上 下
45 / 72
Main story

伊千香の認識

しおりを挟む

 夕食。もちろん羽那子はなこは水着を脱いで部屋着に着替えている。
 俺の部屋の窓から羽那子が自分の部屋へ戻る際、その後ろ姿を見て伊千香いちかが大きなため息を吐いていた。
 妹よ、もうあっち側に戻るんじゃないぞ。
 対する美紀みきは「幼馴染みの定番やぁ~~~!」と興奮して羽那子のケツに付いて行った。彼女はもう戻ってこれないと思われる。

「そう、元々はこっちに住んでたのねぇ」

「はい、そうなんです。父の会社の本社が駅前にあるんですよ」

 そんな美紀だが、うちの両親には礼儀正しく大人しめ。なかなか直せないという関西弁も控えめ。
 借りてきた猫というのはこういう状態の事を言うのだろうな。

「それが引っ越した後にキャンプ合宿で伊千郎いちろうと友達になったのか。
 不思議なご縁だなぁ」

 父さんは娘である伊千香と赤ん坊の頃から知っている羽那子がいるからか、年頃の娘さん相手でも自然に話す。
 羽那子と美紀が手伝って作ったハンバーグをパクパク食べている。

「お布団はあれで良かった?」

「うん、大丈夫。ありがとう」

寿々音すずねさんには私から連絡しておいたけど、はなちゃんからもちゃんと伝えておくのよ?」

「分かった-」

 そう言えば、未だに羽那子の両親を見ていないな。いつもいつ帰って来ていつ出掛けて行くのか。
 母さんはやり取りをしているようだけど、羽那子の口から親に関する情報はほとんど出て来ない。

「お風呂はどうするの? 入りに帰る?
 うちのお風呂は伊千郎が洗ってくれてるからすぐに入れるけど」

「いや、羽那子の家で入ればいいだろう。美紀が泊まるのはあくまで羽那子の家なんだから」

 こっちで入られたら何に巻き込まれるか分からん。

「えー、こっちで入りたいのに。いっくんも一緒に入ろうよ」

 ね? と羽那子が美紀に同意を求める。
 美紀は頬張ったハンバーグが変なところに入ったようで、慌ててお茶に手を伸ばしている。

「はなちゃん、家で入った方がいいよ。
 お兄ちゃんはもうシャワー浴びたから入らないよ」

 伊千香が我に返った事で、強い味方となってくれた。
 いや、至極当たり前の事を言っているだけなんだけど。
 悪ノリで俺を追い詰めて来ないだけで十分か。

「はっはっはっ、はなちゃんが伊千郎とお風呂入ってたぞなんて言ったら源にぃは何で言うかな?
 今すぐ籍入れろって言うかもしれんな!」

 何が面白いのか。父さんは口を大きく開けて笑う。

「パパ、食事中だよ」

「おっと、すまんすまん」

 羽那子が何か言おうとするのを牽制し、伊千香が父さんへ行儀が悪いと怒る。
 伊千香が羽那子に対して睨みを効かせている状態。
 俺と羽那子の関係性が変わってしまうのを恐れていた伊千香はどこに行ったのか。
 いや、ある意味では現状を維持しようとしていると言える。
 俺の記憶がなくなり、伊千香にとって羽那子は兄の恋人ではなく幼馴染みという認識に戻したのだろう。
 であれば、改めて俺と羽那子がくっつけば、それは変化になる。
 ……いや、考え過ぎか。
 単に羽那子がやり過ぎているのに気付いただけだろう。

「うちよりはなちゃんの家のお風呂の方が広いんだからそっちで入ろうよ。
 美紀さん、三人で一緒に入りません?」

「うん、そうしよっか。何か合宿みたいで楽しいなぁ」

 伊千香が美紀を取り込んだ。
 羽那子もそれに同意して、俺と風呂に入る云々の話は流れた。
 伊千香が頼もしい。いつまでも俺の味方であってほしいものだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

処理中です...