肩に顔乗せ笑う子は……?

なつのさんち

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再会

生まれ故郷

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 母が亡くなった。お腹の中の妹と共に。
 妊娠中の急変だそうで、兆候は以前からあったらしい。後から父に聞かされた。
 妊娠すると味覚が変わり、偏食になる人も多いらしい。母は甘いお菓子を常に食べていないと吐き気を催す、いわゆる食べづわりというタイプだったそうだ。
 詳しくは分からないけれど、妊娠中毒症により母胎のバランスが崩れて、それが原因で亡くなってしまったんじゃないかなと思う。
 あまり父も詳しく話したがらないので、詳細は分からないままだ。

 年に数回しか会わない祖父母達に連れられての突然の引っ越し。
 変わってしまったように塞ぎ込む父親。
 仲の良かったお友達との突然の別れ。
 楽しみにしていた妹が生まれて来なかったという、当時の私には理解し難い状況。
 そして何より、大好きな母親が亡くなったという受け入れがたい事実。

 全てに戸惑い、混乱し、泣いて泣いて泣いた。
 母の死で全てが変わった。
 割と活発な性格で、おてんばな女の子だった私。塞ぎ込んでからは、大人しくて無口な少女になってしまった。何もせず、ぼーっと部屋の隅に座って過ごしていたらしい。

 それでもずっと話さない訳にはいかなかった。関西という土地柄か、すごく構われた。褒めてすかして笑わせてからかわれて。
 気付けば自然と笑えるようになっていた。話し方やノリ、話題等はすっかり関西人と同じになってしまった。
 元からの性格も相まって、友達も口数も増え、小学校に上がる頃には無口な少女って誰やねんとセルフツッコミを入れられる程に精神は回復していた。いや、むしろパワーアップしていたとも言える。
 3歳か4歳の頃、目の色が変だとからかわれて泣いていた事もある。そんな女の子だったのに、今では相手をやり込める事くらい口が回るようになった。
 ただ、その分関西人以外からはキツい性格の子だと思われる事も自覚していた。こればっかはしゃーないよね。

 小学校・中学校・高校とそれなりに過ごした。友達も多く、気になる男子の1人や2人はいた。
 それでも私の中の“のー”はとても大きな存在だった。初恋だからだろうか。
 常に一緒にいた。いて当たり前の存在だった。
 何より、ちゃんとお別れが出来ていなかったのが大きいと思う。区切りが付いていないから、余計に気になってしまう。

 まるで取り憑かれたかのように、私は生まれ故郷へと戻る事が目標になっていた。父が年賀状のやり取りだけ続けていた彼のお母さんからの情報で、彼が地元の大学へ進学した事は知っていた。

 私の進路はその時から決まっていた。
 大学に無事合格し、一人暮らしする部屋を探した。よく遊んだ公園の近くに決めた。
 久し振りに訪れた公園。もしも母の様態が急変せず、無事に元気な妹が生まれていたとすれば、ここでのーと妹と、3人で遊んでいたのだろう。
 そう思いながら公園のベンチで座りながら泣いた。母の事、生まれる事の出来なかった妹。
 両親から妹の名前は何がいいか聞かれ、候補の中から“かな”を選んだのを覚えている。どんな漢字だったのかは分からないけれど、多分私と同じく菜が使われたんじゃないだろうか。

「みな……」

 ポツリと呟く。すでに夕暮れ時。夕日は沈み切っていて、誰もいない公園。私の独り言は行き場もなく消えてしまった。
 帰ろうと立ち上がると風がさーっと吹いて、どこからか小さな子供の声を運んで来た。鈴を転がすような笑い声。小さな、女の子のような声。
 のーと2人で遊んでいた光景を思い出し、また1人涙を流す。

 のーと私。私がこの街に戻って来た理由。でも、今すぐに会うのは勇気が必要。
 本当は先に彼のお母さんと再会したいけど、ほぼ初対面に近い、それも好きな人の母親に会いに行くというのはハードルが高過ぎる。
 
 大学でのーと会おう。そうしよう。
 もしかしたら彼女がいるかも知れない。
 好きな人がいるかも知れない。
 それでも、私はのーと会いたい。会って、久し振りって、笑い合いたい。
 ずっと好きだったと、今も好きだと伝えたい。

 彼は私の事、すぐに思い出してくれるだろうか。
 いやその前に、関西弁が出ないように気を付けて話さないと!
 関西弁が出ないように標準語で……、大人しい振りをして話し掛けないと。
 ヤバイ、すぐにでも会いたいけど会う前に色々と練習せんとアカン気がする。
 誰やこの関西女って思われたら嫌やっ!!

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