ専用という訳ではなく、普段は集会所として使用されている建物で、維持管理用にちゃんと費用を支払っている。

「何だ、いちいち確認せずとも気になる事があるなら聞け」

 質問して良いですか。
 良いよ。
 このやり取りが面倒だ。
 本来であればカーニャの方が正解なのだろうが、この寝室には俺とポーシェとカーニャしかいない。
 寝る前くらい気を抜きたいじゃないか。

「ご主人様は私の傷を一瞬で治して下さいました。
 あれは、一体何なのですか?」

 おっと、そんな事してたな。
 しちゃったな。『痛いの痛いの飛んでいけ~♪』ってやっちゃったな。
 戦場の空気にあてられちゃってやっちゃったわ。
 気になるのは分かるが、これこれこうでこうだからこう、と説明出来るものではないのだが……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

魔物を駆逐せよ!と言われたけどムカついたので忘れてしまいました。

無職無能の自由人
ファンタジー
使命を忘れた最強の生命体。彼は馬鹿だった。 ふと前世を思い出した俺!ただし詳細不明! 何か忘れちゃいけない大事な事があったような無かったような気がするが忘れた! よくわからないから適当に生きるぜ! どうやら思い出した力が引き継がれるようで?おや?この尻尾は?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ

もぐすけ
ファンタジー
 シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。  あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。  テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...