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お坊ちゃまは郷に従う
しおりを挟む「敵方に大義なし!」
俺は自軍の兵士達に聞かせるように声を上げた。
兵士達が俺の声に答えるかのように腕を上げる。
向こうが不意打ちをして来たからといって、こちらも戦における約束事を破って良いかと問われると、否と言わざるを得ない。
俺個人としてはさっと行ってパッとやってドンで終わりたいところなんだけど、何分味方の士気に関わる。
正義は我にあり、と胸を張って戦ってもらった方が良い。
兵士達への魔法の掛かりが違う。
この世界にはこの世界独自のルールというものが存在する。
俺もこの世界に生まれ変わった以上、そのルールに従わなければならない。
さて、敵方が犯した約束事。
まず一つめ、名乗りを上げなかった。
未だにこちらは相手の指揮官、総大将が誰なのか把握していない。
鎧の形状や色、顔ぶれなどを見れば分かるものだが、まずは出会ったら挨拶をするものなのだ。
そういう決まりなので、挨拶なく戦を始めたらダメ。
ボクシングの試合だってゴングがなったらまずお互いの拳を合わせる。
そういうルールはなくてもそう決まっている。
そして二つ目、戦の目的を述べる口上を行っていない。
何故自分達は戦うのか。
大義名分は何なのか。
今回においては、敵方の大義は捕らえれたヴォワザン子爵家の令嬢を取り戻す事。
それが自業自得の事であっても、一応言い分としては成立する。
敵方の口上を受け、こちら側がその言い分は間違っているぞーと言い返す。
これで双方の見解が改めて相違する事を確認。
そして武力衝突になる。
戦の始まりだ。
そして三つ目、弓矢を使った。
この世界では極力戦死者を出さないよう努めている。
絶対ではないからほぼ毎回出るんだけど、それは殺されてしまったのではなく結果的に死んでしまった、という傾向が強い。事故死に限りなく近い。
だから、戦において弓矢を使わないのがこの世界の約束事。
投石もしないし、村々を回って火を付けて行ったりもしない。
それらは野蛮な行為と言われ、忌避されている。
さて、こちらの兵達の動揺は収まった。
カーニャもそれほど傷が深い訳ではない。
カーニャの姉もカーニャの説得により抵抗を止め、大人しくしている。
それではようやく、戦を始めるとしよう。
敵方に見せつけるよう、ゆっくりと櫓を用意させる。
打楽器隊にはよくよく魔法を掛けておいたので、もう先ほどのような取り乱し方はしないだろう。
俺はすっと右手を挙げ、そして勢いよく下げて合図を送った。
さて、それでは始めようか。
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