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お坊ちゃま、激怒する

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 俺の問い掛けに対し、何も答えようとしないカーニャの姉。
 無理矢理にでも吐かせられるかもしれないが、戦が始まった今の状況を思えば、さして重要ではない。
 ヴォワザン子爵家の事情など聞くまでもなく、全て殲滅してしまえば良い。
 しかし、ポーシェがカーニャという子犬を拾ってしまった以上、皆殺しにしてしまうのは寝覚めが悪いというものだ。

「姉様、ご主人様の問いにお答え下さい」

 手当を受けたカーニャが戻って来た。
 左肩に包帯を巻かれ、三角巾で腕を吊っている。

「ご主人様だと?
 この男に抱かれて心を奪われたか!?」

 えーっと、今はその話よくね?
 ややこしいからさ、後にしてくれないかな。
 そして抱いてないから。
 勝手に俺を主人認定してるだけだから。
 勝手に尻尾を振ってキャインキャインと懐いて来ているだけだから。

「姉様も今に分かります。
 ご主人様には何人たりとも敵いません。
 非常に素晴らしいお方です。
 そんなお方が率いるシュライエン辺境伯家を敵に回してしまったのです。
 このままではユニオーヌの軍勢は全滅します。
 せめてヴォワザン子爵家だけでも降伏を」

 敵に回してしまった時の指揮官はお前だけどな。

「そんな事が出来るものか!
 母上の命に背き派兵したのだ。
 お前を助ける為に来たのだ!!
 今さら伯爵家の指揮から外れるなど……」

 なるほど、カーニャの姉が抱えている事情が分かった。
 当主と次期当主とで意見が対立している状況で、この女が母親の命令を無視して兵を連れて来たという事か。
 それならば書状の内容と軍の行動が違うのは当然か。
 妹を想う気持ちについては、俺にも理解出来るものだ。

「では質問を変える。
 何故カーニャは弓で狙われた?」

 この程度なら答えられるだろう。
 すでに失敗した作戦の、その目的を聞いているだけなのだから。
 作戦内容を知られたところですでに意味はなくなっている。
 知りたいのは相手の思惑だけ。

「……敵の手に落ちた物などいらぬと」

 ふーーーん、なるほどねーーー。
 無傷で返せだ、戦場へ連れて来いと言っておきながらそれか。
 随分と身勝手な話だ。
 馬鹿息子は自分の婚約者を助け出しに来たのではなく、自分の物ではなくなった物を壊しに来た訳だ。
 最初から狙いはカーニャではなく、自分の物を取った俺への復讐であると。
 何ともまぁ馬鹿らしいというか、腹立たしいというか、不愉快だというか。
 お前の婚約者だった女だというのに。
 自分の面子の為に殺すというのか。

 久々に、イライラが止められそうにない。
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