上 下
63 / 122

お坊ちゃまは兵士達を鼓舞する

しおりを挟む
 どうせ後で陣列を組んだ兵達へ魔法を掛けるのだ。
 ついでだからこの場で兵の日によく聞かせる歌を歌おうか。
 馬に跨り、休憩している兵達の周りを歌いながら進む。

「共に立ち上がれ 故郷の為に
 我らは家族 母を 父を 子供を守れ
 力を尽くせ 明日の為に
 我らは家族 母を 父を 子供を守れ
 敵を打ち払い 共に笑おう
 我らは家族 母を 父を 子供を守れ」

「若様よ!」
「あぁ、私達の為に駆け付けて下さったのだわ!」
「疲れが吹き飛んだ!」
「あぁ、尊い……」
「死んでもいいわ!」

 この歌は割と以前から歌っている歌で、兵士のほとんどが聞いた事があるはずだ。
 しかし、この世界の人間は、聞いた事があるから一緒に歌おう、という事をしない。
 否、出来ない。
 リズム感の問題や、音程の問題だけでなく、自分も俺と同じように歌えるのだ、という根本的な意識が欠落しているような気がする。
 与えられるもので、自らが与えるものではない、的な感じか。
 上手く言葉には出来ないが。

 何にしても、こんな簡単な歌詞でも喜んでもらえるんだから楽でいい。
 あくまでこの歌詞はこの世界の平民にも理解出来るよう簡単なものにしてあるのであって、俺の作詞能力が著しく低い訳ではない。
 決して。

 歌いながら先頭、姉上のところまで行く。

「兵達の士気が高まっているな、さすがはアルティの歌だ!」

「ありがとうございます、姉上」

 姉上にも歌の有用性を示せたので、この戦にも意義があったという事になる。

「兵達も十分に身体が休まっただろう、そろそろ決戦の地へ向かうとしようか」

 姉上の指揮で、行軍を再開する。
 今まで自軍の兵士を労う歌を敵兵に聞かせた時の効果を調べるといったような実証実験をした事がないので、判断が付かない。
 初陣でのカーニャ達敵兵の反応を見る限り、歌による攻撃性魔法は強力であると言えるが。
 後は実証を積み重ねる事で、戦での歌の有用性を母上に証明するとしよう。

「これが歌の力ですか、不思議な感覚です……」

 カーニャが俺の歌で効果を実感するという事は、表面上のみならず心底俺の侍女であるという自覚を持っているという事、なのだろうか。
 敵方であるという意識があれば、共に立ち上がれという歌詞に共感は出来ない。
 従って魔法的効果も発動しない、と思う。

 この先でユニオーヌ連合の者達と相対する。
 その時になれば、自ずとカーニャの本心が見えるだろう。
 実家、そして婚約者の側へ戻り、再び俺につま先をしゃぶれば許すとのたまうか、それとも婚約者の前に立ちはだかるか。

 実に興味深い。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

処理中です...