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お坊ちゃまはビビっている

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 このままではまともに会話が出来ない。
 とりあえず椅子に座らせるべきか。
 おもてを上げよ、が先か?

「お坊ちゃま、先に名乗らせてはいかがでしょうか」

 そう言えばこいつから直接名前を聞いてなかったな。
 もう知ってるけど、一応本人から聞いておくか。

「名乗れ」

「申し遅れまして大変失礼致しました。
 私はカーニャと申します。
 アルティスラ様へご挨拶させて頂く事が出来て、恐悦至極に存じます」

 やっぱりこいつ変だよな。
 何故か名前しか名乗らない。
 家名はどうした?
 それに喜びの感情がドバドバ流れ出ている。
 垂れ流されて来る。
 室内の職員達も、カーニャの魔力自体に脅威はないと理解はしたようだが、だからといってこのままにしておいて良いのかどうか対応に困っているみたいだ。

「カーニャ、お坊ちゃまは名乗れと申されました。
 家名と階級を含め、貴族として名乗りなさい」

 ポーシェがカーニャへ向けて声を掛ける。
 所長を含め職員達は動揺しているのに、ポーシェはいつも通り冷静で無表情。
 口調も決して厳しいものではない。
 しかしカーニャは何も答えず、じっと膝を付いたまま動かない。
 見ていて正直痛々しいな、椅子に座らせよう。

「椅子に座ってもう一度家名を含めて名乗れ」

 スッと立ち上がり、右手で胸元を押さえ、左手は腰に添えて腰から上半身を前に屈める仕草。
 貴族社交における最上級の礼をして見せるカーニャ。
 そうしてやっと、顔をまじまじと見る事が出来た。
 整った顔立ちでとても美人。
 俺から見ると女子高生の年齢だから、ちょっと気後れするな。

「改めまして、カーニャでございます。
 家は捨て、今はご主人様の物。
 アルティスラ様の所有物に階級など無意味かと思い、省かせて頂きました」

 すらすらすらっと喋り、カーニャは失礼致しますと断って椅子に座った。

 家を捨てた、俺の所有物に階級などない。
 こいつは何を言っているんだ?
 誰か尋問の時に自白剤みたいなヤバイ薬でも飲ませたのか?
 目がらんらんと輝かせ、鼻息も荒くなっている。
 まるで早くボールを投げてよってご主人様を見上げる犬のようだ。
 昨日義兄上が仰っていたのはこの事か?
 見た目は猫のように可愛く、中身は犬のようだと言われればそうかなぁという雰囲気。

 うーん、何となく滅茶苦茶面倒な事になっている気がする。
 ってか大丈夫か?
 ちょっと正常な精神状態には見えないんだが。
 所有物って何だよ、こえーよ。

 今からもしかしたらちょっとエッチで大人な展開になるのかも、なんて思ってたらどういう展開だよ!
 
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