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妹は何故歌わなかったのか

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「先の戦でご主人様が名乗りを上げられた際、魔法による強力な圧力を感じました。
 それはエティー様よりも強いものでした。
 恐怖を感じ、腰が引けてしまった自覚があります。
 そして歌による攻撃。
 後からこうしてその時の事をお伺いしているからこそ分かりますが、あの時私は何の抵抗も出来ず一瞬で意識を失ったのだと思います。
 気が付いた時には拘束されており、何が起きたのか全く理解出来ませんでした」

 エティーの通常方法による魔法、それよりも強力である俺の通常方法による魔法。
 そしてそれとも比べ物にならないくらいの威力である俺の歌声による魔法という事になるか。

「しかしエティーは何故戦場で歌わなかったんだ?
 俺が街へ凱旋した際、早く帰って来いと歌っていただろう」

 街中を巻き込んだ上で俺へ怒りの感情をぶつけて来たよな。
 寄り道してないで早く帰って来なさいと。

「あれは攻撃魔法ではなく、ただ単純に怒っている事をお伝えされただけです。
 その感情を持って何かを害しようという意思がないからこそ、被害がなかったのではないでしょうか」

 ポーシェがあの時のエティーの心情を解説してくれる。
 なるほど、害する意思があれば攻撃魔法。
 なければ感情の乗った魔力の放出。
 しかしその感情にあてられて具合が悪くなった者もいるはずだ。
 被害が全くない訳ではない事を補足しておく。

「さらに、お嬢様が戦場で歌わない理由と致しましては、やはり歌っている際の魔力の制御が難しいからだと思われます。
 お隣にお坊ちゃまがおられ、補助をされておれば問題ないかと思いますが、お一人で、ましてや戦場でとなると、味方への誤爆や大きな暴発を懸念されるのは当然かと」

 んー、エティーでもまだ難しいと感じているのか。
 生まれてすぐから俺が手ずから教えているエティーでさえそうなのであれば、俺が歌っているのを真似てすぐに使いこなせるようになる魔法使いもそうそう出て来ないという事かな。

 ちなみにポーシェは音痴だ。
 いくら俺が教えても上達しない。
 どうにもならないから諦めている。
 ポーシェが歌で魔法を放てば、エティーにも負けない魔法使いになると思うんだけどなぁ。

「あの、ご主人様。
 もし差し障りがないのでしたら攻撃的ではない歌というものをお聞かせ願えないでしょうか?」

「カーニャ、身の程を弁えなさい」

 カーニャがポーシェへ叱られた。
 主である俺に頼み事をする、というのがダメだったようだ。
 別に俺はカーニャにもポーシェにも、絶対服従を求めている訳ではない。
 俺の命令には絶対に従え、俺に指図するな、などと言う事はない。
 歌を聞かせてほしいというのなら、歌ってみせるなんて何でもない事だ。 

「ほう、歌に興味があるか」

 ならば聞かせてやろう。
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