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お坊ちゃまは狼狽える

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「跪いていた理由は、戦でお坊ちゃまがそう仰ったからですね?」

「その通りでございます」

 え、そういう事だったの?
 そういうノリだったのか、ちょっとしたジョーク?
 分からなかったなー。

「家を捨てた、お坊ちゃまの所有物である、と言ったのは、身も心もお坊ちゃまに捧げたいという気持ちから、お坊ちゃまの許しも得ず先走ってしまったという事ですね?」

「その通りでございます。
 面目次第もございません」

 ちょーっとそのノリはどうかと思うなー。
 さすがにやり過ぎじゃない?
 もうだいたい分かったからさ、もう終わろうぜ。
 僕疲れちったなー。

「実家の屋敷どころか、二度とユニオーヌの地を踏む事はなくなっても良いのですか?
 両親は、兄弟は、婚約者は、そして伯爵家の分家当主になるという話は。
 全て捨てても良いという覚悟は出来ているのですか?」

「覚悟は済み、すでに過去は全て捨て去っております。
 今はただのカーニャでございます」

 話をしているうちに苦しそうな表情をしていたカーニャが先ほどのらんらんとした瞳を見せるまでに回復した。
 ポーシェとの会話中も、カーニャは俺から目を逸らさない。

 ちょっとポーシェ、勝手に話を進めないでくれるか!?
 くそっ、こんな事になるならポーシェの言葉は俺の言葉だと思えなんて言わなければ良かった!!
 うっすらと背中が寒くなるのは何でなんだろうか!?
 カーニャの魔法は俺には効かないはずなんだけど、これは動物的な防衛本能かってヤツ?

「どうされますか?」

 ちょっと待ってよポーシェさん。
 ここまで話を勝手に進めておいて、はいこれから先はお坊ちゃまが決めて下さいねって無茶振りじゃない?
 俺にだけ聞こえるように耳打ちで、っていう配慮はありがたいけど、この話の流れだったらだいたい何言ってんのか想像出来るってば。
 ほらカーニャが俺の方を何て答えるんだろうってめちゃくちゃ食いついて見て来んじゃん。
 魔法以上に圧を感じてるんだが。

 うちは猫を飼ってるから、犬は飼えないんだよねぇ、めんごめんごー。
 って言ったらどんな顔するかな。
 言ってみたいな。

 ヤバイ、犬が期待する顔見せるから俺の中に秘められていたSっ気が沸き上がって来た。
 ダメだ、ここで変なスイッチを入れてしまうと俺が今まで歩んで来た平穏な貴族生活が崩れてしまうかもしれない。

「準備させましょうか?」

 所長、入って来ないで。
 今そんな話してないから。
 ほらカーニャが何か勘付いたような顔してる!
 また喜びの感情垂れ流し始めた!!
 って何で喜んでんの? おかしくね?
 何か怖い、耐えろ。
 落ち着け、決して感情を漏らすな俺。

「何なりとお命じ下さい!!」
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