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姉上は次期当主として問い掛ける

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 じっと姉上の話を聞いているが、なかなか姉上の話が終わらない。
 それだけでなく、動揺しているからか感情がだだ漏れだ。
 俺は問題ないにしても、姉上付きの武官が慌てている。
 そろそろ止めた方が姉上の為だろう。

「姉上、落ち着いて下さい。
 皆が心配しております」

「落ち着いてなどいられるものか!!
 五千人を一度の魔法で全滅させるなど私には……」

 なおも声を荒げる姉上の手を取り、癒しの魔法を放つ。
 じっと目を見つめて、ゆっくりと話し掛ける。

「姉上、先行して軍を率いて下さったからお疲れなのでしょう。
 簡易ベッドを使われますか?」

 もちろん本当に横になるとは思っていない。
 今の自分の状態を再確認させる為、あえてこういう言い方を選んでしている。

 いくら姉弟とはいえ、姉ちゃんうるせぇよ!
 ちょっとは静かにしろよ!!
 なんて言ってしまうのはマズイ。
 彼女には次期当主としての立場があり、そしてこの場には俺達以外の人目がある。

「……すまない、取り乱した」

「いえ、先の戦でもあのような形で五百人規模の軍勢を全滅させましたが、詳細な内容は報告していない事が後で判明しました。
 こちらの報告不足で……」

 あえて詳しい報告をしない方が良い、と俺の侍女であるポーシェが判断したのだ。

「いや、謝る必要はない。
 報告を上げたのはポーシェだが、恐らく事実をそのまま伝えられても私は理解出来なかっただろう。
 百聞は一見に如かず、というヤツだ。
 余計な混乱を招かぬようにという心遣いだ。
 侍女として正しい判断であったと、次期当主として明言しておこう」

 そばで控えていたポーシェが姉上へ頭を下げる。
 捉え方次第ではポーシェの報告不十分という事で責任問題になる可能性もあった。

 しかし姉上の反応を見る限り、歌って敵を殲滅したと報告してもそのままを受け取らなかった可能性が高い。
 ポーシェの判断は間違っていなかった。
 実際に目の当たりにしたならば、信じざるを得ない。
 そして次期当主からの報告であれば、当主である母上だけでなく家中の者達も信じるだろう。多分。

 ちなみに家中の者、と表現する際は家族以外の血縁者を含む。
 分家であったり隠居したご老体であったり。
 先代当主である祖母は俺が戦場に立ったなどと聞けば激怒するだろうな。
 怖い怖い。

「母上には私から見た事をそのまま報告するとして、この場をどう収めるかを先に決めんとな。
 今回の指揮はアルティがしたのだ、考えがあるだろう。
 聞かせてくれ」

 この落とし前をどう付けるか、か。
 そんな事は考えていなかったな。
 何も考えずに敵を蹴散らしてしまった。
 これでは俺に対する感情だけで三千人規模の軍勢を引き連れてやって来た、あの馬鹿息子と同じであるという事になってしまう。
 それは嫌だ、何としても避けたい。
 とりあえず敵方の指揮官級の武官達は捕らえるよう指示を出したし、後はそいつらをどう扱うか、となるな。
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