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Main story
何かそれっぽいひらめき
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アルバムの貼ってある写真を何枚見ようが、俺の記憶は戻らない。いや、元々忘れてた訳じゃないんだ。知らないだけなんだ。
じゃあ何で俺の隣に幼馴染みだと言う羽那子が写り込んでいるのか。知らない。分からない。
「これは海でキャンプした時、私とはなちゃんで穴掘って砂浜にお兄ちゃんを埋めたんだよ、覚えてるでしょう?」
中学から帰って来た妹の伊千香も参戦。写真を指差して俺の記憶を呼び起こそうとする。
「覚えてるけど……」
「ほらぁー!! やっぱ覚えてんじゃーん!!!」
覚えているけど、覚えている内容とお前達が話している内容が違うんだよ。
砂浜に埋められた記憶はある。が、そこに羽那子はいなかった。それが俺の記憶だ。
「何だ、覚えてるんじゃねぇか」
「つまり、どういう事? 伊千郎君の記憶が戻ったって事でいいの?」
民人と林さんが納得行っていない表情で俺を見つめる。いや、半ば睨んでいると表現しても差し支えないかもしれない。
「良かったね、はなちゃん!」
「そうだね、良かった良かった」
違和感。羽那子の浮かべる笑顔に違和感を覚える。
良かった、ではなく、覚えてようが覚えてなかろうがどっちでも良い、という風に感じる。
その言い方や表情だけでなく、全体的に羽那子に対して感じる違和感。
いや、俺の思い過ごしか? 何にしても判断材料が少ない。何たって俺が羽那子の事を知らなさ過ぎる。
結局はそれに尽きる。知らない。俺は幼馴染みだという羽那子の事を知らないんだ。
その場はなし崩し的に解散となり、民人と林さんは帰って行った。
民人は『次は俺の事を知らないとか、そんな冗談言わないよな?』と、洒落にならない言葉を残して行った。
羽那子はちゃんと玄関から家へ帰り、セーラー服を脱いで部屋着に着替えてから再び俺の家に。
今は母さんの料理の手伝いをしている。さも、当たり前のように。
俺は一人、自分の部屋のベッドに寝転がり、見慣れた天井を見上げながら頭の中を整理する。
まず前提として、俺は羽那子の事を知らない。
しかし、家族やクラスメイトはみんな羽那子の事を知っている。
そればかりか俺が小さい頃に撮られた写真に漏れなく羽那子が写っている。
それも小っこい俺が仲良さそうな顔して小っこい羽那子にくっついていたりする。
写真を撮られた時の記憶は、ある。
が、俺が以前見たその写真には、羽那子は写っていなかった。
「これってもしかして、異世界転移ってやつか……?」
今小説やそれを原作とする漫画やアニメで流行っているらしい設定。
記憶をそのまま引き継ぎつつ全く違う世界で赤ん坊として生まれたり、記憶も身体もそのまま別の世界へ移動してしまうという物語。
俺の場合は、平行世界に移動してしまったんじゃないだろうか。
俺と全く同じ人間が存在する世界。その世界と元の世界の違いはたった一つ。
幼馴染みである羽那子が存在するか、否か。
俺は羽那子が存在しない世界の伊千郎で、何かの拍子に羽那子が存在する世界の伊千郎と入れ替わった、とか。
つまり俺が元々いた世界には羽那子の本当の幼馴染みである伊千郎が飛ばされていて、伊千香や民人達に羽那子がいない、何でお前達は覚えてないんだと食って掛かっているかもしれない、と。
「うーん、当たっているような、いないような」
今の仮説だと、俺が感じている羽那子に持っている違和感の明確な説明が出来ない。
俺も羽那子の事を知らないけど、羽那子も俺の事をそれほど知っている訳じゃない……?
おお? 何かそれっぽくないか!?
上手く言い表せないけどすごくそれっぽいぞ!!
何か紙に書けばピンと来るかもしれない。
勉強机に向かいメモ帳を取り出してシャーペンを握る。
「えーっと最初は……」
ガラガラガラッ
「あれ? 今日何か宿題出たっけ?」
「うわぁっ!!?」
あまりにビックリし過ぎて座っていた椅子から落ちてしまった。
いきなり部屋の窓が開いて人が入って来たのだ、誰だって驚くだろう。
「ごめんごめん、ご飯出来たから呼びに来た」
「それなら部屋の扉から入って来ればいいだろう! 何でわざわざ一度家に帰って窓越しに入って来るんだよ……」
「ほら、その方が幼馴染みっぽいじゃん?」
じゃん? って聞かれてもなぁ……。
羽那子の伸ばす手に掴まって立ち上がり、椅子を直す。
「今日の晩ご飯は、いっくんが大好きなカツ丼と唐揚げです!」
「組み合わせおかしくないか?」
「そう? どっちもめっちゃおいしく出来たよ!」
ほう、それは楽しみ楽しみっと。
ぐぅ~、と腹が鳴る。ちょうどいいタイミングだったな。
んじゃダイニングに行くとしますか。
じゃあ何で俺の隣に幼馴染みだと言う羽那子が写り込んでいるのか。知らない。分からない。
「これは海でキャンプした時、私とはなちゃんで穴掘って砂浜にお兄ちゃんを埋めたんだよ、覚えてるでしょう?」
中学から帰って来た妹の伊千香も参戦。写真を指差して俺の記憶を呼び起こそうとする。
「覚えてるけど……」
「ほらぁー!! やっぱ覚えてんじゃーん!!!」
覚えているけど、覚えている内容とお前達が話している内容が違うんだよ。
砂浜に埋められた記憶はある。が、そこに羽那子はいなかった。それが俺の記憶だ。
「何だ、覚えてるんじゃねぇか」
「つまり、どういう事? 伊千郎君の記憶が戻ったって事でいいの?」
民人と林さんが納得行っていない表情で俺を見つめる。いや、半ば睨んでいると表現しても差し支えないかもしれない。
「良かったね、はなちゃん!」
「そうだね、良かった良かった」
違和感。羽那子の浮かべる笑顔に違和感を覚える。
良かった、ではなく、覚えてようが覚えてなかろうがどっちでも良い、という風に感じる。
その言い方や表情だけでなく、全体的に羽那子に対して感じる違和感。
いや、俺の思い過ごしか? 何にしても判断材料が少ない。何たって俺が羽那子の事を知らなさ過ぎる。
結局はそれに尽きる。知らない。俺は幼馴染みだという羽那子の事を知らないんだ。
その場はなし崩し的に解散となり、民人と林さんは帰って行った。
民人は『次は俺の事を知らないとか、そんな冗談言わないよな?』と、洒落にならない言葉を残して行った。
羽那子はちゃんと玄関から家へ帰り、セーラー服を脱いで部屋着に着替えてから再び俺の家に。
今は母さんの料理の手伝いをしている。さも、当たり前のように。
俺は一人、自分の部屋のベッドに寝転がり、見慣れた天井を見上げながら頭の中を整理する。
まず前提として、俺は羽那子の事を知らない。
しかし、家族やクラスメイトはみんな羽那子の事を知っている。
そればかりか俺が小さい頃に撮られた写真に漏れなく羽那子が写っている。
それも小っこい俺が仲良さそうな顔して小っこい羽那子にくっついていたりする。
写真を撮られた時の記憶は、ある。
が、俺が以前見たその写真には、羽那子は写っていなかった。
「これってもしかして、異世界転移ってやつか……?」
今小説やそれを原作とする漫画やアニメで流行っているらしい設定。
記憶をそのまま引き継ぎつつ全く違う世界で赤ん坊として生まれたり、記憶も身体もそのまま別の世界へ移動してしまうという物語。
俺の場合は、平行世界に移動してしまったんじゃないだろうか。
俺と全く同じ人間が存在する世界。その世界と元の世界の違いはたった一つ。
幼馴染みである羽那子が存在するか、否か。
俺は羽那子が存在しない世界の伊千郎で、何かの拍子に羽那子が存在する世界の伊千郎と入れ替わった、とか。
つまり俺が元々いた世界には羽那子の本当の幼馴染みである伊千郎が飛ばされていて、伊千香や民人達に羽那子がいない、何でお前達は覚えてないんだと食って掛かっているかもしれない、と。
「うーん、当たっているような、いないような」
今の仮説だと、俺が感じている羽那子に持っている違和感の明確な説明が出来ない。
俺も羽那子の事を知らないけど、羽那子も俺の事をそれほど知っている訳じゃない……?
おお? 何かそれっぽくないか!?
上手く言い表せないけどすごくそれっぽいぞ!!
何か紙に書けばピンと来るかもしれない。
勉強机に向かいメモ帳を取り出してシャーペンを握る。
「えーっと最初は……」
ガラガラガラッ
「あれ? 今日何か宿題出たっけ?」
「うわぁっ!!?」
あまりにビックリし過ぎて座っていた椅子から落ちてしまった。
いきなり部屋の窓が開いて人が入って来たのだ、誰だって驚くだろう。
「ごめんごめん、ご飯出来たから呼びに来た」
「それなら部屋の扉から入って来ればいいだろう! 何でわざわざ一度家に帰って窓越しに入って来るんだよ……」
「ほら、その方が幼馴染みっぽいじゃん?」
じゃん? って聞かれてもなぁ……。
羽那子の伸ばす手に掴まって立ち上がり、椅子を直す。
「今日の晩ご飯は、いっくんが大好きなカツ丼と唐揚げです!」
「組み合わせおかしくないか?」
「そう? どっちもめっちゃおいしく出来たよ!」
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ぐぅ~、と腹が鳴る。ちょうどいいタイミングだったな。
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