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この子はだあれ?
イチゴサンデー
しおりを挟む「キャァーーーーー!!!」
真鍋さんが叫び声を上げた。周りの学生達の視線が一斉に僕達に集まる。が、それどころじゃない。真鍋さんはこのみなちゃんが見えているのか、いないのか。その事の方が大事だ。
「真菜、どうしたの?
先輩、すみません。この子の友達の江藤と言います。この子があなたと話しているのを遠くから見させてもらっていました。
この子からある程度の事情は聞いています」
真鍋さんの友達だという江藤さんが駆け寄って来た。真鍋さんの背中を擦り、なだめようとしている。それでもみなちゃんは変わらず真鍋さんの肩に顔を乗せて、こちらをニコニコと眺めている。
江藤さんはそれに気付いていないようだ。やっぱり、僕にしか見えていないのだろうか。
真鍋さんが言う事が本当なのだとして、みなちゃんは僕の幼馴染みではない事になる。それなのにどうしようもなく懐かしく、親しみを感じてしまうのは何故なんだろうか。
だからと言って、真鍋さんが言う事が嘘だと否定する事も出来ない。彼女は僕の事を“のー”と呼んだのだから。
「先輩、周りの人達はきっと先輩が真菜に何かしたんじゃないかと疑っていると思います。今後の先輩のキャンパスライフの為にも、何でもないって事が分かるように真菜の肩を撫でてあげて下さい」
江藤さんが僕に真鍋さんの肩を撫でろと言う。いや、それって逆におかしく見られないかな? 真鍋さんに確認しようにもまだ取り乱しているし、うーん……。
「早くしないと誰かが警備員を呼びかねません」
そこまで言われるなら、分かった。真鍋さんの右肩、みなちゃんか顔を乗せているあたりをゆっくりと撫でる。
「大丈夫だよ、何も怖がる必要なんてないよ」
みなちゃんは危害を加えないと思うから。ね? そうだよね?
『…………』
みなちゃんは僕の問い掛けには答えず、真鍋さんの耳にふぅ~っと息を吹きかけている。
「ひぃっ!?」
真鍋さんがビクッと肩を震わせた。これじゃあ僕が撫でたのを嫌がっているように見えるんじゃないだろか……。
「これ以上この場にいるのはダメな気がします。ちょっと場所を変えましょう。先輩もついて来て下さいね?」
……、うん。真鍋さんの友達さんの言う通りにしよう。言う通りにしたら事態が悪化してしまったけど、それは江藤さんのせいではないしね。仕方ないね。
酷く怯えている真鍋さんの肩を抱き、江藤さんが歩き出した。その背中について歩く。
相変わらず真鍋さんの背中に取り憑いているみなちゃん。僕の隣にいた時よりも、表情豊かで楽しそうに見える。何でだろう、少しだけ嫉妬してしまう僕がいる。
(みなちゃん、君は一体誰なんだい?)
『……、ふふっ』
みなちゃんは真鍋さんの背中におぶさったまま、首だけで僕の方を振り返り、屈託のない笑顔を見せる。けれど、何も答えてはくれなかった。
「さて、とりあえず注文をしてしまいましょう」
大学の近くにある古い昔ながらの喫茶店へと入り、ボックス席のソファーに腰掛ける。向かい側左手に江藤さん。右手に真鍋さん。そしてその右肩から顔を覗かせるみなちゃん。
そんな俺達4人の席へ、マスターと呼ぶべき老紳士がオーダーを取りに来てくれた。
「僕はアイスコーヒーを」
「私はアイスラテを」
「私は、イチコサンデーを」
真鍋さんがパフェを注文した。何故か注文した本人がすごくビックリした表情をしている。そして肩に顔を乗せているみなちゃんはとっても嬉しそうな表情。
えっと、これってもしかして、言わされたんじゃ……?
「畏まりました、しばしお待ち下さいませ」
一礼して去って行くマスター。3人が一斉にお冷やへと手を伸ばす。
「ふぅ。
いきなりですみませんでしたね、先輩。それで、真菜の肩には本当に……?」
みなちゃんがいるのか、と聞きたいのだろう。江藤さんはじっと僕の目を見つめて来る。隣の真鍋さんはキョロキョロと落ち着きなく店内を見回している。
「うん、今も右肩に顔を乗せて嬉しそうな表情をしているよ。
僕はてっきり彼女が……、ちょっと情報を整理していいかな?」
真鍋さんと江藤さんは僕の問い掛けに対して頷いてくれた。少し考えてから、思っている事を口に出して整理をする。
「まず、僕が小さい頃によく遊んでいた、僕の母親の友達の娘さんは、真鍋さんだった」
真鍋さんがこくりと頷く。
「僕はてっきり亡くなってしまったんだと思っていたけれどそれは勘違い、思い違いで、本当は亡くなったのは真鍋さんのお母さん。そしてその事が原因で遠くへ引っ越しをした」
また真鍋さんが頷く。
「う~ん……、だとしたら僕が見ているみなちゃんは一体誰なんだろう」
僕がポリポリと頭を掻くと、江藤さんが不思議そうな表情で僕に尋ねて来た。
「先輩、真菜が先輩に言った『憑いていますよ』って話、あれは真菜が思わず口から出てしまった妄言なんです。真菜は本当はその幽霊の女の子の事、見えてないんです」
あぁ、それは分かっている。分かっているんだけどね。
「何で先輩は、幼馴染みではなかったと判明した幽霊の女の子が見える事、驚かないんですか? 怖くないんですか?」
江藤さんのさらなる問い掛け。真鍋さんもこくこくと頷いて、じっと僕の目を見つめて来る。怖くないのか、と。正体の分からない、どこの誰だか分からない幽霊に憑かれていて不気味ではないのかと、そう聞きたいのだろう。
「そうだね、何故か怖くないんだよ。何でだろうね、不思議な感覚なんだ」
僕自身とても不思議だ。こんな体験した事ないし、幽霊の影すら見た事がなかったのに。
どうして自分がこんな状況になっているのか、検討が付かない。でも見えているんだもの。親しみを感じているんだもの。仕方ないじゃないか。
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