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Main story

雨降ってさらに地固まる

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「そうだね、あたしのワガママみたいなところもあるから、いっちゃんには先に説明しなきゃいけなかったね」

 俺視点で考えると、俺と羽那子はなこは幼馴染みではない。ある日突然降って沸いたようなものだ。
 でも自分から見れば俺は幼馴染みである事に変わりはない、とは羽那子は考えなかった。
 俺と十数年過ごし、二人の距離感がないようであるようで、付き合ってはいるが進展しない。
 ならば俺の記憶がなくなってしまったのをきっかけに、新たな信頼関係を築けば良いじゃないか。
 生まれた時から一緒だからこれからも一緒に過ごす、という暗黙の了解はなくなった。ならば、一から始めなければならない。
 そんなタイミングで美紀みきが俺達の前に現れた。
 これは神様が与えた試練である。美紀に奪われるのであれば、そもそも自分達は運命の赤い糸では結ばれていなかったのだろうと思う。

 そんな事を、羽那子は伊千香へつらつらと語った。

「そっか、やっと分かった。はなちゃんの気持ち、分かったよ。
 そうだね、もしお兄ちゃんと上手く行かなかったとしても、私とはなちゃんは変わらないんだよね!」

 伊千香の中で納得がいったらしい。とても晴れやかな表情をしている。
 ところで、俺はここに呼ばれる必要あったんだろうか。
 羽那子が伊千香にどういうつもりなのかという思いを伝えればそれで良かったんじゃないのか?
 その、運命だとか赤い糸だとか、自分の話として語られると小っ恥ずかしいんだが……。


「それでもね、いっちゃん。あたしはそう簡単にみっきーにいっくんを渡す気はないからね!」

「うんうん、もちろん私ははなちゃんを応援するよ!
 何があってもはなちゃんと私の関係が変わらないとはいえ、はなちゃんにはやっぱり今まで通りお兄ちゃんと一緒にいてほしいんだもん!!」

 だもんと言われてもね、まぁいいけど。

「その気持ちはすごく嬉しいし、応援してほしいんだけどね、でもみっきーとも仲良くなってくれたら嬉しいんだよ。
 実は明日、いっくんの部屋でみんなで勉強会しよって話してて。
 みっきーは転校する前の学校でまだ習ってなかった範囲がテストに出るっぽいんだよ」

 羽那子はしっかりと自分の思い全てを伊千香へ伝える。伊千香は自分を応援してくれる。それだけではよしとしない。
 伊千香にも美紀と仲良くなってほしいという思いをちゃんと伝えている。

「……そうだね、今日はちょっと態度悪かったからちゃんと謝らないとね」

 そしてその思いを受け止めて、しかりと反省する伊千香。
 なるほど、これが女の子同士の幼馴染みの関係か。

「でもあくまで私ははなちゃんの味方だから。
 決めた、私はお兄ちゃんとはなちゃんをもう一度くっつける為に頑張る! 何たって信頼と実績があるからね、経験に裏打ちされた丁寧な仕事をしてみせるよ!」

 何だその建築会社のコマーシャルみたいなセリフは。
 ってか俺と羽那子が付き合うようになったのは伊千香の功績みたいな言い方だな。

「ふふふっ、それはそれで頼りにしてるからね」

 そして羽那子も否定はしないのな。
 
「そうと決まったら作戦会議だねっ!
 ほらお兄ちゃん出てって!! 今からはなちゃんととっても大事なお話があるんだから!!!」

「そーだーそーだー♪」

 それにしてもこの二人、自分勝手過ぎやしないかい?
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