上 下
11 / 122

妹は待っている

しおりを挟む
 一つ下に生まれた妹、エティーに対して、生まれた時から付きっきりで歌を聞かせたり、肩をトントンしてリズムを植え付けたりしていた結果、上手に歌えるように育った。
 それを見ていた上の姉達や母上もある程度歌えるようになったし、人種的に音痴でリズム感がないという訳ではないようだ。

 歌う事で感情が制御出来なくなるという難点は、俺が手を握って相手の魔力を抑制する事で払拭した。
 慣れれば一人で歌えるようになるのだ。
 ただ、この訓練方法は俺にしか指導出来ないという難点がある。
 しかしだからと言って困る事でもないんだけど。

 音楽というものに慣れ親しんだ記憶のある俺は、この世界において優位な魔法使いであるという事。
 訓練方法や指導方法は俺がいないと真似出来ないものだから、特にシュライエン辺境伯家の重大な機密という扱いはしていない。
 父上からは、俺が不特定多数にペラペラと話さなければ問題ないと言われている。
 むしろ父上からの指示で、うちと付き合いのある家へ指導したりしている。
 音楽を技術として秘匿するのではなく、公にする事で政治的や軍事的に優位に立てるそうな。
 うちと仲の良い王家や貴族家へは恩を売ってさらに繋がりを増し、そうでない勢力には牽制する事が出来る。
 技術を教えてほしいが為に擦り寄ろうと画策する家もあるとかないとか。
 そういう外交的な方針を決めるのは辺境伯家当主である母上ではなく、その伴侶である父上の仕事。
 シュライエン家だけでなくだいたい男性貴族がその役割を担っているので、俺も将来的には結婚相手の家の外交を任されるのだと思う。

 今までの流れでだいたい分かるだろうけど、貴族家の当主は女性。
 そしてそれを支えるのが男性。
 嫁ぐ、と漢字にすると女性が生まれた家を出て結婚相手の家に入るイメージだが、この世界では嫁ぐのは主に男だ。
 もちろん例外はあるが。

 俺にはまだ婚約者がいないので、どんな家に入る事になるかまだ分からない。
 一番上の姉はすでに結婚しており、次期当主としても指名されているので、男である俺がこの家に残る事はないと思う。
 二番目の姉はこの国の王子様と結婚し、王城で生活している。
 王家へ嫁いだ訳ではなく、住んでる場所が王城なだけ。
 王都議会へシュライエン家の代表として出席する議員のような役割だ。
 父上の指示の元、王家との折衝や外交的な仕事も任されている。
 俺の通う王立学院から王城はすぐの場所なので、割と頻繁に顔を合わせている。
 俺が王都へ戻れば、今回の戦について詳しく話を聞かせろと呼び出される事だろう。
 血の気が多いからな、リオ姉さんは。

 自分的には不完全燃焼だった戦を終え、三日かけてようやくロンタナの街へと帰って来れた。
 城門のさらに向こう、小高い丘に建つ我が家が見えてきた。
 その屋敷からひしひしと焦燥感の込められた魔力が感じられる。
 俺が跨っている馬がそわそわし出した。どうどうどう。

 妹よ、街の人達を巻き込むんじゃない。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一
ファンタジー
タイトル変更しました→旧タイトル 「デッドエンドキングダム ~十五歳の魔剣使いは辺境から異世界統一を目指します~」 前世の記憶を持って生まれたオスカーは国王の落とし子だった。父の死によって十五歳で北の辺境王国の統治者になったオスカーは、炎を操る魔剣、現代日本の記憶、そしてなぜか生まれながらに持っていた【千里眼】の能力を駆使し、魔物の森や有翼人の国などを攻略していく。国内では水車を利用した温泉システム、再現可能な前世の料理、温室による農業、畜産業の発展、透視能力で地下鉱脈を探したりして文明改革を進めていく。 軍を使って周辺国を併合して、大臣たちと国内を豊かにし、夜はメイド達とムフフな毎日。 しかし、大陸中央では至る所で戦争が起こり、戦火は北までゆっくりと、確実に伸びてきていた。加えて感染するとグールになってしまう魔物も至る所で発生し……!? 雷を操るツンデレ娘魔人、氷を操るクール系女魔人、古代文明の殺戮機械人(女)など、可愛いけど危険な仲間と共に、戦乱の世を駆け抜ける! 登場人物が多いので結構サクサク進みます。気軽に読んで頂ければ幸いです。

呪われ姫の絶唱

朝露ココア
ファンタジー
――呪われ姫には近づくな。 伯爵令嬢のエレオノーラは、他人を恐怖させてしまう呪いを持っている。 『呪われ姫』と呼ばれて恐れられる彼女は、屋敷の離れでひっそりと人目につかないように暮らしていた。 ある日、エレオノーラのもとに一人の客人が訪れる。 なぜか呪いが効かない公爵令息と出会い、エレオノーラは呪いを抑える方法を発見。 そして彼に導かれ、屋敷の外へ飛び出す。 自らの呪いを解明するため、エレオノーラは貴族が通う学園へと入学するのだった。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

処理中です...