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お坊ちゃまは何とか理解しようとしている

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 あっちの馬鹿息子が俺に対して喧嘩を売っているのは間違いない。
 父上が憂慮しているのは何だ?
 子供の喧嘩に親が出るべきかどうか迷っているのか? 

 いや、ちょっと待て。
 カーニャの即時解放と軍勢を伴って迎えに行くという内容は、馬鹿息子の書状にしか記されていない。
 ヴォワザン子爵からの書状にも、サルトスクロ子爵からの書状にも書かれていない。

「もちろんこの書状の内容はエテピシェ伯爵も目を通している事だろう。
 もしかするとこの内容を読んだからこそサルトスクロ子爵を頼った、という順番かもしれない」 

 馬鹿息子が怒りに任せて書いた俺への宣戦布告の書状を、親であるエテピシェ伯爵は目を通した上でこちらに寄越して来た。
 つまり、これは子供同士の喧嘩ではなく家対家の問題、戦争だな。
 うん、戦争。
 考えるのが面倒だから戦争で良いよ。

「もっとも、サルトスクロ子爵も明確にこうしろという内容は書いていない訳だが」

 帝国の子爵が何を言おうが知らないが、カーニャの実家からの書状についての対応はどうするつもりなのだろうか。
 ヴォワザン子爵は書状を通じて正式に停戦の申し込みをして来た。
 娘を返してほしいから賠償金を支払う準備はあるとも記している。

「当事者であるヴォワザン子爵家はどう動くでしょうか」

 ヴォワザン子爵が停戦へ向けて動くのが遅かったのが原因でこんなにややこしい状況になったんじゃないかとも思えて来た。
 そもそも向こうから手を出して来たのを返り討ちにしただけ。
 この程度の小競り合いなんてしょっちゅうあるものなのだから、もし万が一娘が捕虜として捕らえられたらどう動くべきか、考えておくべきだったはずだ。
 指揮官だからといって殺す訳ではない。
 金か領土か、シュライエン辺境伯家とヴォワザン子爵家、両家の折り合いが付けばすぐに終わる話だ。
 伯爵家の馬鹿息子がしゃしゃり出て来る前に対応していれば、カーニャをすぐに取り戻せただろうに。

「ヴォワザン子爵家は動かなかったのではなく、動けなかったんだろう。
 伯爵家の息子の耳に入るのが早かったのだろうと思うんだ。
 親として娘の事を思い、結婚して家から出る前にひと手柄挙げて来なさいと国境へ送り出したら捕虜として捕らえられた。
 エテピシェ伯爵の息子という婚約者がいて、伯爵家分家の次期当主が内定しているのにも関わらず、だ。
 普通だったらそんなケチが付いた娘、切り捨てられるよね。
 後はエテピシェ伯爵に謝って何とか許してもらえるよう誠意を見せるしかない」

 切り捨てられるのか。
 男と女が逆として考えるのならば、義兄上のお話も何となくではあるが理解出来た。
 
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