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お坊ちゃまは掻き乱す

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 馬鹿息子の詳しい年齢は窺い知れないが、未婚である事から二十歳にはなっていないだろう。
 煌びやかなロングコートを羽織っており、戦支度をしていないように見える。
 鎧を着ていないという事は、戦う気などなかったという事か。
 先ほどの不意打ちで、この戦の全てが終わるという算段だったのだろう。

 考えが甘い。非常に甘い。
 そして行動が遅い、実に遅い。
 こういうのは後手に回れば手遅れなのだ。
 すでに俺が魔法に乗せて植え付けた猜疑心はそれぞれの兵達の心の中ですくすくと育っている。
 名乗りも上げず、口上も述べずに不意打ちで騎馬隊を仕掛けて来た。
 ということは、自軍の魔法耐性を上げていなかったという事。
 奇襲を優先するあまり、防御を整えていなかったのだ。
 そんな敵方の輪を乱すなど、俺にとっては造作もない事だ。

「見よ、貴様らの指揮官を!
 鎧すら身に着けておらぬ。
 戦いを全て兵に任せ、負けるとなれば一目散に逃げられるよう身軽な格好を選んだのだ!
 このような無責任な大将など引き摺り下ろしてしまえ!!」

「「「「「そうだーそうだー、引き摺り下ろせぇ~~~!!」」」」」

 違うなどか無礼だとか顔を真っ赤にして叫んでいるが、こちらの兵達が俺の言葉に合わせて呼応して馬鹿息子の声を掻き消す。

「そやつの目的は、我が辺境伯領へ攻め込んで来たこの婚約者を亡き者にする事!
 私はヴォワザン子爵家の兵を全滅させ、この女を捕虜として自領へ連れ帰った。
 その男は自分の女を取られるくらいならばと、あろう事かユニオーヌ全域から兵を集めてこの女を殺しにに来たのだ!
 軟弱で軽薄で実に身勝手!
 矮小なのはお前の方だー!!」

「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~!!」」」」」

 足踏みをし、剣や槍を地面に打ち付けて音を鳴らす兵達。
 バスドラムもスネアドラムも感情の赴くまま叩きまくっている。

「黙れ~~~!!
 この高貴なる我が身が矮小など、よく言ってくれたな!!
 到底許せぬ、生かして帰さぬぞ。
 死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇ!!」

 髪の毛を振り乱し、両手をこちらへ向けて呪詛のような魔法を放って来る。
 俺には全くと言っていいほど効き目がないが、俺の腕を取るカーニャが身を縮めたのが伝わって来た。

「あいつの階級は?」

「ルヴィドですが、かなりの威力です。
 ご主人様は平気なのですか?」

 第三階級か。
 それでもヴェーニィであるカーニャに影響を与えるほどの魔力を放っているようだ。
 それほど受けた屈辱を魔力に乗せているという事か。
 よほどお冠らしい。
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