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Main story

目玉焼きには何かける?

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 気付けば夜が明けていた。
 隣で横になっていた羽那子はなこの姿はない。
 さすがに朝まで一緒にいる訳ないか。
 上半身裸の状態だったはずだが、起きた時にはTシャツとスウェットを着ていた。
 ……何となく幼馴染みっぽいなと思った。

「おはよー」

 階段を下りて一番にダイニングへ顔を出す。
 父さんがテーブルにつき新聞を読んでいて、母さんと羽那子がキッチンで朝食の用意をしている。
 羽那子はまだセーラー服ではなく、スウェットを着ている。
 そのスウェット、俺のじゃないか……?

「おはよう。はなちゃんが起こしに行く前に起きるのはマナー違反ではないのか?」

 父さんが胡散臭い講師のような事を言っているのをスルーして洗面所へ。
 歯を磨いていると、伊千香いちかが後から入って来た。

「お兄ちゃん、はなちゃんが起きる前に起きるなんてマナー違反じゃない?」

 何でちょっと怒ってるんだよ。どうでもいいよそんなマナー。


 洗顔を終えてダイニングへ戻る。今日はパンと目玉焼きとサラダか。
 羽那子はすでに制服へ着替えていた。そして何故か下唇をツンと出してムスッとしている。

「羽那子、俺のスウェット勝手に着るなよ。ぶかぶかだっただろ」

 羽那子の背は俺より一回りくらい低い。ズボンの裾もだいぶロールアップしてたし、腕まくりもしていた。
 寝るとごわごわして着心地はよくないだろう。

「ふんっ」

 あからさまに顔を背けやがった。何なんだ一体。

「あらあら、はなちゃんが不機嫌アピールしているのに謝らないから……」

 俺の後に洗面を済ませた伊千香がダイニングに入って来る。
 不機嫌アピール? 俺何かしたか?

「だから言ったじゃん。マナー違反だって」

「は? 起こされる前に自分で起きたから羽那子が怒ってるって?
 んな事知らないよ、目が覚めたんだから起きるだろ」

 羽那子が起こしに来るまでベッドから動くななんて、窮屈で仕方ない。
 母さんからコーヒーを受け取り口を付ける。
 あえて謝る必要なんてないよな。ましてやこの場は両親の目の前だ。
 女の子に対して下手に出る姿を見せるなんて恥ずかしくて出来ん。
 黙々とパンを頬張っていると、伊千香と羽那子が何やら盛り上がっている。
 目玉焼きの黄身は半熟かよく焼くか? そんなん人それぞれの好みだろ。

「いっくんは? ねぇいっくんは目玉焼きに何かける?」

 さっきまでの不機嫌アピールはどこに行ったのか。羽那子が笑顔でどうでもいい質問を投げ掛けて来た。

「俺は塩コショウをかけるな」

 ここで俺が変な態度を見せると、さっきの不機嫌アピールを気にしている小さい男だと思われかねない。
 聞かれた事に素直に答える。

「えー!? 目玉焼きにはソースでしょ!?」

 信じられない! という表情の羽那子。

「ソースどばどばかけるなんて玉子に失礼だよ! 目玉焼きにはマヨネーズなんだから」

 伊千香はマヨラーだから何でもマヨネーズだろう。
 ってか十数年間も同じ食卓を囲んでいる二人が目玉焼きに何かけるかで揉めるのはどうなんだ?
 お互い認め合って仲良くしろよ。

「母さんは毎朝みんなの好みに合わせて調味料を用意してくれるもんな。
 父さんは目玉焼きにはマヨネーズとケチャップを合わせたオーロラソースをかける。
 母さんはヒマラヤクレイジーソルトにはまっているな。
 うちの味はこれ! って決め付けずに、みんなの好みを全部用意する。
 これは母さんの優しさってヤツだな」

 何だよ父さん、朝からのろけか?
 いや、でも父さんが言う通り、母さんはこれにしなさいあれにしなさいと押し付けたりしない。
 ちゃんと選択肢を用意してそれぞれ自分で選ばせてくれる。
 その上で俺達は塩コショウだマヨネーズだと、自分が好きな味付けで目玉焼きを楽しめる。
 うん、実に気持ちの良い朝食だな。

 などと小さな幸せを感じていると、羽那子のスマホに美紀みきから連絡が。
 今から家を出るとの事。
 早くしないと待たせてしまう。さっさと用意をしてしまおう。
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