7 / 17
出会い
小さくて冷たい手
しおりを挟む
家に帰るまでの道中、みなちゃんが僕の問い掛けに答えてくれる事はなかった。人目があるので、みなちゃんへ心の中で話し掛けていた。
返事はなかった。
伝わっているかどうかも確かではなかったので、家に帰り、自分の部屋で声に出してみなちゃんへ問い掛けてみたが、同じく返事をしてくれない。
みなちゃんはただ、ぼんやりと僕の目を見つめ返して来るだけだ。
久しぶりにあの公園に行って、みなちゃんにも何か心境の変化があったんだろうか。生前を思い出して、哀しくなっちゃったのかな?
「大丈夫だよ、みなちゃん。僕はずっと君の傍にいるからね」
本当は逆だ。みなちゃんがずっと僕の傍にいるんだ。みなちゃんが僕に取り憑いているのだから。
けれど、僕にとってはどっちだって同じだ。卵が先か鶏が先か、それだけの違いなんだ。
僕は今さらみなちゃんがどこかに行ってしまうなんて、そんな事考えたくない。
みなちゃんはずっと僕の傍にいてくれていた。
そして今、僕はみなちゃんと共にいる。
やっと波長が合ったのだ。霊感はないと思っていたけれど、みなちゃんの事は見えるし、背中に触れた小さくて冷たい手を感じる事も出来る。
他の幽霊はまだ見た事がないから、僕に見える幽霊はみなちゃんだけなのだろう。そんな事はどうでもいい。
みなちゃんさえ見る事が出来れば、その他の幽霊が見えようが見えまいが関係ない。些細な問題だ。
僕が何度か大丈夫だと語り掛け、ずっと一緒にいると約束すると、みなちゃんはゆっくりと頷いてくれた。
良かった。僕の気持ちはみなちゃんに伝わっているんだ。
「お前、最近顔色が良くないけど心配事でもあるのか?」
「お前、最近楽しそうだよな? 何か良い事でもあったのか?」
最近、このような相反する事を複数の友達から言われる。僕にはどちらも心当たりがある。
心配事については、みなちゃんがなかなか元に戻らない事について。
良い事については、みなちゃんが少しずつ反応を示してくれるようになった事について。
僕は常にみなちゃんがどこにいるかを気に掛けながら過ごした。大学に行く時はもちろん、用事で出掛ける際や友達といる時でさえ、鏡越しにみなちゃんが背中にいるかを確認するのが癖になった。
友達はそんなに髪型を気にするような奴だったか? と僕の行動を不信に思っているみたいだけど。
なるほど、髪の毛を気にしている風に見せれば、みなちゃんの姿を見る際に不自然にはならないね。
(そうは言っても髪型なんて全く気にしてないんだけどね)
『そう……』
少しずつではあるが、心の中で話し掛ければ答えてくれるようになって来た。
あまりにも反応が少ないので、もしかしてこのまま成仏してしまうんじゃないかと焦ったりもした。
いや、成仏するのはとても良い事のはずなんだけどね。
僕としては1人置いて行かれるような気がして、素直には喜べそうにない。
みなちゃんがどこかへ消えてしまったとしたら、しばらく、いや死ぬまで立ち直れない可能性まである。
でもみなちゃんの様子はそんな風でもなく、例えるならば言葉を忘れてしまったというか、言葉が分からない赤ん坊のような状態になったと言うべきか。
死んでしまった後も、僕と共に10数年を過ごして幽霊でありながら精神的な成長をしていたと思われるみなちゃんだけど、その10数年の経験が公園に行ったのをきっかけに失くなってしまったような感じ。上手く言えないけど。
だから僕はみなちゃんに積極的に話し掛けて、これはこうで、あれはあぁで、と1つ1つ説明するように努めた。忘れてしまった物事を思い出してもらおうと、1から丁寧に教えるようにしたんだ。
すると、少しずつではあるがみなちゃんが反応を見せてくれて、ある程度のコミュニケーションが取れるようになったんだ。
表情は明るくなく、声質も低いまま。それも自分が死んでしまった事をこれでもかと自覚させてしまったせいなのだろう。僕のせいだ。
だから、僕がみなちゃんの傍にいてあげないと。みなちゃんには僕しかいないのだから。
返事はなかった。
伝わっているかどうかも確かではなかったので、家に帰り、自分の部屋で声に出してみなちゃんへ問い掛けてみたが、同じく返事をしてくれない。
みなちゃんはただ、ぼんやりと僕の目を見つめ返して来るだけだ。
久しぶりにあの公園に行って、みなちゃんにも何か心境の変化があったんだろうか。生前を思い出して、哀しくなっちゃったのかな?
「大丈夫だよ、みなちゃん。僕はずっと君の傍にいるからね」
本当は逆だ。みなちゃんがずっと僕の傍にいるんだ。みなちゃんが僕に取り憑いているのだから。
けれど、僕にとってはどっちだって同じだ。卵が先か鶏が先か、それだけの違いなんだ。
僕は今さらみなちゃんがどこかに行ってしまうなんて、そんな事考えたくない。
みなちゃんはずっと僕の傍にいてくれていた。
そして今、僕はみなちゃんと共にいる。
やっと波長が合ったのだ。霊感はないと思っていたけれど、みなちゃんの事は見えるし、背中に触れた小さくて冷たい手を感じる事も出来る。
他の幽霊はまだ見た事がないから、僕に見える幽霊はみなちゃんだけなのだろう。そんな事はどうでもいい。
みなちゃんさえ見る事が出来れば、その他の幽霊が見えようが見えまいが関係ない。些細な問題だ。
僕が何度か大丈夫だと語り掛け、ずっと一緒にいると約束すると、みなちゃんはゆっくりと頷いてくれた。
良かった。僕の気持ちはみなちゃんに伝わっているんだ。
「お前、最近顔色が良くないけど心配事でもあるのか?」
「お前、最近楽しそうだよな? 何か良い事でもあったのか?」
最近、このような相反する事を複数の友達から言われる。僕にはどちらも心当たりがある。
心配事については、みなちゃんがなかなか元に戻らない事について。
良い事については、みなちゃんが少しずつ反応を示してくれるようになった事について。
僕は常にみなちゃんがどこにいるかを気に掛けながら過ごした。大学に行く時はもちろん、用事で出掛ける際や友達といる時でさえ、鏡越しにみなちゃんが背中にいるかを確認するのが癖になった。
友達はそんなに髪型を気にするような奴だったか? と僕の行動を不信に思っているみたいだけど。
なるほど、髪の毛を気にしている風に見せれば、みなちゃんの姿を見る際に不自然にはならないね。
(そうは言っても髪型なんて全く気にしてないんだけどね)
『そう……』
少しずつではあるが、心の中で話し掛ければ答えてくれるようになって来た。
あまりにも反応が少ないので、もしかしてこのまま成仏してしまうんじゃないかと焦ったりもした。
いや、成仏するのはとても良い事のはずなんだけどね。
僕としては1人置いて行かれるような気がして、素直には喜べそうにない。
みなちゃんがどこかへ消えてしまったとしたら、しばらく、いや死ぬまで立ち直れない可能性まである。
でもみなちゃんの様子はそんな風でもなく、例えるならば言葉を忘れてしまったというか、言葉が分からない赤ん坊のような状態になったと言うべきか。
死んでしまった後も、僕と共に10数年を過ごして幽霊でありながら精神的な成長をしていたと思われるみなちゃんだけど、その10数年の経験が公園に行ったのをきっかけに失くなってしまったような感じ。上手く言えないけど。
だから僕はみなちゃんに積極的に話し掛けて、これはこうで、あれはあぁで、と1つ1つ説明するように努めた。忘れてしまった物事を思い出してもらおうと、1から丁寧に教えるようにしたんだ。
すると、少しずつではあるがみなちゃんが反応を見せてくれて、ある程度のコミュニケーションが取れるようになったんだ。
表情は明るくなく、声質も低いまま。それも自分が死んでしまった事をこれでもかと自覚させてしまったせいなのだろう。僕のせいだ。
だから、僕がみなちゃんの傍にいてあげないと。みなちゃんには僕しかいないのだから。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる