肩に顔乗せ笑う子は……?

なつのさんち

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この子はだあれ?

だから、つまりは、したがって。

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 そう言って、おばあさんが戻って行った。見える人には見える、という事か。
 小さい頃からお前は思い込みの強い子供だから気を付けないよと言って育てられて来た僕だけど、今回はそうじゃないと分かった。

「やっぱりいるんだな。僕だけに見えている訳じゃないんだ、みなちゃんは」

 ホッとしたあまり、ポツリと独り言を零してしまった。でもまぁいいか。今さら変な目で見られても関係ない。みなちゃんはいる。それでいいじゃないか。
 ある意味開き直って、目の前の3人を見る。驚いた表情のまま固まっている江藤えとうさん。その隣でにこやかにしている真鍋まなべさん。真鍋さんは大学でかなり怯えていたというのに、この喫茶店に入ってからは打って変わって機嫌が良さそうだな。パフェ、そんなに好きなのかな?
 そしてその肩に顔を乗せ、真鍋さんの耳に口元を近付けているみなちゃん。みなちゃんもご機嫌さんのようで、真鍋さんの耳にちょっかいを出しているようだ。
 大学でも真鍋さんの耳に息を吹きかけてビックリさせていたし。何故か真鍋さんはみなちゃんが見えないのに、吹きかけられた息には反応していたな。どういう仕組みなのかと幽霊を相手に考える事ではなさそうなので、そういうもんなんだと思っておこうか。
 そんな2人のやり取りを眺めていると、不意に真鍋さんがふふっと笑って、口を開いた。

「妹も、嬉しいって、思ってるみたいです」

「「んっ!?」」

 思わず僕と江藤さんの声が揃った。今、何て言ったのかな……?
 と問い掛けたいところだけれど、言葉を放った本人が目をまん丸にして驚いている。自分が何を言ったのか、自分の声が耳から入ってから認識したようなタイムラグを感じる反応の仕方。

 真鍋さんの名前は、真菜まなさん。僕が幼馴染みだと思い込んでいた幽霊の女の子は、みなちゃん。
 僕が名前を思い違いしていたのだと思っていたけれど、今みなちゃんは僕ではなく真鍋さんに取り憑いていて、そして真鍋さんの口から出た“妹”という言葉。
 真鍋さんには見えていないらしいけれど、声は聞こえている。繋がりが、あるという事なのだろうか。

「えーっと、真菜? 妹って、誰の事かな……?」

 江藤さんが思いっ切り作ったような笑顔で真鍋さんに問い掛ける。違うよね? 言い間違えただけだよね? ねぇ、そうだと言ってよ! と訴えるかのような瞳。
 江藤さんが真鍋さんにそう問い掛けるたびに、真鍋さんの肩に乗っているみなちゃんの顔が険しくなって行く。僕だけがその表情の変化を眺めている。

「えっと……、えへへっ」

 江藤さんからの圧を感じてか、真鍋さんが話をはぐらかそうと笑顔を見せた。その瞬間。

 ガシャン!

 テーブルに置かれたグラスが倒れ、江藤さんが頼んだアイスラテが江藤さんの方へ零れた。

「「えっ……!?」」

 テーブルからボトボトと江藤さんの方へアイスラテが流れて行っているが、江藤さんも真鍋さんも反応出来ないでいる。
 僕は見ていた。みなちゃんが手を伸ばし、江藤さんのグラスをわざと倒したところを。
 その表情は唇を尖らせ、嫌な事をされたからちょっとした仕返しをしてやろうとしている子供、そのままの表情。

「あらあらあら、ほらボーッとしてないでそこをどいた方がいいわ。はいタオル、これ使ってね」

 すがさず先ほどのおばあさんがタオルを何枚か持って来て下さった。もしかして、今の場面をおばあさんも見ておられたのだろうか。

「ちょっとおいたが過ぎるわね。でもだからって悪さばっかりするって訳でもなさそうだし、怖がる事はないと思うのよねぇ……」

 テーブルを拭きながら、困った顔をされるおばあさん。おばあさんから見ても、みなちゃんが悪霊というような悪い存在には見えないようだ。
 ソファーから立ち上がり、自分の服をタオルで拭く江藤さん。未だに先ほどの出来事が処理し切れていない様子。おばあさんからタオルを受け取ってソファーの汚れを拭いている真鍋さんも、何が起こったのか理解出来ていないような表情だ。

「一応伝えると、みなちゃんが手を伸ばしてテーブルにあったグラスをわざと倒したんだ。きっと、妹って誰だった言われた事が、気に食わなかったんだろうね」

 真鍋さんの口から妹も喜んでいるというような言葉が出て。
 江藤さんが妹って誰の事だと口にした。
 その事が気に食わなかったみなちゃんが、テーブルのグラスを倒した。

 だから、
 つまりは、
 したがって。

「みなちゃんは、真鍋さんの妹だって、事なのかな?」

 そう考えるのは、無理があるだろうか?

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