肩に顔乗せ笑う子は……?

なつのさんち

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出会い

小さくて冷たい手

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 家に帰るまでの道中、みなちゃんが僕の問い掛けに答えてくれる事はなかった。人目があるので、みなちゃんへ心の中で話し掛けていた。
 返事はなかった。
 伝わっているかどうかも確かではなかったので、家に帰り、自分の部屋で声に出してみなちゃんへ問い掛けてみたが、同じく返事をしてくれない。
 みなちゃんはただ、ぼんやりと僕の目を見つめ返して来るだけだ。
 久しぶりにあの公園に行って、みなちゃんにも何か心境の変化があったんだろうか。生前を思い出して、哀しくなっちゃったのかな?

「大丈夫だよ、みなちゃん。僕はずっと君の傍にいるからね」

 本当は逆だ。みなちゃんがずっと僕の傍にいるんだ。みなちゃんが僕に取り憑いているのだから。
 けれど、僕にとってはどっちだって同じだ。卵が先か鶏が先か、それだけの違いなんだ。
 僕は今さらみなちゃんがどこかに行ってしまうなんて、そんな事考えたくない。
 みなちゃんはずっと僕の傍にいてくれていた。
 そして今、僕はみなちゃんと共にいる。
 やっと波長が合ったのだ。霊感はないと思っていたけれど、みなちゃんの事は見えるし、背中に触れた小さくて冷たい手を感じる事も出来る。
 他の幽霊はまだ見た事がないから、僕に見える幽霊はみなちゃんだけなのだろう。そんな事はどうでもいい。
 みなちゃんさえ見る事が出来れば、その他の幽霊が見えようが見えまいが関係ない。些細な問題だ。
 僕が何度か大丈夫だと語り掛け、ずっと一緒にいると約束すると、みなちゃんはゆっくりと頷いてくれた。
 良かった。僕の気持ちはみなちゃんに伝わっているんだ。


「お前、最近顔色が良くないけど心配事でもあるのか?」

「お前、最近楽しそうだよな? 何か良い事でもあったのか?」

 最近、このような相反する事を複数の友達から言われる。僕にはどちらも心当たりがある。
 心配事については、みなちゃんがなかなか元に戻らない事について。
 良い事については、みなちゃんが少しずつ反応を示してくれるようになった事について。

 僕は常にみなちゃんがどこにいるかを気に掛けながら過ごした。大学に行く時はもちろん、用事で出掛ける際や友達といる時でさえ、鏡越しにみなちゃんが背中にいるかを確認するのが癖になった。
 友達はそんなに髪型を気にするような奴だったか? と僕の行動を不信に思っているみたいだけど。
 なるほど、髪の毛を気にしている風に見せれば、みなちゃんの姿を見る際に不自然にはならないね。

(そうは言っても髪型なんて全く気にしてないんだけどね)

『そう……』

 少しずつではあるが、心の中で話し掛ければ答えてくれるようになって来た。
 あまりにも反応が少ないので、もしかしてこのまま成仏してしまうんじゃないかと焦ったりもした。
 いや、成仏するのはとても良い事のはずなんだけどね。
 僕としては1人置いて行かれるような気がして、素直には喜べそうにない。
 みなちゃんがどこかへ消えてしまったとしたら、しばらく、いや死ぬまで立ち直れない可能性まである。

 でもみなちゃんの様子はそんな風でもなく、例えるならば言葉を忘れてしまったというか、言葉が分からない赤ん坊のような状態になったと言うべきか。
 死んでしまった後も、僕と共に10数年を過ごして幽霊でありながら精神的な成長をしていたと思われるみなちゃんだけど、その10数年の経験が公園に行ったのをきっかけに失くなってしまったような感じ。上手く言えないけど。

 だから僕はみなちゃんに積極的に話し掛けて、これはこうで、あれはあぁで、と1つ1つ説明するように努めた。忘れてしまった物事を思い出してもらおうと、1から丁寧に教えるようにしたんだ。
 すると、少しずつではあるがみなちゃんが反応を見せてくれて、ある程度のコミュニケーションが取れるようになったんだ。
 表情は明るくなく、声質も低いまま。それも自分が死んでしまった事をこれでもかと自覚させてしまったせいなのだろう。僕のせいだ。
 だから、僕がみなちゃんの傍にいてあげないと。みなちゃんには僕しかいないのだから。

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