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Main story

アルバムの中の女の子

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 階下から聞こえる姦しい声をBGMにしつつ、スウェットを脱いでYシャツに手を通す。

バタンッ!

「いっくん、伊千子いちこちゃんがキャンプ合宿の時のアルバムがあるはずだって言ってるんだけどどれ!?」

 ノックしろよノックをよぉ!
 寝ている間に窓から不法侵入してくるくらいだからノックなんてしないのは分かっているけれど、思わずにはいられない。

「あった! ありがとっ!!」

 ……騒がしいなぁ。俺一言も喋ってないんだけど。

 学ラン姿になって階段を下りると、リビングのソファーに東条とうじょうさんが座っている。

「お、おはよう……」

「おはよう。羽那子のペースに巻き込まれて大変だな」

「へへへっ」

 昨日と同じく、うちの制服であるセーラー服姿ではなく前の学校のブレザー姿。
 見慣れない制服に少しドギマギさせられる。

「ちょっといっくん、こっち来てみっきーを指差してみてー」

 ん? いや、昨日散々探したんだけどそれらしい女の子は見つからなかったんだけどなぁ。

「見つけられへんってや。うちだいぶ変わったから」

 東条さんがふわふわのショートカットを撫でながら羽那子へそう話す。
 だいぶ変わった? 何がどう変わったのだろうか。六年経っているのだからそれなりに成長しているだろうけど。
 アルバムを覗き込むも、昨日と同じくピンと来る女の子は見当たらない。

「ヒント! この写真にいまーす」

 羽那子が指す写真には、俺を含めて三人しか写っていない。
 カメラに向けて笑顔でピースをする俺と坊主頭の男の子。そして髪の毛が長くて線の細い女の子。

「ヒントってか答えやんか」

「え……、この子?」

 色が透き通るように白く、俺達とは対照的にお澄ましをしたとても大人しそうな女の子。
 確かに今の東条さんのイメージで探してたら見つけられないわ、これは。

「こん時はな、関西に引っ越ししたばっかで、言葉とか生活とか、まだまだ慣れてへん時やってな。
 そん中で無理矢理キャンプ合宿に参加させられて、滅茶苦茶帰りたかってん」

 写真の中の女の子を見ながら東条さんの話を聞くと、当時の記憶が鮮明に蘇って来た。

「思い出した。家に帰りたいけど帰りたくないとか訳分からん事言ってた奴だ」

「そうそう! 元々生まれたのはこの街で、父の仕事の都合で引っ越して、家に帰りたいけど新しい家には帰りたくないって言って泣いててん」

 そうだそうだ。めそめそしてる子と同じ班になって、声を掛けてみたら少し前まで俺の街に住んでたって話で盛り上がったんだったわ。
 それで仲良くなって自由行動の時も一緒に遊んだんだった。

「あの合宿がきっかけでキャンプというか、外で遊ぶのが好きになって、少しずつ性格も活発になっていってん。
 学校でも自分から声掛けて友達作れるようになったし、ええ経験したわ」

 そして今回、親の都合でまた地元へと戻って来た訳だ。
 それにしても高校で再会するっていうのも不思議な話だな。

「『俺の事はイチローって呼べ! お前の事は美紀みきって呼ぶから!!』って言うてくれてな。
 最初はちょっと距離近いなぁて思ったけど、ぐいぐい来てくれたからこそ仲良くなれたんやなぁ」

「いっくんは泣いてる子とかに『どうした?』って声掛けていく子供だったもんね」

 うーん、そうだっただろうか。そんな面倒見の良い方ではなかったと思うけど。

「さぁさぁそろそろ時間よ。はいお弁当。
 美紀さん、またゆっくり遊びに来てね」

 リビングとダイニングの間の扉が開き、母さんが顔を出して俺と羽那子に弁当を寄越す。

「ありがとうございます。お忙しい時間にお邪魔しました」

 母さんに向けて丁寧に頭を下げる東条さん。
 伊千香も登校の用意が出来たので、俺達は四人一緒に家を出て学校へと向かった。
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