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Main story

クズな自分なんて知らない

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 部屋に置きっぱなしだったスマホを確認する。
 里奈りなからメッセージが来ていた。家に着いたよ、という帰宅報告とスタンプだけだ。
 伊千香いちかには俺と何を話した、というメッセージを送っているのに、この差は何だ?
 いや、伊千郎いちろうが私の気持ちに気付いてくれて嬉しかったよ、と送られて来ても何と返して良いのやら分からないけども。
 里奈以外からのメッセージもあった。民人たみとだ。
 俺の体調を心配するような内容は一切なく、俺のいない教室内で里奈と羽那子はなこが微妙な空気になっていたという報告。
 そんな事俺に言われても。
 いや、今後は俺が何とかして行かなくてはならんのか? 努力はしよう。
 ん? 下にスクロールすると驚きのメッセージが。

『二股掛けてねぇーでさっさと羽那子を俺に寄越せよ』

 ……は!?
 冗談だよな? これが一番最後のメッセージになっている。
 スタンプとか、ツッコミの催促とか、そんなメッセージはない。
 時間が戻る前、学校での雰囲気を見る限り、民人は羽那子の事が気になっているのが分かったけれど。
 こうもあからさまに表現されると、逆に困るな。
 元々の世界において、俺は民人とめちゃくちゃ仲が良く、こんな事を言うと小っ恥ずかしいが親友だと思っていた。
 この世界においてもその関係は同じであってほしいと思う。
 その民人が、俺に対して羽那子を寄越せと。二股掛けてんじゃないと。マジのトーンで言っている。
 気になったので、メッセージを上へ上へとスクロールして過去のやり取りを遡って読んでみる。

『身体が触れた程度は浮気とは言わない』
『入れてないからセーフ』
『二番目で良いからと言わせたら勝ちだろ』
『本命は里奈』
『むしろ三人で付き合って行けばいい』

 愕然とする。
 全て俺の方から発信されているメッセージ。
 その全てに民人は肯定的なメッセージを返している。
 俺達、クズなの? クズ友達なの?
 民人は民人でどこそこでナンパした女が積極的だったとか、伊千郎を紹介しろとうるさいから捨てたとか、金返せって言われたから連絡先をブロックしたとか、タチの悪い内容しかない。
 そして俺はその全てに対して肯定的な返事をしている……。
 ガチクズだ。今回の伊千郎はガチクズだ。
 里奈は何でこんなクズと付き合ってるんだ? 風邪引いたからって何でそんなに心配してくれるんだ?
 そら泣くわ。普段全然優しくしてくれない男が、当たり前の気遣いを見せたという訳だ。
 DVの加害者と被害者みたいな付き合いになってんじゃん……。

 というより、そうなるとより一層怖いのは羽那子に対してだ。
 羽那子にどんな態度を見せていたのかを確認しなくては。
 民人への返事はせず、羽那子とのメッセージを確認する。
 ない。
 メッセージの履歴が一切ない。やり取りをしていないって事か?
 電話の着発信履歴を見てみる。ない。
 これは一回一回消しているのか? それとも……。

コンコンコンッ

 ノックの音が響く。しかし、部屋の扉からではなく窓から聞こえて来た。
 ベッドから身体を起こして窓を見ると、羽那子が自分の部屋のベランダから身を乗り出していた。
 鍵を開け、少しだけ窓を開ける。

「どうした?」

「……今日は様子がおかしかったから、大丈夫かなって」

 心配そうな表情の羽那子。まるで捨てられた子犬のようだ。

「窓、開けてくれないの?」

「あぁ、もう寝るわ」

 すがるように俺を見つめる羽那子。
 俺は悪くない。悪いのはこの世界の伊千郎だ。
 何があったのか、羽那子と伊千郎との関係がどうであったかは俺の想像でしかない。
 それでも、羽那子の顔を見ていると罪悪感がじわりじわりと滲み出てくるようだ。

「そっか、分かった。
 ねぇ、窓の鍵、開けといてくれるよね……?」

「お休み」

 俺は答えず、窓をゆっくりと閉めて離れた。
 鍵は、掛けていない。

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