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お坊ちゃま、迫り来る軍勢と衝突する

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 ニタニタと嫌らしい表情を浮かべた兵士達が迫って来る。

「お坊ちゃまー、あーそーぼー!」
「私が一番だ!」
「あぁ楽しみ過ぎて涎が止まらねぇーわー!」
「優しくしてやるよ、出来るだけなぁー!」
「しゃぶり尽くしてやるぜ!」

 騎馬隊から欲望や劣情が乗った魔法が飛んで来る。
 俺を引っ張ろうとする武官に俺ではなく打楽器隊を下げるよう指示を出す。
 彼らはすっかり魔法にあてられて、立っているのが精一杯だ。
 陣列から前進して来た弓矢隊が弓を引き絞り、俺ではなくカーニャ達目掛けて矢を放った。
 やはり狙いはそちらか! 間に合え!!

『ふざけんなクソがーーー!!』

 飛来する数十本の矢へ向けてあらん限りの憎悪を放つ。
 大部分が砕け散るか軌道が逸れるかしたが、数本がそのままの勢いでカーニャとポーシェへ向かう。
 ポーシェは携えていた剣で矢を打ち払ったが、カーニャは肩に受けてしまった。
 突き刺さったのか、大きく体勢を崩しているのが見える。

「なぁ、何かマズい感じしない?」
「馬が言う事聞かないんだけど!?」
「え、何? 今何が起こったの!?」
「どうする、このまま指示通り突っ込む?」
「一旦引いた方が良さそうな気がする」

 こちらまで後少し、という距離で騎馬隊の進行が止まった。
 馬が俺の放った魔法に怯え、制御が効かなくなった模様。
 こちらの兵達が卑怯者、臆病者、礼儀知らず、恥知らず、外道等々思い付く限りの罵声を浴びせ掛ける。
 もちろんその罵声にも魔力は込められており、さらに馬が怯えてあらぬ方向へ駆け出して騎馬隊は散り散りになって行った。
 これでしばらくは時間が稼げるか。

「今のうちにカーニャの手当を。
 それと落馬したカーニャの姉を捕らえろ」

「はっ!」

 武官に次々と指示を出している間にポーシェが戻って来た。
 カーニャのその姉の間でどのような会話が行われたのか報告を受ける。

「カーニャの姉は無理矢理カーニャを連れ戻そうとし、本人の激しい抵抗を受けて落馬しました。
 死にたくなければ戻れとカーニャに怒鳴っておりましたので、恐らくあの女はカーニャが戻らないのであれば矢が放たれると知っていたのでしょう」

「離せ! 私と妹を開放しろ!!」

 拘束されたカーニャの姉が連れられて来た。
 地面に顔を擦り付けられても抵抗するのを止めず、何とか抜け出そうと試みている。

「おい、女。
 そのままで良いから聞け。
 ヴォワザン子爵家から停戦申し込みの書状が届いた。
 しかし何故伯爵家の特使が持って来た?」

 何も答えないカーニャの姉。
 騎馬隊を追い返して時間を稼いだとはいえ、余裕がある訳ではない。
 多少強引にでも吐かせるべきか?
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