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お坊ちゃまは兵士を気遣う

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 えーっと、そんなに考える為の時間なんて必要ないんだよな。
 俺が行くか行かないか悩む時間より、俺が連れて行く兵士達の移動時間を気にすべきじゃないか?
 俺や武官は馬に騎乗して向かうからいいけど、兵士達全員が騎乗する訳じゃない。
 戦場へは歩いて向かうのだ。

「そうそう、アヴィがアルティの兵達を先に連れて行っているからね。
 もしアルティが出陣すると決めたなら、こちらで待機している武官数名を連れて馬で行けばいいから」

「昨日帰還したばかりの兵達をまた戦場へ連れて行ったのですか?」

「そうです。
 アルティの魔法だけで勝った戦でしたから、兵達は戦闘していません。
 疲労も負傷もないのですから問題ないでしょう?」

 あら、この子ったら何か気に障ったのかしら? とでも言いたげな母上。

 いや、別にあの五百名の兵士達は俺の直属の部下じゃないから、いちいち俺に確認なく動かしてもらって結構だ。
 しかし、三日掛けて戦場へ行き、また三日掛けて街へ帰って来たばかりでまた同じ往復をしろって、とてもキツイと思うんだけどな、肉体的にも精神的にも。
 下々の者に対してのそういった細やかな気遣いというものを考えないんだよな、上に立つ人達って。
 ほら歩け、ほら戦え、はいご苦労。
 それじゃいつか人は離れて行くと思うよ。

 何にしても、先に戦場へ向かったのならすぐに向かおう。
 そして、また俺の魔法で敵を全滅させてやればすぐに帰してやれる。

「分かりました。それでしたら今から姉上を追いかけます。
 すぐに出立の準備を……」

「ちょっと待て、アルティ。
 結論を急ぐ必要はない、よーくよーく考えてから行動すれば良いのだ」

 父上から待ったがかかった。
 行かせたいのか行かせたくないのかどっちかにしてくれませんかねぇ。

「そうよ、アヴィが戦場へ出て来たと知ったらユニオーヌ側も恐れをなして引き返すかもしれないし」

 母上までも。
 実戦経験が少ないエティーではなく、すでに周囲の領主達から恐れられている姉上を向かわせたのはその狙いもあるのか。

「姉上を見て引き返すのであれば、私が着いた頃には敵がいなくなっているという事ですよね?」

「いや、それとこれとは話が違う。
 お前が戦場へ向かったという事実は大事だ。
 そしてだな、その……」

 また何か言いにくい事を言いたいけどなかなか言えない、みたいな雰囲気の父上。
 はっきり言ってくれないと分からない。
 言葉の奥にある想いを汲み取って相手へ声を掛ける、みたいな芸当は俺には出来ない。

 母上も父上も、一体何を言おうとしているんだ?
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