4 / 122
お坊ちゃまと敵指揮官
しおりを挟む
本来このような戦の最前線に立つ事のない男達。
震えて当然。
怯えて当然。
しかしその恐怖を抑えて、俺と共に戦おうとしてくれている。
その覚悟に俺は、応えなければならない。
すっと右手を挙げ、そして勢い良く下げる。
タンタン♪ ダンダン! ダンダカダカダカダンダン!!
タンタン♪ ダンダン! ダンダカダカダカダンダン!!
スネアドラム風の太鼓のリズムに合わせて打楽器隊が行進、その後ろを俺の乗った櫓が進む。
さらに追従するように辺境伯軍の陣列も前進する。
向こうの櫓の上、敵将の表情が見える位置まで近付く。
ポカンとした表情でこちらを眺めているのが分かる。
打楽器隊に驚いているのか、それともこちらの総大将が男だからか。
ダララララララララ~、ダンッ!! タン、タン♪
上手く決まった。太鼓を叩きながら行進し、太鼓の音に合わせて足を止めるだけの動作、この訓練にかなりの時間を要した。
今この場で訓練の成果を見せる事が出来て、感無量である。
「若様、口上を」
「おっと……」
一人で感極まってしまった。
いかんいかん、俺の感情が漏れた影響で打楽器隊が頷き合って嬉し涙を流してしまっている。
向こうの指揮官からすれば奇妙な光景だろう。
ほら、こちらを指差して笑っている。
「やいシュライエンの軟弱息子!
こんなところまで出て来て何をしに来た? お散歩か?
可愛い可愛い箱入りのお坊ちゃまが出しゃばって来るようなところじゃないのよ!!」
表情はよく見えないが、向こうの指揮官が怒鳴っている。
その感情を乗せた魔法がこちらまで届いているが、さして脅威ではない。
滅多に男が前線に立つ事がないとはいえ、さすがに向こうも俺がシュライエン家の人間であると察しが付いているようだ。
ちなみに俺は普段、全寮制の王立学院に通っているので箱入りという言葉は正しくない。
ちゃんとお外に出ているし、同性・異性問わず友達も多い。
遠目でよくは見えないが、整った顔の茶髪の女性。
五百人規模の軍勢を率いている事から、貴族家の人間だろう。
貴族家の娘、ご令嬢である。
しかしこの世界では深窓の令嬢や、儚くか弱いお姫様なんてものはごくごく少数派だ。
多数派なのは、向こうの櫓で俺に向かって指を差し唾を飛ばしているあのような女性だ。
戦えないお嬢様など、何の価値もない世界なのだ。
「どうした、そこに立っているだけで精一杯なのではないか?
今ならヴェーニィである私のつま先をしゃぶるだけで許してやらんでもないぞ!」
ヴェーニィ、第二級魔法使いか。
本格的な侵攻ではない小規模な部隊であれば十分な使い手ではある。
こちらが黙っているのをいい事に、ペチャラポチャラと喚いている。
つま先をしゃぶる、ねぇ。
人にとっては極上のご褒美になるだろうけれど、あいにく俺にそんな趣味はない。
「辺境伯軍も人材不足のようね、こんな可愛らしいお坊ちゃまを矢面に立たせるだなんて。
この子をあげるから帰っておくれとでも言う気かい?
後ろに並んでる兵達も恥ずかしくないのかい!
男なんかに受け止められるほど、私の魔法はやわじゃないのよ!!」
そうか?
さっきからこちらへ向けられている魔法、痛くも痒くもないんだが。
震えて当然。
怯えて当然。
しかしその恐怖を抑えて、俺と共に戦おうとしてくれている。
その覚悟に俺は、応えなければならない。
すっと右手を挙げ、そして勢い良く下げる。
タンタン♪ ダンダン! ダンダカダカダカダンダン!!
タンタン♪ ダンダン! ダンダカダカダカダンダン!!
スネアドラム風の太鼓のリズムに合わせて打楽器隊が行進、その後ろを俺の乗った櫓が進む。
さらに追従するように辺境伯軍の陣列も前進する。
向こうの櫓の上、敵将の表情が見える位置まで近付く。
ポカンとした表情でこちらを眺めているのが分かる。
打楽器隊に驚いているのか、それともこちらの総大将が男だからか。
ダララララララララ~、ダンッ!! タン、タン♪
上手く決まった。太鼓を叩きながら行進し、太鼓の音に合わせて足を止めるだけの動作、この訓練にかなりの時間を要した。
今この場で訓練の成果を見せる事が出来て、感無量である。
「若様、口上を」
「おっと……」
一人で感極まってしまった。
いかんいかん、俺の感情が漏れた影響で打楽器隊が頷き合って嬉し涙を流してしまっている。
向こうの指揮官からすれば奇妙な光景だろう。
ほら、こちらを指差して笑っている。
「やいシュライエンの軟弱息子!
こんなところまで出て来て何をしに来た? お散歩か?
可愛い可愛い箱入りのお坊ちゃまが出しゃばって来るようなところじゃないのよ!!」
表情はよく見えないが、向こうの指揮官が怒鳴っている。
その感情を乗せた魔法がこちらまで届いているが、さして脅威ではない。
滅多に男が前線に立つ事がないとはいえ、さすがに向こうも俺がシュライエン家の人間であると察しが付いているようだ。
ちなみに俺は普段、全寮制の王立学院に通っているので箱入りという言葉は正しくない。
ちゃんとお外に出ているし、同性・異性問わず友達も多い。
遠目でよくは見えないが、整った顔の茶髪の女性。
五百人規模の軍勢を率いている事から、貴族家の人間だろう。
貴族家の娘、ご令嬢である。
しかしこの世界では深窓の令嬢や、儚くか弱いお姫様なんてものはごくごく少数派だ。
多数派なのは、向こうの櫓で俺に向かって指を差し唾を飛ばしているあのような女性だ。
戦えないお嬢様など、何の価値もない世界なのだ。
「どうした、そこに立っているだけで精一杯なのではないか?
今ならヴェーニィである私のつま先をしゃぶるだけで許してやらんでもないぞ!」
ヴェーニィ、第二級魔法使いか。
本格的な侵攻ではない小規模な部隊であれば十分な使い手ではある。
こちらが黙っているのをいい事に、ペチャラポチャラと喚いている。
つま先をしゃぶる、ねぇ。
人にとっては極上のご褒美になるだろうけれど、あいにく俺にそんな趣味はない。
「辺境伯軍も人材不足のようね、こんな可愛らしいお坊ちゃまを矢面に立たせるだなんて。
この子をあげるから帰っておくれとでも言う気かい?
後ろに並んでる兵達も恥ずかしくないのかい!
男なんかに受け止められるほど、私の魔法はやわじゃないのよ!!」
そうか?
さっきからこちらへ向けられている魔法、痛くも痒くもないんだが。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
元公務員が異世界転生して辺境の勇者になったけど魔獣が13倍出現するブラック地区だから共生を目指すことにした
まどぎわ
ファンタジー
激務で倒れ、そのまま死んだ役所職員。
生まれ変わった世界は、魔獣に怯える国民を守るために勇者が活躍するファンタジーの世界だった。
前世の記憶を有したままチート状態で勇者になったが、担当する街は魔獣の出現が他よりも遥かに多いブラック地区。これは出現する魔獣が悪いのか、通報してくる街の住人が悪いのか……穏やかに寿命を真っ当するため、仕事はそんなに頑張らない。勇者は今日も、魔獣と、市民と、共生を目指す。
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる