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Main story
え、羽那子!?
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腰に掛かる負荷によって目が覚めた。
最初に目に入ったのは紺色の見慣れたセーラー服。巻かれた棒タイは白。俺と同じ二年のものだ。
棒タイは胸の豊かな膨らみを強調する役割を果たしている。実に良い仕事をしていますね。
その膨らみから視線を上げ、発育のよろしい身体の持ち主の顔を見やる。
肩あたりで揃えられた黒髪。濡れた瞳。ぷるんと柔らかそうな赤い唇。その口角はにぃ、と上がっている。
「え、羽那子!?」
「……伊千郎、おはよ♪」
俺は上半身を起こして羽那子の胸を凝視する。血は出ていない。包丁も突き刺さっていない。
「どしたの? 変な夢でも見た?」
……夢!? いや、そんなはずはない。確かに羽那子は包丁で刺され、胸から多量の血が出ていた。
何だ、何が起こっている? 羽那子がピンピン動いているのは良い事だ。けれど、はい良かったですねでは済まされない。
落ち着いて周りを見回せば今は朝。明るい。時間が経過しているのは分かった。
自室の床を見る。出血を拭いたような形跡もない。
「お兄ちゃーん、起きたー?」
伊千香がトントンと音を鳴らして階段を上がって来る。
マズイ! いや、何もマズイ事はない。
いやいやマズイ!! 伊千香は昨夜羽那子を包丁で刺したんだ。
お兄ちゃんから離れろと、羽那子に襲いかかったのだ。
その羽那子が今朝もまた、俺の上に跨がっている。これはマズイ状況でしかない!
どうしよう、どうすればいい!?
出来るだけ身体が離れている状況を作るべきだ、近付くなと言って刺したのだから。
羽那子の肩を掴み遠ざけようと力を入れると、羽那子は身体を後ろに反らしてベッドに倒れ込んだ。
力の行き場を失いバランスを崩して、俺はまたも羽那子の上に覆い被さる形になってしまった。
そして伊千香が部屋の扉を開ける。
「はなちゃん、また窓から入って来たの? まぁお兄ちゃんが鍵を閉めてないから入れた訳だし、これってもしかして誘い受けってヤツ?」
……デジャブか? 目を開けてから今までの流れ全て、俺は体験した事がある。
次に羽那子が話すのは、幼馴染みの特権についてだ。
「窓から部屋に入るのは幼馴染の特権だからねー」
そして伊千香が俺に話を振る。
「お兄ちゃん、いつまでやってんの? そういう事してるとまた怒られるよ?」
怒られる? 怒る、ではなくて?
そして『また』というのはどういう意味か。
「伊千香、羽那子の事怒ってるのか……?」
聞いてから、もしかしてやぶ蛇になるかもしれないと後悔する。
が、それは杞憂に終わった。
「怒る? 何で?
はなちゃんは私の代わりにお兄ちゃんを起こしてくれたじゃん。
しかももう朝ご飯の用意もしてくれてるんだよ?
私は怒らないけど、だからといって二人の関係を応援する訳ではないからね」
……どうなっている?
もちろん今が朝で、羽那子が伊千香に刺されたのは夜で、羽那子の身体に包丁が突き立てられていないのは分かっている。
それでも、突然時間が飛び、羽那子と伊千香が日常的なやり取りを交わしている光景を目の当たりにすると、何を理解して何を疑って何から逃げれば良いのか判断出来ない。
俺は混乱して叫べばいいのか、恐怖で腰を抜かせばいいのか、安心して全てを忘れればいいのか、現実放棄して流されればいいのか。
この世界の、何を信じればいいんだろか。
最初に目に入ったのは紺色の見慣れたセーラー服。巻かれた棒タイは白。俺と同じ二年のものだ。
棒タイは胸の豊かな膨らみを強調する役割を果たしている。実に良い仕事をしていますね。
その膨らみから視線を上げ、発育のよろしい身体の持ち主の顔を見やる。
肩あたりで揃えられた黒髪。濡れた瞳。ぷるんと柔らかそうな赤い唇。その口角はにぃ、と上がっている。
「え、羽那子!?」
「……伊千郎、おはよ♪」
俺は上半身を起こして羽那子の胸を凝視する。血は出ていない。包丁も突き刺さっていない。
「どしたの? 変な夢でも見た?」
……夢!? いや、そんなはずはない。確かに羽那子は包丁で刺され、胸から多量の血が出ていた。
何だ、何が起こっている? 羽那子がピンピン動いているのは良い事だ。けれど、はい良かったですねでは済まされない。
落ち着いて周りを見回せば今は朝。明るい。時間が経過しているのは分かった。
自室の床を見る。出血を拭いたような形跡もない。
「お兄ちゃーん、起きたー?」
伊千香がトントンと音を鳴らして階段を上がって来る。
マズイ! いや、何もマズイ事はない。
いやいやマズイ!! 伊千香は昨夜羽那子を包丁で刺したんだ。
お兄ちゃんから離れろと、羽那子に襲いかかったのだ。
その羽那子が今朝もまた、俺の上に跨がっている。これはマズイ状況でしかない!
どうしよう、どうすればいい!?
出来るだけ身体が離れている状況を作るべきだ、近付くなと言って刺したのだから。
羽那子の肩を掴み遠ざけようと力を入れると、羽那子は身体を後ろに反らしてベッドに倒れ込んだ。
力の行き場を失いバランスを崩して、俺はまたも羽那子の上に覆い被さる形になってしまった。
そして伊千香が部屋の扉を開ける。
「はなちゃん、また窓から入って来たの? まぁお兄ちゃんが鍵を閉めてないから入れた訳だし、これってもしかして誘い受けってヤツ?」
……デジャブか? 目を開けてから今までの流れ全て、俺は体験した事がある。
次に羽那子が話すのは、幼馴染みの特権についてだ。
「窓から部屋に入るのは幼馴染の特権だからねー」
そして伊千香が俺に話を振る。
「お兄ちゃん、いつまでやってんの? そういう事してるとまた怒られるよ?」
怒られる? 怒る、ではなくて?
そして『また』というのはどういう意味か。
「伊千香、羽那子の事怒ってるのか……?」
聞いてから、もしかしてやぶ蛇になるかもしれないと後悔する。
が、それは杞憂に終わった。
「怒る? 何で?
はなちゃんは私の代わりにお兄ちゃんを起こしてくれたじゃん。
しかももう朝ご飯の用意もしてくれてるんだよ?
私は怒らないけど、だからといって二人の関係を応援する訳ではないからね」
……どうなっている?
もちろん今が朝で、羽那子が伊千香に刺されたのは夜で、羽那子の身体に包丁が突き立てられていないのは分かっている。
それでも、突然時間が飛び、羽那子と伊千香が日常的なやり取りを交わしている光景を目の当たりにすると、何を理解して何を疑って何から逃げれば良いのか判断出来ない。
俺は混乱して叫べばいいのか、恐怖で腰を抜かせばいいのか、安心して全てを忘れればいいのか、現実放棄して流されればいいのか。
この世界の、何を信じればいいんだろか。
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