78 / 122
能ある鷹も爪を隠さない世界
しおりを挟む
姉上より、今後の展開についての俺の考えを問われたので、頭の中で状況をもう一度整理する。
エテピシェ伯爵家の馬鹿息子、そしてヴォワザン子爵家次期当主であるカーニャの姉。
この二人は今回の戦の当事者で、身柄は前回のポーシェ同様縛り上げて拘束済み。
伯爵家と子爵家への強力な手札となる。
その上でどうするか……。
「失礼致します!」
陣幕の中へ息を上げた様子の武官が入って来た。
急用だろうか、発言を許可する。
「ご報告致します!
開戦前に帝国の人間と思われる兵を見掛けたのですが、現在捕らえている者の中にその姿が確認出来ません。
恐らく戦況が悪いと判断し、戦線離脱したのだと考えます」
「それはマズイな、すぐに近辺を捜索しろ。
発見次第拘束、こちらへ連れて参れ」
「はっ!」
武官へ指示を出し、姉上へ向き直る。
「恐らくサルトスクロ子爵家の手の者でしょう。
我らに書状を出した手前、こちらがどう動くか確認をしたかったのではないでしょうか」
我がモナルキア王国とアンピライヒ帝国では、兵が身に着ける防具や武器の意匠を分けている。
どの国に所属するどこどこの貴族家の兵だ、と見分ける為だ。
名乗り、口上をしてから戦が始まる事から分かる通り、この世界の戦は自己主張が激しい。
それは、誰と誰がどんな理由で戦っていて、どのようにして勝ったが、が重要である為だ。
勝ったか負けたかよりも、何でそうなったの? の方が比重が大きいのだ。
もちろんユニオーヌ連合独自の意匠もある。
戦に勝って敵の防具と武器を剥ぎ取った後、金属であれば溶かすし皮であれば意匠を剥がして再利用する。
「何故後を追わせたのだ?」
姉上が俺へ問い掛ける。
何故と聞くほどおかしな対応だったろうか。
帝国兵は俺の歌を見ている可能性が高く、情報を持ち帰られると厄介だと判断したからなのだが。
「戦を見られていたでしょうから、帰って報告されるのはマズイかと」
「見られて困る事などあるものか。
アルティはよく戦った。
誇り、知らしめるべきだ」
確かにそうだ。
歌というものは、この世界では一般的ではない。
人から伝え聞き、真似が出来るとは思えないが、しかし絶対に無理だとも思わない。
それに、俺の魔法に危機感を覚えた場合、帝国が一丸となって我らを滅ぼそうとしてくる可能性もある。
そうだ、この世界では能ある鷹は爪を隠すという概念があまり見掛けない。
サルトスクロ子爵家の兵も、堂々と身元が分かる格好で戦場に来ていた。
やっている事は情報収集だが、密偵とか間者、間諜などいわゆるスパイ活動には本格的に力を入れていないのではないだろうか。
これは一考の余地がありそうだ。
何よりワクワクする。
忍者部隊を作ろう。
うわ、滅茶苦茶楽しくなって来た。
「お坊ちゃま……?」
おっと、また感情が漏れていたか? 気を付けないと。
忍者についてはまた改めて考えるとして。
間者ならばすぐに作れる。
いや、仕立て上げられる。
帝国に対する監視体制を構築しよう。
まずはその第一歩だな。
「姉上、ヴォワザン子爵家次期当主の扱いについての考えをお聞き下さい」
「うむ、聞こう」
エテピシェ伯爵家の馬鹿息子、そしてヴォワザン子爵家次期当主であるカーニャの姉。
この二人は今回の戦の当事者で、身柄は前回のポーシェ同様縛り上げて拘束済み。
伯爵家と子爵家への強力な手札となる。
その上でどうするか……。
「失礼致します!」
陣幕の中へ息を上げた様子の武官が入って来た。
急用だろうか、発言を許可する。
「ご報告致します!
開戦前に帝国の人間と思われる兵を見掛けたのですが、現在捕らえている者の中にその姿が確認出来ません。
恐らく戦況が悪いと判断し、戦線離脱したのだと考えます」
「それはマズイな、すぐに近辺を捜索しろ。
発見次第拘束、こちらへ連れて参れ」
「はっ!」
武官へ指示を出し、姉上へ向き直る。
「恐らくサルトスクロ子爵家の手の者でしょう。
我らに書状を出した手前、こちらがどう動くか確認をしたかったのではないでしょうか」
我がモナルキア王国とアンピライヒ帝国では、兵が身に着ける防具や武器の意匠を分けている。
どの国に所属するどこどこの貴族家の兵だ、と見分ける為だ。
名乗り、口上をしてから戦が始まる事から分かる通り、この世界の戦は自己主張が激しい。
それは、誰と誰がどんな理由で戦っていて、どのようにして勝ったが、が重要である為だ。
勝ったか負けたかよりも、何でそうなったの? の方が比重が大きいのだ。
もちろんユニオーヌ連合独自の意匠もある。
戦に勝って敵の防具と武器を剥ぎ取った後、金属であれば溶かすし皮であれば意匠を剥がして再利用する。
「何故後を追わせたのだ?」
姉上が俺へ問い掛ける。
何故と聞くほどおかしな対応だったろうか。
帝国兵は俺の歌を見ている可能性が高く、情報を持ち帰られると厄介だと判断したからなのだが。
「戦を見られていたでしょうから、帰って報告されるのはマズイかと」
「見られて困る事などあるものか。
アルティはよく戦った。
誇り、知らしめるべきだ」
確かにそうだ。
歌というものは、この世界では一般的ではない。
人から伝え聞き、真似が出来るとは思えないが、しかし絶対に無理だとも思わない。
それに、俺の魔法に危機感を覚えた場合、帝国が一丸となって我らを滅ぼそうとしてくる可能性もある。
そうだ、この世界では能ある鷹は爪を隠すという概念があまり見掛けない。
サルトスクロ子爵家の兵も、堂々と身元が分かる格好で戦場に来ていた。
やっている事は情報収集だが、密偵とか間者、間諜などいわゆるスパイ活動には本格的に力を入れていないのではないだろうか。
これは一考の余地がありそうだ。
何よりワクワクする。
忍者部隊を作ろう。
うわ、滅茶苦茶楽しくなって来た。
「お坊ちゃま……?」
おっと、また感情が漏れていたか? 気を付けないと。
忍者についてはまた改めて考えるとして。
間者ならばすぐに作れる。
いや、仕立て上げられる。
帝国に対する監視体制を構築しよう。
まずはその第一歩だな。
「姉上、ヴォワザン子爵家次期当主の扱いについての考えをお聞き下さい」
「うむ、聞こう」
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる