肩に顔乗せ笑う子は……?

なつのさんち

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再会

ちゃんと伝えたい

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真菜まな、あんたの幼馴染さ、最近顔色悪くない? 何かボーッとしてるところばっかり目撃するんだけど」

 私の友達、ちなちゃんこと江藤えとう千夏ちなつが大学で顔を合わせると同時にそう言って来た。
 そんな事言われても、私はのーに声を掛けて以来まともに顔を見れないでいたので、鉢合わせそうになったら道を変えたり、物陰に隠れたりしてしまっていたので分からない。
 自分がやらかしてしまった事とはいえ、「憑いてますよ」なんて言って来た不気味な女とたびたびすれ違うなんて怖いだろう。私も恥ずかしいし。

「そんな事言ってる場合じゃないよ? もしさ、東奥あちおくさんが恋煩いで夜も眠れないでいるとしたらどうする?
 まなちゃんっていう幼馴染の事を思い出す前に、その相手とくっ付いたとしたら、どうする?」

 やたらと私にプレッシャーを掛けて来るちなちゃん。口角が少し上がっている事から、彼女が私とのーの関係を面白がっているのは分かる。
 でも、ちなちゃんが言うようにのーが私が幼馴染のまなであると気付く前に他の人と付き合ってしまうのは辛い。わざわざ引っ越し先からこの生まれ故郷へと帰って来たと言うのに、何の為に彼に会いに来たのか分からないまま初恋が終わってしまう。嫌だ。
 せめて思いを告げ、ダメならダメでちゃんと振られたい。区切りを付けたい。その結果、大学を辞めるなんて事は考えていない。今のところは。

 でも、モヤモヤしたまま今の生活を続けるのは違うと思う。
 うん。ぼちぼちちゃんと声を掛けるべきか。
 私が伝えたかったは、憑いてますよって指摘ではなく、会いたかったっていう想いだったんだって。
 ちゃんと伝えたい。

「うん。ちゃんと言うよ。じゃないと絶対後悔する。
 ありがとうね、ちなちゃん」

 良いって事よっ、と言いながら、ちなちゃんは私の背中を叩いた。叩かれた箇所が熱くなる。ちょっと力入れ過ぎじゃない?

「ごめんごめん、こないだ部屋に泊まりに行った時、怖がらせちゃったからね。背中には何もいないよって意味を込めて叩いたんだ」

「そう言えばそんな事言ってたね」

 忘れてた。ってかその日、一緒にシャワー浴びた後に一緒の布団で寝たんだった。
 でも朝になったら忘れてた。一晩寝たら怖いのなんて忘れてしまう体質らしい。我ながら呑気なもんだ。

「おっと、噂をすれば影ってのはよく言ったもんだね。
 ささっ、私の事は気にせず彼に会いに行くんだぁ~!」

「それ何てフラグ?
 ふふっ、じゃあ行ってきますっ!」

 1人で歩いているのーの背中を発見。ちなちゃんに発破を掛けられて、決心する。今日こそちゃんと伝えよう。
 前回の失敗を繰り返さないよう、何から話すのかを思い浮かべ、ゆっくりと近付いて行く。
 まずは用件を先に伝える。何で声を掛けたのかを言う。何が言いたいのかを先に述べる。うん、大丈夫。冷静に冷静に。

「先輩っ」

 のーの後ろから声を掛ける。私の声に気付いたのーが、ゆっくりとこちらへ振り返った。あっ、確かに顔色が悪い気がする。大丈夫なんだろうか……。

 おっと、冷静に。取り乱さず、ゆっくりと想いを伝える。関西弁ダメ絶対。顔もキリっと引き締めて。クール、ビークール。

「やぁ、真鍋まなべさん。こんにちは」

 顔色は悪い。でもでも、表情が特別暗い訳ではない。声を掛けたのが私だと気付いて、やんわりとした笑顔を浮かべてくれた。私の記憶の中の、小さい頃ののーと同じ笑顔だ。
 ちょっとドキッとした。何かが心の中にじわぁ~っと広がって行くような感じがした。
 うっ、ダメだ必要以上に意識するな。何か顔がぽっぽと熱くなって来た気がするけど気のせいだっ。落ち着け私!

 ゆっくりと口を開いて、用件を告げるっ!!

「改めて答えさせてもらいますっ……!」

 よしっ、いいぞ。ちゃんと言えた。冷静だ、私は冷静だ。
 相変わらず顔はぽっぽと熱を発しているけど、背中は涼しい。さっきちなちゃんに叩かれたところももう痛くない。
 のーを目の前にして、ちょっとずしりと身体が重くなった気がする。これは緊張からかな。リラックスリラックス。幼馴染相手に必要以上に構えなくて良い。気持ちを伝えるだけ。
 鼻から吸って、口からゆっくりと息を吐いて。次の言葉を告げよう。

「私もっ、あの頃からっ……。
 先輩の事、のーの事が、好きでしたっ」

 言えた……。
 私とのーは、両想いだったよって、伝えられた……。

 あぁっ、でも今ののーの、東奥あちおく南朋なおの気持ちは聞いていない。その事に気付いた瞬間、右肩に冷たい何かが触れた気がした。

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